分類8その他・稀な遺伝性疾患10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

ファブリー病とは?

脂質代謝異常による全身性の遺伝性疾患

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体験談・具体的な事例

倉橋拓海さん(仮名・27歳)は、神奈川県内のIT企業で働くエンジニアでした。趣味はロードバイクと料理で、週末は仲間と一緒にサイクリングに出かける活発な青年でした。家族は両親と妹の4人暮らしで、姉は看護師として別の県に住んでいます。 拓海さんが「おかしい」と感じ始めたのは小学校低学年のころでした。体育の授業で走ると「足の裏が焼けるように痛い」のです。担任教師にも親にも「気のせいでしょう」と言われ続け、本人も「自分は体が弱いのかな」と思っていました。20代に入ると、「体が熱いのに汗がほとんど出ない」という異変も現れ、夏に屋外で作業するのが体力的に難しくなりました。 26歳のある夏、仲間とのサイクリング中に突然めまいと右手の感覚消失が現れ、拓海さんは意識を失って倒れました。救急搬送先で施行された頭部MRIで、脳幹部と左大脳半球の白質に小さな高信号病変が多発していることが判明しました。「27歳にしては脳の血管に問題がある」と判断した神経内科医が精密検査を行いました。 血液検査でα-ガラクトシダーゼA(GLA)酵素活性が正常の3%まで著明に低下していることが確認され、GLA遺伝子解析でp.R301Q変異が同定されました。「ファブリー病」の確定診断でした。「GLA酵素の欠損により糖脂質Gb3が全身の血管内皮・心筋・腎糸球体・末梢神経に蓄積するX連鎖性遺伝性疾患です」と説明を受け、拓海さんはすべての点がつながった思いがしたといいます。「子どものころからの足の灼熱痛、汗が出ない、脳の血管の異常——全部この病気のせいだったんですね」。 アガルシダーゼβ(1 mg/kg、2週間に1回点滴静注)による酵素補充療法(ERT)が開始されました。同時に、神経障害性疼痛(灼熱痛)に対してガバペンチンが処方されました。治療開始から半年で「足が熱い感覚」が和らぎ、日常生活の質が大きく向上しました。母親への検索でGLA遺伝子のヘテロ接合変異が確認され、母親も軽度の症状で治療対象となりました。 「X連鎖性の遺伝なので、母方の親族に同じ変異を持つ人がいる可能性があります」という説明を受け、拓海さんの家族は遺伝カウンセリングを受けることにしました。叔父にも同様の症状があることが判明し、新たに診断がつきました。 現在、拓海さんは2週間に1回の外来点滴を仕事のスケジュールに組み込みながら、エンジニアとして働き続けています。「早く診断が出ていれば脳梗塞は防げたかもしれない」と言いつつも、「これからの進行を少しでも遅らせるために治療を続けたい」と前向きな姿勢で日々を送っています。

基礎知識の解説

ファブリー病とは

ファブリー病は、GLA遺伝子変異によりα-ガラクトシダーゼA酵素が欠損し、糖脂質(Gb3・lyso-Gb3)が全身の血管内皮・心筋・腎糸球体・末梢神経に蓄積するX連鎖性のライソゾーム病です。有病率は男性約4万人に1人とされますが、女性ヘテロ接合体も症状を呈することが多く、実際の患者数はより多いと考えられています。四肢末端の灼熱痛・発汗障害(幼児期から)、若年性脳梗塞・心筋症・腎不全の三大臓器合併症が特徴で、酵素補充療法(ERT)またはシャペロン療法(ミガラスタット)で進行を抑制できます。

主な症状

  • 1四肢末端の灼熱痛・刺痛(ファブリー疼痛、幼少期から)
  • 2発汗障害(無汗症または低発汗)・熱不耐
  • 3角膜混濁(角膜渦状混濁、裂隙灯検査で確認)
  • 4皮膚血管拡張症(被膜血管腫、体幹・臀部に多発)
  • 5若年性脳梗塞・TIA(30〜40代に多発)
  • 6認知機能障害(脳血管病変の蓄積によるVascular dementia様)
  • 7肥大型心筋症・不整脈(心房細動・房室ブロック)
  • 8腎不全(タンパク尿から徐々に進行、透析に至ることも)
  • 9難聴(感音性)・耳鳴り
  • 10消化器症状(食後腹痛・下痢・悪心)

原因・メカニズム

GLA(α-ガラクトシダーゼA)はライソゾーム内でGb3(グロボトリアオシルセラミド)をGb2に分解する酵素です。GLA遺伝子はX染色体上にあるため、男性(半接合体)では酵素活性がほぼ消失し重症化します。女性ヘテロ接合体では酵素活性が0〜正常と幅広く、無症状から重篤まで症状が多様です。Gb3が全身の血管内皮・平滑筋・心筋・腎糸球体ポドサイト・末梢神経に蓄積すると、血管壁障害・炎症反応・血栓形成・臓器線維化が進行します。Gb3の神経毒性は背根神経節の小径神経線維(Aδ線維・C線維)を障害し、幼少期からの灼熱痛の原因となります。lyso-Gb3(脱アシル化Gb3)は疾患活動性マーカーとして有用で、Gb3より血中での検出が容易です。

診断

日本先天性代謝異常学会ファブリー病診療ガイドラインに基づき、男性では血漿α-ガラクトシダーゼA酵素活性の著明な低下(正常値の1〜10%)で診断します。女性ヘテロ接合体では酵素活性が正常範囲内でも変異を保有する場合があるため、GLA遺伝子解析が必須です。血漿lyso-Gb3の上昇は疾患活動性の指標として有用であり、特に女性の診断補助に重要です。心エコー(心筋肥大の評価)・腎生検または尿沈渣(Gb3沈着の電子顕微鏡観察)・頭部MRI(白質病変・脳梗塞の評価)・眼科検査(角膜渦状混濁)を組み合わせて多臓器評価を行います。新生児マススクリーニングでの早期発見も一部地域で試みられています。

治療・ケア

酵素補充療法(ERT):アガルシダーゼα(0.2 mg/kg)またはアガルシダーゼβ(1 mg/kg)を2週間に1回点滴静注します。ERTは臓器障害の進行を遅らせますが、既存の臓器障害(線維化・梗塞巣)を回復させることは困難なため、早期開始が重要です。シャペロン療法(ミガラスタット):特定のamanableミスセンス変異を持つ患者に対して、経口薬として用います(日本でも承認)。神経障害性疼痛(灼熱痛):カルバマゼピン・ガバペンチン・プレガバリンが有効です。腎障害:ACE阻害薬・ARBによるタンパク尿の抑制。心筋症・不整脈:循環器科と連携した包括的管理が必要です。

予後・経過

未治療では男性の場合、30〜40代に腎不全・心筋梗塞・脳梗塞等の重篤な合併症が生じ、平均寿命が短縮します。ERT早期開始(臓器障害が軽微なうちに)で臓器障害の進行を有意に遅らせられます。女性ヘテロ接合体も症状が出現する場合があり、定期的なモニタリングと治療対象の判断が必要です。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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参考文献

  1. [1]Germain DPFabry diseaseOrphanet J Rare Dis (2010)
  2. [2]Hopkin RJ, Bissler J, Banikazemi M, et al.Characterization of Fabry disease in 352 pediatric patients in the Fabry RegistryPediatr Res (2008)
  3. [3]Schiffmann R, Hughes DA, Linthorst GE, et al.Screening, diagnosis, and management of patients with Fabry disease: conclusions from a 'Kidney Disease: Improving Global Outcomes' (KDIGO) Controversies ConferenceKidney Int (2017)

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