分類2|血管性認知症約6分で読めます
脳血管性認知症(CADASIL)とは?
遺伝性の小血管病による若年発症認知症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
田村浩一さん(仮名・38歳)は、30代前半から繰り返す片頭痛に悩まされていました。ある日、突然右手に力が入らなくなり、言葉がつかえました。救急病院のMRIで脳に多数の白質病変と小梗塞が見つかりました。
「38歳でこんなに脳の血管が傷んでいるのは、通常の動脈硬化では説明できない」と担当医は言いました。両親への聴き取りで、父方の祖父が40代で「脳梗塞を繰り返し認知症になった」こと、父の兄も50代で同様の経過をたどったことがわかりました。
遺伝子検査でNOTCH3遺伝子の変異が確認され、「CADASIL(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症)」と診断されました。
「自分の子どもに遺伝するかもしれない」という事実が、浩一さんを最も苦しめました。遺伝カウンセラーとの面談を重ね、妻の明子さんとともに「今できることを精一杯やる」と決めました。
現在は抗血小板薬を服用し、血圧・血糖・脂質を厳格に管理しています。45歳になった今も軽度の認知機能低下はありますが、仕事を続けています。「この病気を知らなければ、もっと早く悪化していたかもしれない。知って対策できていることは、むしろラッキーだと思うようにしている」と浩一さんは語ります。
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基礎知識の解説
脳血管性認知症(CADASIL)とは
CADASIL(Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy)は、NOTCH3遺伝子の変異による常染色体優性遺伝の脳小血管病です。若年〜中年期から繰り返す脳梗塞・認知症・片頭痛・精神症状が現れます。高血圧などの危険因子がなくても発症するのが特徴です。
主な症状
- 1繰り返す脳卒中(一過性脳虚血発作・脳梗塞)
- 2片頭痛(特に前兆を伴う)
- 3認知機能低下(実行機能・注意・処理速度)
- 4精神症状(抑うつ・無関心)
- 5大脳白質の広範な病変
- 6歩行障害・バランス障害
- 7偽性球麻痺(構音障害・嚥下障害)
- 8認知症(40〜60代に進行)
原因・メカニズム
NOTCH3遺伝子変異により異常なNOTCH3タンパクが産生され、脳の細い血管の平滑筋細胞に蓄積します(GOM沈着)。血管壁の変性・閉塞が起き、脳深部の白質への慢性虚血が生じます。通常の動脈硬化とは異なるメカニズムで、若年者でも脳血管が傷みます。
診断
NOTCH3遺伝子検査で確定診断します。MRIでは前側頭極・外包・大脳白質の特徴的な病変が重要な手がかりです(前側頭極病変は感度・特異度が高い)。皮膚生検でGOM沈着を確認することもできます。家族歴の確認が診断の糸口となります。
治療・ケア
根治療法はありません。脳梗塞の再発予防(抗血小板薬・危険因子管理)が主体です。抗凝固薬は出血リスクから推奨されません。片頭痛にはトリプタン系薬剤を使用します。遺伝カウンセリングが家族全体の支援に不可欠です。
予後・経過
50〜60代に重篤な認知症・歩行障害が出現し、最終的に寝たきりになることが多いです。発症年齢・進行速度には家族内でも個人差があります。
この疾患の重要ポイント
- •「若い人の脳梗塞+家族歴」はCADASILを疑う重要なサイン
- •高血圧がなくても脳血管が傷む——「生活習慣病ではないのになぜ?」という患者の疑問に答える
- •常染色体優性遺伝で子への遺伝確率50%——遺伝カウンセリングが必須
- •前側頭極のMRI白質病変がCADASILに特徴的——診断の重要な所見
- •抗凝固薬は禁忌に近い——出血リスクの観点から抗血小板薬を選択
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