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「殺してやる」と怒鳴る夫
——血管性認知症・暴言・暴力への対処法
75歳の夫が血管性認知症。介護中に突然怒鳴り、手を上げようとする。 「出て行け」「殺してやる」という言葉も。妻(介護者)は身の危険を感じている——。 これはBPSD(行動・心理症状)であり、あなたのせいではありません。 でも、あなたの安全は何よりも優先されます。
5パターン
原因の種類
5段階
対処アプローチ
約10分
読了時間
結論
血管性認知症による暴言・暴力(BPSD)が疑われる場合、まず介護者自身の安全を最優先に確保し、次に攻撃が起きる場面・時間帯を記録して原因を特定することが有効です。この事例では入浴介助と夜間覚醒後に攻撃が集中しており、ケアの見直しと抑肝散の処方で暴言の頻度が半減しました。
今すぐ確認してほしいこと
身の危険を感じる場合、まず警察(110番)への相談は正当な選択です。 「認知症だから通報してはいけない」という決まりはありません。 あなたの身体的安全が守られない状況であれば、外部機関への相談を躊躇わないでください。
BPSDとは何か——「人が変わった」のではなく「脳が変わった」
認知症の症状には「中核症状」(記憶障害・見当識障害など)と「BPSD(行動・心理症状)」の2種類があります。 暴言・暴力・徘徊・幻覚などはBPSDであり、認知症の種類・進行状態・環境・対応によって出現頻度も改善可能性も大きく異なります。
血管性認知症は、脳梗塞・脳出血によって脳の特定の領域が傷つくことで起こります。 感情のコントロールを担う前頭葉が損傷されると、些細なことで激しく怒る 「感情失禁」が現れやすくなります。これは「性格が悪くなった」のではなく、脳の回路が変化したことによる症状です。
「以前は穏やかな人でした」——そうです、その人格は今も本質にあります。 ただ、それを表現する脳の機能が、病気によって変化してしまっているのです。
5つのアプローチ
優先度の高い順に並んでいます。まず①から始めてください。
まず知っておいてほしいこと
介護中に暴言・暴力が起きるのは、あなたのせいではありません。 これはBPSD(行動・心理症状)という認知症の症状です。しかし、それがわかっていてもあなたが傷つくことは許容されません。
その場での安全確保の手順
ケアをいったん中断し、その場から離れる(「少し休みましょう」と声をかけて)
別の部屋へ移動し、物理的な距離を置く
ドアを閉め、落ち着くまで時間を置く(5〜15分が目安)
落ち着いてから、別のスタッフや時間帯に再挑戦する
身の危険を感じたら、迷わず連絡を
警察(緊急時)
110
身体的暴力・生命の危機
地域包括支援センター
市区町村窓口
介護相談・緊急対応
かかりつけ医・精神科
受診予約
薬物療法の相談
介護保険の緊急ショート
ケアマネに相談
一時的に離れる手段
「逃げること」「助けを求めること」は介護放棄ではありません。 あなたが倒れてしまっては、誰も介護できなくなります。
行動タイムライン——今日から何をすべきか
- 攻撃が起きたとき、その場から離れる手順を頭に入れておく
- 地域包括支援センターの連絡先を調べておく
- 「危険を感じたら110番してよい」と自分に許可を出す
- 攻撃が起きた場面・時間帯・前後の状況を記録し始める
- ケアマネージャーに現状を伝え、プランの見直しを相談する
- デイサービスの回数増加やショートステイを検討してもらう
- 記録をもとに主治医に相談。精神科・神経内科への紹介を依頼
- 医師に現在の薬の見直しと追加薬物療法の可否を確認
- 入浴などリスクの高いケアを外部サービスに切り替える準備
- 薬物療法を開始した場合、効果と副作用を継続的に観察・記録
- 介護者自身の精神的状態を振り返り、必要なら支援を求める
- 介護者同士の集いや家族相談窓口を一度訪れてみる
この相談の経過
※ 本人・家族のプライバシー保護のため詳細は匿名化・一部改変しています
地域包括支援センターに連絡し、ケアプランの見直しを依頼。デイサービスを週2回→週4回に増加。入浴ケアはデイサービスに一任することになった。
記録をもとに主治医に相談。「入浴時と夜間覚醒後に攻撃が集中している」と具体的に報告でき、精神科への紹介状を受けた。
精神科受診。抑肝散(漢方)を処方される。服用開始2週間で「爆発的な怒鳴り声」の頻度が半減。就寝前の投与で睡眠も改善傾向。
抑肝散の継続と、ケアの声かけ方法を改善したことで、日常的な暴言は大幅に減少。身の危険を感じる場面はほぼなくなった。妻自身も心療内科で定期フォローを始め、「眠れるようになった」と話す。
在宅介護継続中。激しい攻撃行動の再燃に備えてショートステイを定期活用。「以前は諦めていたが、薬と外部サービスでここまで変わるとは思わなかった」(妻の言葉)。
Dr. Koba より
認知症専門外来・在宅診療
この方の経過で重要だったのは、「記録によって攻撃のパターンを特定できた」という点です。 「突然怒る」に見えても、実際には引き金となる場面が繰り返されていることがほとんどです。 記録によってそれが可視化され、入浴ケアをデイサービスに移行するという具体的な解決策に繋がりました。
抑肝散は副作用が少なく、介護現場で安心して提案できる第一選択の一つです。 ただし「薬を使えば解決する」ではなく、薬は「余裕を作る道具」だと思ってください。 薬で少し穏やかになった時間を使って、ケアの工夫や外部支援の仕組みを整えることが根本的な改善につながります。
そして何より、この妻が「眠れるようになった」ことは非常に重要です。 介護者が消耗すれば、どんな対策も続きません。介護者の健康を守ることが、最終的に認知症の方への最良のケアになります。
相談の背景が違えば、対処法も変わります
同じ「暴言・暴力」でも、状況によって最善の選択は異なります。
独居の親を遠距離から支えている
物理的に介入できないため、地域包括支援センターへの早期相談が不可欠。緊急連絡先の整備と、訪問介護・見守りサービスの導入を優先する。暴力事案は近隣住民への影響も考慮が必要。
本人が「介護不要」と拒否して受診も断っている
本人が危険な状態にある場合は、精神保健福祉法に基づく「措置入院」の手続きが選択肢になる。主治医や保健師に相談し、本人の意志に反する介入の是非と手続きを確認する。
施設入所中だが施設から対応困難と言われている
精神科への紹介と薬物療法を優先。精神科病院での短期入院による症状安定化を経てから施設に戻るルートを施設側と検討する。「BPSD対応型」の施設への転居も視野に入れる。
暴力が家族(子どもや孫)にも向けられている
子どもへの暴力は「高齢者虐待対応(逆の立場)」だけでなく、場合によって児童相談所が関わるケースもある。家族全員の安全を守るため、在宅介護の継続可否について早急に多職種で検討すべき。
攻撃行動が夜間に限定されている(夜間せん妄が疑われる)
夜間に限定した症状は「夜間せん妄」の可能性が高い。脱水・感染・薬の影響が原因であることも多く、原因の精査が優先。ベンゾジアゼピン系の使用はせん妄を悪化させるため禁忌。
Dementia Connect
「うちの場合はどうすればいいか」
認知症に詳しい医師に直接相談できます
同じ「暴言・暴力」でも、ご本人の状態・家族の状況・使える社会資源によって、 最適なアプローチは異なります。 この事例は一つの例に過ぎません。 あなたの状況に合った対処法を、医師が個別に考えます。
利用者の声
「相談する前は『こんなことを言ったら非難されるかも』と思っていました。 でも、正直に話したら『それは大変でしたね』と言ってもらえて、 初めて泣きました。具体的な手順まで示してもらえて助かりました」
— 60代 女性(夫の介護)
※ 医師への相談は単発相談(お試し ¥1,000・標準 ¥3,000)でご利用いただけます
※ 相談に先立ち、ご本人の生育歴・生活環境・価値観・介護の背景などを丁寧にお聞きします。 詳細が明らかになることで、より個別性の高い回答が可能になります。 掲載事例はすべて匿名化・一部改変を行っています。
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