分類2|血管性認知症約6分で読めます
多発梗塞性認知症とは?
小さな脳梗塞が積み重なって起こる認知症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
大野清三さん(仮名・73歳)は、65歳で最初の脳梗塞を経験しました。右手に少し力が入りにくくなっただけで、日常生活には支障がなく、医師からも「軽い梗塞だった」と言われ、抗血小板薬を飲み始めました。
ところが翌年、また小さな梗塞が起きました。今度は言葉が少しだけつかえるようになりました。そして3回目の梗塞の後——妻の幸子さんは、夫が「階段状に」変わっていくことに気づいていました。梗塞が起きるたびに、ほんの少しずつ、記憶と判断力が落ちていくのです。
「ゆっくり悪くなるんじゃなくて、突然一段落ちる感じ」と幸子さんは表現します。梗塞と梗塞の間は比較的安定しており、悪化した後も少しだけ回復することもある。しかしトータルで見ると、確実に下り階段を歩んでいました。
MRIには脳のあちこちに点状の白い影(ラクナ梗塞)が散在し、大脳白質にも変化が見られました。「多発梗塞性認知症」と診断され、再梗塞予防の薬が強化されました。
今の清三さんは、薬の管理が自分ではできなくなり、外出時には幸子さんが付き添います。「もうこれ以上梗塞を起こさないようにすることが、唯一できること」と担当医から言われた言葉を、幸子さんは毎朝の薬管理で実践しています。
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基礎知識の解説
多発梗塞性認知症とは
多発梗塞性認知症(MID)は、脳内の複数の部位に小さな梗塞(ラクナ梗塞)が繰り返し起きることで認知機能が低下する血管性認知症の代表的な型です。一回一回の梗塞は軽微でも積み重なることで「階段状」に認知機能が低下するのが特徴で、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの生活習慣病が主な危険因子です。
主な症状
- 1「階段状」の認知機能低下(梗塞のたびに悪化し、間は比較的安定)
- 2記憶障害(特に最近の出来事)
- 3実行機能障害・注意力低下
- 4歩行障害(小刻み歩行・すり足)
- 5感情失禁(些細なことで泣いたり笑ったり)
- 6夜間の混乱・せん妄
- 7尿失禁
- 8焦燥感・抑うつ
原因・メカニズム
高血圧などにより脳の細い血管(穿通枝)が硬化・閉塞し、脳の深部(基底核・白質)に小梗塞が積み重なります。白質の広範な虚血変化(白質病変)も認知機能に影響します。アルツハイマー病変と合併する「混合型認知症」も多く見られます。
診断
MRIで多発するラクナ梗塞・大脳白質病変を確認します。神経心理検査では実行機能・注意・処理速度の低下が目立ちます。認知症の「階段状」進行パターンと脳血管疾患の危険因子があることが診断の手がかりです。
治療・ケア
再梗塞予防が最重要——抗血小板薬(アスピリン・クロピドグレル)・血圧管理・血糖管理・脂質管理・禁煙を徹底します。認知症状に対して一部の患者にコリンエステラーゼ阻害薬が使われます。リハビリテーションが機能維持に有効です。
予後・経過
再梗塞を防ぐことで進行を止められる可能性がある点が、変性性認知症との大きな違いです。しかし一度失われた機能は完全には回復しません。心臓病・肺炎・転倒が死亡原因として多いです。
この疾患の重要ポイント
- •「急に悪くなって、また少し落ち着く」という階段状の進行がMIDの特徴
- •高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙の管理が最大の予防と治療
- •再梗塞さえ防げれば進行を止められる——生活習慣管理が治療そのもの
- •アルツハイマー病との混合型が多く、単純な鑑別は難しい
- •感情失禁(涙もろさ・笑いやすさ)は家族が戸惑いやすい症状——病気の症状として理解する
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