ミトコンドリア脳筋症(MELAS)とは?
ミトコンドリアの異常による脳卒中様発作
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)について、「なぜこんな行動をするの?」2分の無料チェックで、次の受診で伝えるべきことを整理できます。
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)の重要ポイント
「若年者の脳卒中様発作+血管支配に一致しないMRI病変」はMELASを最初に鑑別する
「血清乳酸高値+MRIの特徴的パターン+筋生検RRF」が診断の三本柱——まず乳酸・ピルビン酸を測定
母系遺伝——母方の家族歴(難聴・糖尿病・筋力低下)が診断の手がかりになる
急性発作時のL-アルギニン静注が有効——稀少疾患専門病院への早期転送を検討する
バルプロ酸はMELASのてんかん治療では原則禁忌——ラモトリギン・レベチラセタムを選択する
多臓器合併症(心臓・内分泌・腎臓・聴力)を多職種チームで包括管理する——単科での対応は不十分
体験談・具体的な事例
基礎知識の解説
難聴や糖尿病を伴う母系遺伝の代謝異常
MELAS(Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like episodes)は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)変異(最多:m.3243A>G)によりエネルギー産生(酸化的リン酸化)が障害される母系遺伝性疾患です。有病率は日本における調査では10万人あたり0.18人程度、すなわち約55万人に1人と報告されています。幼児期〜中年期に発症し、繰り返す脳卒中様発作・認知機能低下・難聴・筋力低下・乳酸アシドーシスが主症状です。血管支配に一致しないMRI病変と血清乳酸高値が診断の重要な手がかりです。
主な症状
- 1脳卒中様発作(片麻痺・失語・視野障害・意識障害)
- 2けいれん発作(部分発作・全般化発作)
- 3認知機能低下(繰り返す発作後に段階的に蓄積)
- 4感音性難聴(両側性、進行性)
- 5筋力低下・筋疲労(近位筋優位)
- 6乳酸アシドーシス(血清乳酸・ピルビン酸の上昇)
- 7片頭痛様頭痛・嘔吐(発作前後)
- 8糖尿病(母系遺伝性糖尿病との関連、m.3243A>G保有者の約20%)
- 9心筋症・WPW症候群・不整脈
- 10低身長・視神経萎縮(一部症例)
原因・メカニズム
原因・メカニズム
ミトコンドリアDNA(mtDNA)のm.3243A>G変異はtRNALeu(UUR)遺伝子に生じ、ミトコンドリアのタンパク合成が障害されます。これにより呼吸鎖複合体(特に複合体I・III・IV)の機能が低下し、ATP産生が著明に減少します。エネルギー需要の高い脳・筋肉・心臓が特に障害を受けます。脳卒中様発作は通常の血管閉塞による脳梗塞ではなく、「エネルギー代謝不全による局所的な神経細胞死(サイトトキシック浮腫)」であり、血管支配域に一致しない病変分布が特徴です。mtDNA変異は卵細胞を通じて母系遺伝し、heteroplasmy(正常mtDNAと変異mtDNAの混在)の割合が臨床重症度に影響します。
診断
診断
日本神経学会ミトコンドリア病診療ガイドラインに基づき、以下の手順で診断します。血清乳酸(≧2.0 mmol/L)・ピルビン酸の上昇が重要なスクリーニング指標です。頭部MRI(拡散強調像)では血管支配域に一致しない大脳皮質〜皮質下白質の高信号が特徴的です(「MELAS病変」)。筋生検でRRF(ゴモリ変法トリクローム染色)・COX欠損線維・電子顕微鏡でのミトコンドリア異常増殖を確認します。確定診断はmtDNA変異解析(血液・筋肉・尿沈渣)で行います。尿沈渣は変異割合が高い場合があり有用です。脳波・心エコー・聴力検査・内分泌評価を組み合わせた多臓器評価を行います。
治療・ケア
治療・ケア
根治療法はありません。脳卒中様発作の急性期にはL-アルギニン静注(0.5 g/kg/日、最大10 g/日)が血管拡張・発作軽減に有効とされています(El-Hattab ら 2015)。発作予防にも経口L-アルギニンが投与される場合があります。補助療法としてコエンザイムQ10・L-カルニチン・リボフラビン・チアミンが補助的に使用されます。けいれんにはバルプロ酸を原則避け(ミトコンドリア機能をさらに悪化させる可能性)、ラモトリギン・レベチラセタムを選択します。難聴には補聴器、糖尿病にはインスリン療法、心筋症には循環器科との連携管理を行います。
予後・経過
予後・経過
繰り返す脳卒中様発作で認知機能が段階的に低下します。m.3243A>G変異のheteroplasmy比率が高いほど重症化しやすい傾向があります。難聴・糖尿病・心筋症などの合併症が予後を悪化させます。発作の予防と合併症の早期管理が生活の質を大きく左右します。発症年齢・変異割合・臓器合併症の有無により予後は大きく異なります。
似た症状の疾患との違い
似た症状の疾患との違い
| 疾患名 | 見分け方のポイント |
|---|---|
| CADASIL | CADASILも若年発症の脳卒中様エピソードと認知機能低下を呈するが、常染色体優性遺伝でNOTCH3遺伝子変異を持ち、前兆を伴う片頭痛の既往が多い。MELASは母系遺伝でmtDNA変異(m.3243A>Gが最多)を持ち、血清乳酸高値・難聴・糖尿病を伴う点で区別される。 |
| ファブリー病 | ファブリー病も若年性脳梗塞を繰り返すが、X連鎖性遺伝でGLA酵素活性の低下、幼少期からの四肢灼熱痛・角膜混濁・腎障害を伴う。MELASは母系遺伝で血清乳酸高値・筋生検でのRRF(破れた赤色線維)という筋原性の所見を伴う点で異なる。 |
| 多発梗塞性認知症 | 多発梗塞性認知症は動脈硬化性の血管危険因子を背景に血管支配域に一致した梗塞が多発し、階段状に進行する。MELASの脳卒中様発作は血管支配域に一致しない皮質〜皮質下病変であり、乳酸アシドーシス・筋症状・難聴などミトコンドリア病に特徴的な多臓器症状を伴う点で区別される。 |