分類2血管性認知症10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

脳アミロイドアンギオパチーとは?

血管にアミロイドが溜まり出血しやすくなる

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体験談・具体的な事例

水野純子さん(仮名・78歳)は夕食の片付けをしていたとき、突然「後頭部に感電したような頭痛」を訴えてその場に倒れました。夫の正雄さんが救急車を呼び、搬送先で頭部CTを撮影すると左後頭葉の皮質下に約15mLの出血巣が確認されました。「血圧は昨日まで130台で安定していたのに、なぜ?」と正雄さんは困惑しました。 転院先の大学病院でMRI磁化率強調画像(SWI)が撮影されました。担当の神経内科医は画像を示しながら説明しました。「脳のあちこちに直径2〜5mmの黒い点が12か所あります。これは過去の微小出血(マイクロブリード)の痕跡です。脳アミロイドアンギオパチー——CAAと呼ばれる病気で、アルツハイマー病と同じアミロイドβというタンパクが脳の血管壁に沈着し、血管が脆くなって出血しやすくなっている状態です」。純子さんのApoE遺伝子検査ではε4アレルが陽性で、Aβの血管沈着が加速しやすい体質であることが判明しました。 治療方針をめぐって正雄さんが最も戸惑ったのは「ダブルバインド」でした。純子さんには10年来の心房細動があり、本来なら脳梗塞予防のために経口抗凝固薬が必要です。しかしCAAがある場合、抗凝固薬は脳出血リスクをさらに高めます。「飲めば心臓の血栓は防げるが脳出血が怖い。飲まなければ心原性脳塞栓が怖い」——正雄さんはこの板挟みを「どちらを選んでも正解がない賭け」と表現しました。 神経内科・循環器内科の合同カンファレンスが開かれ、HAS-BLEDスコア(出血リスク)とCHA₂DS₂-VAScスコア(脳梗塞リスク)を照合した結果、DOAC(アピキサバン2.5mg×1日2回の最小量)を慎重投与する方針が決まりました。「SWIでのマイクロブリード数と血圧管理状況を3ヶ月ごとにMRIで追う」という厳密なモニタリング計画が立てられました。 退院時の純子さんのMMSEは24/30でした(出血前は推定27/30程度)。記憶・視空間認識に支障が残り、料理の手順が分からなくなることが増えました。正雄さんは「転倒ゼロ」を目標に自宅を整備しました。浴室に手すりを3か所追加し、廊下の段差マットを撤去、純子さんの靴底を滑り止め素材に交換しました。「頭を打ったら次の出血が命取りになるかもしれない——それが怖い」と正雄さんは言います。 半年が経ち、純子さんは週2回のデイサービスに通いながら在宅生活を続けています。血圧は収縮期125mmHg前後で管理できており、MRIで新たなマイクロブリードの増加は確認されていません。「また頭痛が来るかもしれないと思うと夜中に目が覚めてしまう」——正雄さんの不安は消えませんが、「今日も出血しなかった、今日もよく眠れた、その積み重ねが自信になってきた」と話してくれました。

基礎知識の解説

脳アミロイドアンギオパチーとは

脳アミロイドアンギオパチー(CAA)は、脳の細小動脈壁にアミロイドβが沈着し血管が脆弱化することで、脳の表面(皮質・皮質下)に繰り返し出血を起こす疾患です。主に70歳以上の高齢者に多く、APOE ε4遺伝子保有者でリスクが高まります。アルツハイマー病との合併が多く、出血のたびに認知機能が段階的に低下します。Boston基準v2.0(2022改訂)により臨床診断が可能で、SWI上のマイクロブリード分布が診断の要です。

主な症状

  • 1繰り返す脳出血(特に後頭葉・頭頂葉など皮質・皮質下に多い)
  • 2突然の激しい頭痛(出血時)
  • 3一過性の神経症状(数分〜数時間の片側麻痺・感覚異常・視覚症状)
  • 4認知機能低下(記憶・実行機能・視空間認識)
  • 5歩行障害・バランス障害(白質病変の蓄積)
  • 6抑うつ・無気力・意欲低下
  • 7てんかん発作(血腫による皮質刺激)
  • 8表在性鉄沈着症(superficial siderosis)によるくも膜下腔の反復微小出血
  • 9視覚症状・後頭部の閃輝暗点様症状(後頭葉病変)
  • 10混乱・せん妄(急性出血時の意識変容)

原因・メカニズム

アミロイドβペプチドが脳の小〜中動脈の血管壁(中膜・外膜)に沈着すると、血管の弾性・強度が低下し微細な血管破綻が繰り返されます。Aβの血管沈着はAPOE ε4遺伝子保有者で著しく加速するため、CAAとアルツハイマー病の合併が多い。皮質・皮質下出血(lobar hemorrhage)が好発部位であり、高血圧性脳出血が好む被殻・視床・橋(深部出血)とは分布が異なるため鑑別の手がかりとなります。superficial siderosis(表在性鉄沈着症)は、くも膜下腔への微小出血が繰り返された結果として鉄沈着が起き、難聴・小脳失調を伴うことがあります。慢性的な血流障害は白質病変を蓄積させ、実行機能・処理速度の低下にも寄与します。

診断

Boston基準v2.0(2022改訂)により、definite CAA(病理確定)/ probable CAA(MRI所見で2個以上のlobar microbleedまたはlobar macrohemorrhageなど)/ possible CAA(単一病変または高齢者の脳出血)の3段階に分類されます。MRI SWI(磁化率強調画像)またはGRE(T2*)画像で多発する低信号のマイクロブリードを確認します。後頭葉・頭頂葉に偏在するマイクロブリードパターンが高血圧性変化(基底核・視床優位)と区別するポイントです。アミロイドPET(ピッツバーグ化合物B:PiB-PET)で血管・実質双方のAβ蓄積を可視化でき、アルツハイマー病変の合否も同時評価できます。確定診断は病理組織検査が必要ですが、臨床的にはMRI所見と臨床情報を組み合わせたBoston基準による診断が標準です。

治療・ケア

根治療法はなく、出血予防と認知機能維持が治療の軸です。血圧管理が最重要で、目標収縮期血圧は120〜130mmHgとします(高血圧の残存は出血リスクを顕著に高める)。抗凝固薬・抗血小板薬はマイクロブリード数・出血歴・脳梗塞リスクを総合的に評価して慎重に判断します。心房細動合併例でDOAC投与を決定する場合は最小用量(アピキサバン2.5mg×1日2回など)で開始し、SWIを定期的に追跡します(Lovelock JE 2020の観察研究参照)。転倒リスク評価(Tinetti fall risk score)と環境整備(手すり設置・段差解消・滑り止め床材)が出血予防の実践的手段です。認知症症状に対してはドネペジルなどコリンエステラーゼ阻害薬を考慮しますが、CAA自体への直接効果は限定的です。

予後・経過

繰り返す脳出血により認知機能が段階的に低下します。1回の大きな出血で急激に悪化することもあり、後遺障害が残るケースも多いです。アルツハイマー病との合併例では認知症の進行が速い傾向があります。血圧の厳格管理とDOACの慎重投与により出血リスクをある程度抑制できますが、CAAそのものの進行を止める治療はまだ存在しません。転倒ゼロを目指した生活環境整備が予後に大きく影響します。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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参考文献

  1. [1]Greenberg SM, Charidimou ADiagnosis of cerebral amyloid angiopathy: evolution of the Boston criteriaStroke. 2018;49(2):491-497 (2018)
  2. [2]Charidimou A, Boulouis G, Gurol ME, et al.Emerging concepts in sporadic cerebral amyloid angiopathyBrain. 2017;140(7):1829-1850 (2017)
  3. [3]Knudsen KA, Rosand J, Karluk D, Greenberg SMClinical diagnosis of cerebral amyloid angiopathy: validation of the Boston criteriaNeurology. 2001;56(4):537-539 (2001)
  4. [4]日本神経学会脳小血管病診療ガイドライン2017医学書院 (2017)

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