分類3感染症によるもの10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

クリプトコッカス髄膜炎とは?

真菌による髄膜炎が引き起こす認知障害

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

症状のことや介護の悩みを、認知症を専門とする医師に直接相談できます。お試し相談 ¥1,000・48時間以内に回答。

相談する

体験談・具体的な事例

石田修一さん(仮名・46歳)が腎移植を受けて3年が経っていました。免疫抑制薬(タクロリムス+ミコフェノール酸モフェチル)を欠かさず服用し、拒絶反応なく過ごしてきた「順調な移植後生活」でした。 異変が始まったのは3週間前からでした。後頭部が重く、拍動に合わせてドクドクと痛む頭痛です。移植後の体調不良だろうと思い、市販の鎮痛剤を飲んでいましたが改善しません。1週間前から視野の端がぼやける感覚が出てきて、鏡を見ると右目の奥に違和感を覚えました。移植科の主治医に相談すると「免疫抑制薬を使っている患者の頭痛は絶対に軽視してはいけない」と即日神経内科に紹介されました。 腰椎穿刺を行うと、脳脊髄液の開放圧は380mmH₂O——正常値(70〜200)の2倍近い値でした。外観は透明でしたが、墨汁染色を顕微鏡で観察すると「丸い胞子が黒い背景に透明な輪(莢膜)を伴って点在」していました。「クリプトコッカスです」と検査担当医が告げました。血清・髄液クリプトコッカス抗原(LFAラテラルフロー法)は1:2048と著明に高値でした。 「この菌は鳩の糞など土壌環境に広く存在しています。健康な方では感染しませんが、免疫抑制薬で防御が下がったことで菌が増殖し、血液を経由して脳に達したと考えられます」と担当医が修一さんと妻に説明しました。 治療はアムホテリシンBリポソーム製剤(L-AmB)3〜5mg/kg/日とフルシトシン100mg/kg/日の2剤で開始されました。同時に開放圧を下げることが急務でした。「頭蓋内圧が高いと視神経が障害されて失明します」——2日に1回の腰椎穿刺で開放圧を200mmH₂O以下に管理しました。3回目の穿刺の後、修一さんが「頭痛がすっと楽になった」と言いました。圧力を下げるだけで症状が劇的に改善する——これがクリプトコッカス髄膜炎の治療の独自な点です。 2週間の誘導療法(L-AmB+フルシトシン)を終えた後、フルコナゾール400mg/日の地固め療法に移行しました(8週間)。その後は200mg/日を長期維持療法として継続します。「免疫抑制を続ける限り、維持療法も続けます。自己判断での中断は再発の危険があります」と主治医は繰り返し伝えました。 退院後の修一さんは集中力の低下と易疲労感を感じています。「感染が治っても、頭の中が前と違う感じがする」と妻に話します。担当医は「脳への影響が残ることはあります。ただフルコナゾールを継続することで再燃を防ぎ、認知機能が少しずつ回復する方もいます」と伝えました。月1回の外来で抗原価を追いながら、修一さんの回復を見守っています。

基礎知識の解説

クリプトコッカス髄膜炎とは

クリプトコッカス髄膜炎は、Cryptococcus neoformans(またはC. gattii)という莢膜を持つ担子菌酵母が髄膜・脳実質に感染する重篤な日和見感染症です。HIV/AIDS・固形臓器移植後・ステロイド長期使用者など細胞性免疫低下状態に多く発症します。亜急性経過で頭痛・発熱・頭蓋内圧亢進が進行し、治療しなければ失明や死亡を招きます。誘導療法(L-AmB+フルシトシン)と長期維持療法(フルコナゾール)、および頭蓋内圧管理が治療の柱です。

主な症状

  • 1亜急性の頭痛(2〜6週間かけて増悪、拍動性・後頭部重圧感)
  • 2発熱(しばしば軽度・弛張熱)
  • 3頭蓋内圧亢進症状(悪心・嘔吐・視力障害・視野狭窄)
  • 4視神経乳頭浮腫(眼底鏡で確認、失明リスク)
  • 5髄膜刺激症状(項部硬直・Kernig徴候)
  • 6意識障害・錯乱・見当識障害
  • 7脳神経麻痺(動眼神経・外転神経麻痺による複視)
  • 8聴力障害(第VIII脳神経障害)
  • 9認知機能低下・記憶障害(後遺症)
  • 10易疲労感・集中力低下(後遺症として持続)

原因・メカニズム

Cryptococcus neoformansは鳥(特に鳩)の糞などの土壌に広く存在し、乾燥した胞子を吸入することで感染します。免疫機能が正常な場合は肺内で排除されますが、細胞性免疫低下状態では増殖し血行散布されます。脳への侵入には血液脳関門を単球(マクロファージ)内に潜伏した「トロイの木馬」様の機序で通過します(細胞内寄生による免疫回避)。莢膜多糖(グルクロノキシロマンナン)は補体固定を阻害し食食作用を逃れ、活性酸素への抵抗性も持ちます。脳内では菌体・多糖がくも膜顆粒を閉塞してCSFの吸収を障害し、頭蓋内圧亢進(視神経乳頭浮腫・失明の原因)を引き起こします。

診断

IDSA診療ガイドライン(Perfect 2010)に基づき、症状・危険因子・髄液所見・培養・抗原検査を総合して診断します。クリプトコッカス抗原検査(LFAラテラルフロー法)は感度100%・特異度98%と極めて優秀なスクリーニング検査で、血清・髄液両方に使用できます。墨汁染色は感度約80%で莢膜を持つ酵母を直接確認できます。培養(血液・髄液)は確定診断に必要ですが結果まで1〜2週間かかります。髄液所見はリンパ球優位の軽度細胞増多・タンパク上昇・糖低下が典型的ですが、高度免疫不全例では炎症反応がほとんど見られないことがあります。開放圧の測定は治療方針決定に必須です(200mmH₂O超なら即日圧管理を開始)。

治療・ケア

IDSA推奨の3段階療法で行います。【誘導療法(2週間)】アムホテリシンBリポソーム製剤(L-AmB)3〜5mg/kg/日+フルシトシン100mg/kg/日(腎機能に応じて調整)。【地固め療法(8週間)】フルコナゾール400mg/日に変更します。【維持療法(長期)】フルコナゾール200mg/日を継続します(免疫回復まで)。頭蓋内圧管理は抗真菌薬と同等に重要で、開放圧>200mmH₂Oでは2日に1回の腰椎穿刺で200mmH₂O以下に保ちます。繰り返す腰椎穿刺が困難な場合は脳室ドレナージや腰椎ドレナージを検討します。フルシトシンは骨髄抑制・肝機能障害のモニタリングが必要です。

予後・経過

適切な治療でHIV患者での死亡率は10〜20%ですが、移植後患者では15〜40%と報告されています。治療が遅れた場合や重篤な頭蓋内圧亢進例では失明・死亡のリスクが高まります。後遺症として認知機能低下・視力障害・易疲労感が残ることがあります。維持療法の自己中断後の再発率が高く、長期フォローが必須です。

クリプトコッカス髄膜炎についてもっと詳しく相談したい方へ

クリプトコッカス髄膜炎に関するご疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。

お試し相談 ¥1,000(初回1回限定)・48時間以内に医師が回答

医師査読済コンテンツ

本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

査読基準・検証フローを確認する →
公開日: 最終更新日:

参考文献

  1. [1]Perfect JR, et al.Clinical practice guidelines for the management of cryptococcal disease: 2010 update by the Infectious Diseases Society of AmericaClin Infect Dis. 50(3):291-322 (2010)
  2. [2]Rajasingham R, et al.Global burden of disease of HIV-associated cryptococcal meningitis: an updated analysisLancet Infect Dis. 17(8):873-881 (2017)
  3. [3]Dismukes WECryptococcal meningitis in patients with AIDSJ Infect Dis. 157(4):624-628 (1988)
  4. [4]日本医真菌学会クリプトコッカス症診療ガイドライン日本医真菌学会 (2012)

本サイトの医療コンテンツは医師による査読を経て公開しています。

監修ポリシーを確認する →