分類7自己免疫・炎症性疾患10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

サルコイドーシス(神経)とは?

肉芽腫が神経系に形成される全身性疾患

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体験談・具体的な事例

野田宏明さん(仮名・43歳)がサルコイドーシスと診断されたのは40歳のときでした。健康診断の胸部X線で両肺門部のリンパ節腫脹(両側肺門リンパ節腫大)が偶然見つかり、呼吸器内科に紹介されました。ツベルクリン反応は陰性で、血清ACE(アンジオテンシン変換酵素)が54 U/L(基準値8〜52 U/L)と高値でした。気管支鏡検査で肺組織の生検を行うと「非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫」が確認され、サルコイドーシスが確定しました。「肺の病気で、ステロイドを使えばコントロールできます」と言われ、少量のプレドニゾロンで経過観察が始まりました。 診断から3年後の秋の朝、野田さんは起き上がると口が曲がっているのに気づきました。鏡を見ると右顔面が垂れ下がり、口から水がこぼれました。「脳卒中か?」と救急外来を受診しましたが、上肢・下肢の麻痺はなく、耳鼻科ではベル麻痺の可能性も指摘されました。「サルコイドーシスの患者さんで顔面麻痺が出た場合は、神経サルコイドーシスを強く疑います」と呼吸器内科医が神経内科に紹介しました。 MRI(造影)では軟膜・脳室周囲・下垂体茎に小さな点状の造影増強病変が複数確認されました。「小さな白い粒が散らばっているように見える」と野田さんは言いました。脳脊髄液検査ではWBC 28/μL(リンパ球優位)・タンパク68 mg/dL・ACE値2.5 U/L(正常は1.0 U/L未満)と炎症を示す異常所見が揃いました。全身FDG-PETでは肺門・縦隔リンパ節への集積が残存しており、「神経と全身に活動性の病変がある」と確認されました。 「神経サルコイドーシス(確定例)」の診断が確定し、プレドニゾロンを60mg/日に増量しました。6週後、顔面麻痺は著明に改善し、口角のゆがみはほぼ消失しました。しかし「頭がはっきりしない」「仕事で段取りを組むのが面倒に感じる」という認知機能の変化は残りました。神経心理検査で処理速度と記憶の軽度低下が確認され、作業記憶の補助(手順書・チェックリストの活用)と週2回の認知リハビリが導入されました。 その後プレドニゾロンは12ヶ月をかけて10mg/日まで漸減しました。長期ステロイド使用に伴う骨粗鬆症を予防するため、アレンドロネート(週1回35mg)とビタミンD・カルシウムの補充を開始しました。「骨や血糖の管理も含めて、長く付き合っていく病気です」と担当医は説明しました。野田さんは今も半年ごとのMRIと血清ACEのフォローを続けながら、工場の管理職として仕事を続けています。

基礎知識の解説

サルコイドーシス(神経)とは

神経サルコイドーシスは、サルコイドーシス(全身に非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫が形成される原因不明の全身性炎症疾患)が中枢・末梢神経系を侵した状態です。サルコイドーシス患者の5〜10%に見られ、神経病変が初発となることもあります。顔面神経麻痺(最多)・頭痛・下垂体障害・髄膜炎様症状・認知機能低下が主な臨床像です。ステロイドへの反応は比較的良好ですが再発・慢性化例もあり、長期管理と副作用対策が必要です。

主な症状

  • 1顔面神経麻痺(両側性が特徴的——サルコイドーシスを強く示唆)
  • 2頭痛・髄膜炎様症状(発熱・項部硬直)
  • 3脳神経麻痺(複視・聴力低下・嗅覚障害・視力障害)
  • 4認知機能低下(記憶・処理速度・注意・遂行機能)
  • 5下垂体障害(尿崩症・無月経・下垂体前葉機能低下)
  • 6脊髄症(痙性対麻痺・感覚レベル)
  • 7末梢神経障害(多発神経炎・単神経炎)
  • 8てんかん発作
  • 9精神症状(抑うつ・精神病様症状・無気力)
  • 10水頭症(肉芽腫による脳室閉塞)

原因・メカニズム

サルコイドーシスでは、活性化マクロファージがTNFα・IL-12を過剰産生し、CD4+ Th1型T細胞を主体とした免疫反応を持続させます。この結果、組織内に非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫が形成されます。神経系への影響は複数の経路で生じます。①肉芽腫が脳・脊髄・髄膜・脳神経に直接浸潤して圧迫・破壊を引き起こします。②下垂体茎や視床下部に肉芽腫が形成されると尿崩症・下垂体前葉機能低下が生じます。③血管炎型では小血管の肉芽腫性浸潤が管腔狭窄を引き起こし、虚血性脳梗塞が生じます。④炎症性サイトカイン(TNFα・IL-6)が血液脳関門の透過性を亢進させ、神経機能を間接的に障害します。

診断

神経サルコイドーシスの診断にはZajicek 1999の基準(possible・probable・definite)が参照されます。Definiteには組織学的に肉芽腫が確認され、他の原因が除外された場合が当てはまります。MRI(造影)では軟膜・脳室周囲・脊髄・下垂体茎の増強病変が特徴的です(periventricular・subpial病変)。脳脊髄液ではリンパ球優位の細胞増多・タンパク上昇・ACE値高値(正常<1.0 U/L)を認めます。血清ACEは感度50〜60%・特異度90%と感度が低いため陰性でも否定はできません。胸部CT・FDG-PETで全身病変(肺門・縦隔リンパ節腫大)を確認することが系統的サルコイドーシスの根拠として重要です。気管支肺胞洗浄(BAL)ではリンパ球増多・CD4/CD8比≧3.5が特徴的です。確定診断のためには肺・皮膚・リンパ節・脳の組織生検が必要です。

治療・ケア

プレドニゾロン0.5〜1.0mg/kg/日(最大60mg)から開始し、12〜18ヶ月かけて緩徐にテーパリングします。再発を繰り返す難治例や長期ステロイドの副作用が問題となる場合には、節薬効果を期待してメトトレキサート(10〜20mg/週)またはアザチオプリン(2〜3mg/kg/日)を追加します。これらでも不十分な場合や重篤な神経病変(視力障害・横断性脊髄炎)ではインフリキシマブ(5mg/kg、0・2・6週後、以後8週ごと)が有効との報告があります。長期ステロイド使用に対する副作用対策として、骨粗鬆症予防(ビスホスホネート・ビタミンD・カルシウム)、感染予防、血糖管理が必須です。下垂体機能低下が生じている場合はホルモン補充療法(コルチゾール・甲状腺ホルモン・性ホルモン)を行います。

予後・経過

早期からのステロイド治療で顔面麻痺・頭痛などの急性症状は多くの場合改善します。しかし脊髄・脳幹の重篤な病変は回復が限定的なことがあります。認知機能障害は部分的な改善にとどまる例も多く、長期にわたる認知リハビリと生活上の工夫が必要です。再燃リスクがあるため、血清ACEとMRIによる半年ごとの追跡が推奨されます。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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参考文献

  1. [1]Zajicek JP, Scolding NJ, Foster O, et al.Central nervous system sarcoidosis——diagnosis and management.QJM. 1999;92(2):103-117. (1999)
  2. [2]Hoitsma E, Faber CG, Drent M, Sharma OP.Neurosarcoidosis: a clinical dilemma.Lancet Neurol. 2004;3(7):397-407. (2004)
  3. [3]日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会(編)サルコイドーシス診療ガイドライン2015.克誠堂出版, 2015. (2015)
  4. [4]Baughman RP, Teirstein AS, Judson MA, et al.Clinical characteristics of patients in a case control study of sarcoidosis.Am J Respir Crit Care Med. 2001;164(10 Pt 1):1885-1889. (2001)
  5. [5]Ungprasert P, Matteson EL.Neurosarcoidosis.Rheum Dis Clin North Am. 2017;43(4):593-606. (2017)

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