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ミトコンドリア脳筋症(MELAS)とは?
ミトコンドリアの異常による脳卒中様発作
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
村田奈緒さん(仮名・32歳)は子どものころから体力が弱く、同年代の子より疲れやすい子でした。「体が弱いだけ」と思っていましたが、28歳のとき突然、右半身の脱力と言語障害が起きました。
救急に搬送され、頭部MRIを撮ると左半球に異常信号が見つかりました。脳梗塞のような所見でしたが、年齢・リスク因子から通常の脳梗塞は考えにくいと担当医は判断しました。
「拡散強調画像でこのパターン、血管支配に一致しない病変——ミトコンドリア脳筋症を疑います」。血清乳酸・ピルビン酸が高値、筋生検でRRF(破れた赤色線維)が確認され、ミトコンドリアDNA変異(m.3243A>G)が同定されました。「MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作)」と診断されました。
「私の疲れやすさ、頭痛、聴力低下——全部これだったんですね」と奈緒さんは言いました。さらに、母親が同じ症状を持っていることが判明しました。MELASは母系遺伝(ミトコンドリアは母から子へ)であることが説明されました。
L-アルギニン・ラベプラゾール・コエンザイムQ10を開始しました。「完治はできないが、発作を減らしながら生活の質を保つことが目標」と担当医から言われ、奈緒さんは今もそれを心がけて過ごしています。
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基礎知識の解説
ミトコンドリア脳筋症(MELAS)とは
MELAS(Mitochondrial Encephalomyopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like episodes)は、ミトコンドリアDNAの変異(最多:m.3243A>G)によりエネルギー産生が障害される疾患です。若年〜中年期に繰り返す脳卒中様発作・認知機能低下・難聴・筋力低下・乳酸アシドーシスが特徴です。母系遺伝をたどります。
主な症状
- 1脳卒中様発作(片麻痺・失語・視野障害)
- 2けいれん発作
- 3認知機能低下(繰り返す発作後に蓄積)
- 4難聴
- 5筋力低下・筋疲労
- 6乳酸アシドーシス(血中乳酸高値)
- 7頭痛・嘔吐
- 8糖尿病(母系遺伝性糖尿病との関連)
原因・メカニズム
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異によりミトコンドリアの酸化的リン酸化が障害され、ATP産生が低下します。エネルギー需要の高い脳・筋肉が特に影響を受けます。脳卒中様発作は血管支配に一致しない「エネルギー代謝不全による局所壊死」で、通常の脳梗塞とは異なります。
診断
血清乳酸・ピルビン酸の上昇が重要な手がかりです。MRIで血管支配に一致しない大脳皮質〜白質の高信号(拡散強調像)が特徴的です。筋生検でRRF(破れた赤色線維)・SDH・COX酵素活性低下が確認されます。ミトコンドリアDNA変異解析(血液・筋肉・尿沈渣)で確定診断します。
治療・ケア
根治療法はありません。L-アルギニン静注(急性発作時)が脳卒中様発作の軽減に有効とされます。コエンザイムQ10・リボフラビン・L-カルニチンなどのサプリメントが補助的に使われます。てんかんにはバルプロ酸を避け(ミトコンドリア機能を悪化させる可能性)他の抗てんかん薬を選択します。
予後・経過
繰り返す脳卒中様発作で認知機能が段階的に低下します。難聴・糖尿病・心筋症などの合併症が予後を悪化させます。発作の予防と合併症管理が生活の質を左右します。
この疾患の重要ポイント
- •「若年者の脳卒中様発作+血管支配に一致しない病変」はMELASを疑う
- •「血清乳酸高値+MRIの特徴的パターン+筋生検」が診断の三本柱
- •母系遺伝——母方の家族歴(難聴・糖尿病・筋力低下)が診断の手がかり
- •バルプロ酸はミトコンドリア機能を悪化させる可能性——MELASのてんかん治療では避ける
- •多臓器(心臓・内分泌・腎臓)への合併症をチームで管理する包括的ケアが必要
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