分類3感染症によるもの10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

結核性髄膜炎とは?

結核菌が髄膜に感染して起こる重篤な疾患

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

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体験談・具体的な事例

鈴木葵さん(仮名・32歳)は東南アジア出身の留学生で、幼少期にBCGワクチンを接種したことがありませんでした。日本の大学院に進学して2年目の秋、2週間続く微熱と頭痛を「疲れかな」と放置していました。ところが3週目に入って首を前に曲げると激しく痛む「項部硬直」が出現し、夜中に意識が朦朧として大学の寮仲間が救急車を呼びました。 搬送先の神経内科で腰椎穿刺が施行されました。脳脊髄液の開放圧は280mmH₂O(正常値70〜180)と著明に上昇しており、外観は無色透明でしたが「キサントクロミー(黄色調)」を帯びていました。髄液糖は25mg/dL——当日の血糖の40%未満で、結核性髄膜炎に特徴的な極度の低糖髄液でした。タンパクは120mg/dL、細胞数はリンパ球優位で85/μLでした。さらにADA(アデノシンデアミナーゼ)値が18U/Lと上昇しており(基準値>10U/Lが結核性を示唆)、担当医は「これは結核性髄膜炎の可能性が非常に高い」と判断しました。 胸部CTでは肺尖部に石灰化陰影と粟粒影が確認されました。QFT(クォンティフェロン)検査は陽性。MRIでは基底槽の造影効果(基底槽炎)に加え、右小脳に直径8mmの結核腫(tuberculoma)、さらに軽度の脳室拡大(閉塞性水頭症の初期)が認められました。髄液GeneXpert MTB/RIF検査でMycobacterium tuberculosis DNAが検出され、診断が確定しました。 治療は診断確定と同時に、HRZE4剤(イソニアジド300mg/日・リファンピシン600mg/日・ピラジナミド25mg/kg/日・エタンブトール15mg/kg/日)で開始されました。「培養結果は6〜8週間かかりますが、待てません」と担当医は葵さんの両親に英語で説明しました。治療開始から約30時間後、葵さんに発熱の一時的悪化と頭痛増強が起きました。「ハーシュハイマー反応に類似した、菌の大量崩壊による炎症反応と考えられます」——この「一時的な悪化」を乗り越えることが治療の重要なステップでした。デキサメタゾン0.4mg/kg/日(4週間でテーパリング)を追加したところ、3日後から意識が明瞭になってきました。 2ヶ月の強化療法を終え、HR(イソニアジド+リファンピシン)2剤での維持療法に移行しました(合計12ヶ月)。しかし6ヶ月後、フォローMRIで水頭症が進行し、神経外科でVPシャント術(脳室腹腔シャント)が施行されました。「頭の中の圧が高くなっているせいで記憶力が落ちていたとしたら、シャントで改善するかもしれない」という主治医の説明に、葵さんは少し希望を感じました。 1年間の治療を経て葵さんは大学院に復帰しました。「論文を読む速度が前より遅いし、英語の長文を追うのが疲れる」とリハビリの言語療法士に話します。それでも「治ったこと、そして今ここにいること」を支えに、毎日リハビリを続けています。

基礎知識の解説

結核性髄膜炎とは

結核性髄膜炎は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が髄膜・脳底槽に感染する亜急性〜慢性の細菌性髄膜炎です。発熱・頭痛・項部硬直が2〜3週間かけて緩徐に進行し、放置すると脳神経麻痺・水頭症・脳梗塞へと悪化します。BCG未接種者・HIV感染者・免疫低下者がハイリスクです。抗結核4剤(HRZE)とデキサメタゾンの早期投与が生命予後と後遺症を改善します。

主な症状

  • 1亜急性の発熱・頭痛(2〜3週間続く緩徐な進行)
  • 2項部硬直・髄膜刺激症状(Kernig徴候・Brudzinski徴候)
  • 3意識障害(傾眠から昏睡まで)
  • 4脳神経麻痺(動眼神経麻痺による複視・外転神経麻痺・顔面神経麻痺)
  • 5視力低下・視神経萎縮(頭蓋内圧亢進による)
  • 6てんかん発作
  • 7閉塞性水頭症(後期合併症:頭痛増悪・嘔吐・歩行障害)
  • 8脳梗塞(結核性血管炎による局所神経脱落症状)
  • 9認知機能障害・記憶障害(後遺症)
  • 10聴力障害(第VIII脳神経の基底槽炎による巻き込み)

原因・メカニズム

肺結核巣(Rich's focus)から血行性に播種した結核菌が、脳実質内の小病巣(Rich focus)を形成します。この病巣が軟膜・くも膜下腔に破裂することで結核性髄膜炎が発症します。基底槽での肉芽腫性炎症(乾酪壊死を伴う肉芽腫)が脳神経(特にII・III・IV・VI・VII・VIII)を圧迫し、脳神経麻痺を引き起こします。炎症性滲出物が脳脊髄液の吸収路(くも膜顆粒)を閉塞することで閉塞性水頭症が生じます(室上衣炎)。また基底動脈・中大脳動脈分枝にHeubner動脈炎様の血管炎が起こり、虚血性脳梗塞をもたらすことがあります。これらの複合した機序が多彩な神経症状を生み出します。

診断

Thwaites(2009)の診断スコアリングシステムでは年齢・病悩期間・意識・末梢血白血球・髄液所見を点数化し、結核性髄膜炎と細菌性髄膜炎を鑑別します。髄液所見はリンパ球優位の細胞増多・糖低下(血糖比40%未満)・タンパク高値が典型的です。髄液ADA値上昇(>10U/Lで感度78%・特異度91%)が結核性を強く示唆します。GeneXpert MTB/RIFは髄液での感度60〜70%で迅速診断に有用ですが、陰性でも除外できません。培養確定まで6〜8週間かかるため、臨床的に疑った場合は確定診断を待たずに治療を開始することが原則です。MRIでは基底槽の造影効果・結核腫・脳梗塞・水頭症が確認されます。

治療・ケア

強化療法(2ヶ月):イソニアジド300mg/日・リファンピシン600mg/日・ピラジナミド25mg/kg/日・エタンブトール15mg/kg/日の4剤を同時投与します。維持療法(10ヶ月):イソニアジド+リファンピシンの2剤を継続し、合計12ヶ月の治療期間とします。デキサメタゾン0.4mg/kg/日(4週間でテーパリング)の早期追加は死亡率を有意に低下させることがThwaites 2004のN Engl J Med掲載RCTで証明されています。閉塞性水頭症が進行した場合は脳室腹腔シャント術(VPシャント)が必要になることがあります。薬剤耐性結核が疑われる場合は抗菌薬感受性試験の結果に基づいてレジメンを変更します。

予後・経過

早期治療開始例での死亡率は10〜30%ですが、来院時の意識障害が重篤な場合や免疫低下者では50%以上となります。生存者の20〜50%に神経学的後遺症(認知機能障害・てんかん・脳神経麻痺・水頭症)が残ります。デキサメタゾン早期使用と意識清明での早期診断が後遺症を減少させる最も重要な因子です。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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参考文献

  1. [1]Thwaites GE, et al.Dexamethasone for the treatment of tuberculous meningitis in adolescents and adultsN Engl J Med. 351(17):1741-1751 (2004)
  2. [2]Thwaites GE, et al.Improving the bacteriological diagnosis of tuberculous meningitisJ Clin Microbiol. 47(5):1363-1367 (2009)
  3. [3]Donald PR, Schoeman JFTuberculous meningitisN Engl J Med. 351(17):1719-1720 (2004)
  4. [4]日本結核病学会結核診療ガイドライン 第4版日本結核病学会 (2018)

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