分類5|脳の物理的な障害・圧迫約6分で読めます
慢性外傷性脳症(CTE)とは?
繰り返す頭部への衝撃が引き起こす脳変性
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
田中剛さん(仮名・52歳)は元プロボクサーで、15年間の現役生活で数百回以上の頭部への打撃を受けてきました。引退後は穏やかな生活を送っていましたが、40代後半から少しずつ変わっていきました。
些細なことで激しく怒る。家族の言葉を誤解して怒鳴る。落ち込みがひどく、「生きていてもしょうがない」という言葉も出るようになりました。記憶の問題も出てきて、言葉がうまく出なくなることが増えました。
妻の悦子さんが「もしかしてCTE(慢性外傷性脳症)じゃないか」という記事をネットで見て、専門医への受診を決めました。
「CTE は現時点では生前診断が確定できない疾患です」と専門医は説明しました。「ただ、ボクシングの経歴・症状・MRIの所見を総合すると、CTE の可能性が高いと考えられます」。
認知・精神症状に対する薬物療法と、感情管理のための心理療法が開始されました。「確定診断ができないことが、一番つらいですね」と悦子さんは言います。「夫の苦しさが、あの試合での蓄積から来ているかもしれない——そう思うと複雑な気持ちになります」
広告
基礎知識の解説
慢性外傷性脳症(CTE)とは
慢性外傷性脳症(CTE)は、繰り返す頭部への衝撃(コンタクトスポーツ・格闘技・軍事訓練など)によって引き起こされる進行性の神経変性疾患です。タウタンパクが脳内(特に前頭葉・側頭葉・辺縁系)に蓄積し、行動変容・感情障害・認知機能低下・うつ・自殺リスク増加をもたらします。現在は死後の脳組織検査でのみ確定診断が可能です。
主な症状
- 1行動・感情の変化(易怒性・攻撃性・衝動性)
- 2抑うつ・躁状態・不安
- 3自殺企図(高い自殺リスク)
- 4認知機能低下(記憶・注意・実行機能)
- 5言語障害(言葉が出にくい)
- 6パーキンソン様運動症状(後期)
- 7認知症(進行した場合)
- 8発症が引退後数年〜数十年後のことが多い
原因・メカニズム
頭部への繰り返す衝撃(特にサブコンカッション:自覚症状なしの軽微な衝撃の蓄積)により、脳内に異常タウが蓄積します。血管周囲・神経細胞内にタウが特徴的なパターンで沈着し(血管周囲タウ病理)、アルツハイマー病のタウとは分布パターンが異なります。慢性炎症・軸索損傷も関与します。
診断
現時点では確定診断に脳剖検が必要です(生前診断の確立が研究課題)。頭部MRIでは高度進行例で脳萎縮・中隔透明腔の拡大が見られますが、初期は所見が乏しいです。タウPET検査が生前診断の手段として研究されています。コンタクトスポーツ歴と症状パターンから臨床的に推定します。
治療・ケア
根治療法はありません。抑うつ・不安にはSSRI・気分安定薬を使用します。認知症症状には現時点でエビデンスのある特異的治療はなく、対症療法が中心です。自殺リスクへの精神科的管理が重要です。社会的・心理的サポートが不可欠です。
予後・経過
症状の重さ・進行速度は個人差が大きいです。自殺が最大の死亡原因の一つです。コンタクトスポーツの安全ルール整備(ヘッドガード使用・コンカッションプロトコル)が予防の鍵です。
この疾患の重要ポイント
- •コンタクトスポーツ選手(ボクシング・アメフト・ラグビー・格闘技等)のリスクを正確に伝える重要性
- •「コンカッション(脳震盪)ではなくサブコンカッション(自覚症状なしの軽微な衝撃)の蓄積が危険」
- •生前確定診断が現時点ではできない——症状と既往歴から臨床的に推定する
- •自殺リスクが非常に高く、精神科的支援が最重要課題の一つ
- •スポーツ界でのコンカッションプロトコル整備・教育が最善の予防策
広告