分類7自己免疫・炎症性疾患10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

脳血管炎とは?

脳の血管に炎症が起きる希少疾患

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体験談・具体的な事例

松下愛子さん(仮名・46歳)は半年前から後頭部から頸部にかけての頭痛が続いていました。痛みはNRS(数値的評価スケール)で6/10程度の拍動性で、ロキソプロフェンを飲んでも改善しない。「片頭痛かな」と市販薬で様子を見ていましたが、頭痛の間は思考がぼんやりして会議での発言が減りました。 神経内科を初めて受診したのは右手のしびれが数時間続いた翌日でした。MMSE(ミニメンタルステート検査)26/30と軽度低下、血液検査ではCRP 0.3 mg/dL・ANA陰性・ANCA陰性・梅毒RPR陰性・HIV陰性と炎症所見および全身性自己免疫疾患の根拠は認めませんでした。しかしMRI/MRAでは左中大脳動脈(MCA)分枝に節状狭窄・拡張を繰り返す「数珠状」のパターンが確認され、白質には点状T2高信号病変が5か所、DWI(拡散強調画像)で1か所に急性虚血巣が検出されました。 「この画像所見は通常の片頭痛では説明がつきません」と担当医は言いました。脳脊髄液検査ではWBC 12/μL(リンパ球優位)・タンパク55 mg/dL・IgG index 0.72(正常0.7以下で軽度上昇)と軽微な炎症所見を認めました。SLE・ベーチェット病・ANCA関連血管炎・サルコイドーシスの血清学的検索(抗dsDNA抗体・抗好中球細胞質抗体・血清ACE)はすべて陰性または正常範囲内でした。感染性血管炎(梅毒・結核・ヘルペス)も否定されました。 「全身疾患を除外した上で、脳だけに限局した血管炎——原発性中枢神経系血管炎(PACNS)の可能性が最も高い」と担当医は告げました。「確定診断には脳生検が必要です」という説明を受け、愛子さんは1週間迷いましたが「早く原因を突き止めたい」と決断しました。 脳生検では血管壁に多数のCD68陽性マクロファージとCD3陽性T細胞の浸潤が確認され、「肉芽腫性血管炎」の病理診断が確定しました。Calabrese & Mallek 1988の診断基準(臨床症状+組織学的証拠+他の血管炎原因の除外)を満たし、PACNSと確定されました。 プレドニゾロン1mg/kg/日(60mg)+シクロホスファミドパルス(750mg/m²、月1回×6回)の治療が開始されました。3ヶ月後には頭痛が消失し、MRAでの節状狭窄パターンも著明に改善しました。「早く生検を決断してよかった。あの頭痛を放置していたら脳梗塞が広がっていたと思います」と愛子さんは振り返ります。現在は日和見感染予防のためST合剤(バクタ)を内服しながら、シクロホスファミドからアザチオプリンへ切り替えた維持療法を継続しています。

基礎知識の解説

脳血管炎とは

脳血管炎(中枢神経系血管炎)は、脳・脊髄の血管壁に炎症が生じる疾患です。脳のみに限局した原発性中枢神経系血管炎(PACNS)と、SLE・ベーチェット・ANCA関連血管炎・サルコイドーシスなど全身性疾患に伴う二次性血管炎に大別されます。慢性・亜急性の頭痛・認知機能低下・脳梗塞様症状を呈し、MRAの「数珠状血管狭窄」が特徴的所見です。確定診断には脳生検が必要で、プレドニゾロン+シクロホスファミドによる免疫療法が有効です。

主な症状

  • 1慢性〜亜急性の頭痛(最多症状・拍動性・一般鎮痛薬無効)
  • 2認知機能低下(記憶・注意・処理速度・実行機能)
  • 3一過性脳虚血発作(TIA)・脳梗塞(反復性)
  • 4精神症状(混乱・人格変化・易怒性)
  • 5けいれん発作
  • 6局所神経症状(片麻痺・感覚障害・失語・複視)
  • 7意識障害(傾眠〜昏迷)
  • 8視力障害(虚血性視神経症・皮質盲)
  • 9脊髄症(下肢脱力・排尿障害)
  • 10発熱・体重減少(全身性血管炎合併例)

原因・メカニズム

PACNSの病理学的分類は「肉芽腫性PACNS(最多型)」と「リンパ球浸潤型PACNS」に大別されます。肉芽腫性では血管壁にCD68陽性マクロファージと多核巨細胞が浸潤して肉芽腫を形成し、血管壁の壊死・管腔狭窄を引き起こします。リンパ球浸潤型ではCD3陽性T細胞が主体で、壊死性変化は少なく管腔狭窄が主体です。いずれも小〜中動脈の血管壁炎症が管腔狭窄・閉塞を引き起こし、虚血性脳病変を生じさせます。免疫複合体が小血管壁に沈着すると補体が活性化し、さらに血管内皮傷害と管腔狭窄が進行します。可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)はMRAで類似の血管狭窄パターンを示しますが、RCVSは血管攣縮が可逆的(4〜12週で正常化)で病理組織に炎症細胞浸潤を認めず、治療方針が全く異なります(免疫抑制薬は不要、カルシウム拮抗薬を用いる)。

診断

Calabrese & Mallek 1988のPACNS診断基準が世界標準で使用されます。①後天性の神経学的症状(頭痛・認知機能低下・局所症状)、②脳血管造影(DSA)またはCNS組織生検での血管炎確認、③全身性疾患・感染症・薬剤・悪性腫瘍の除外、④症状がCNSに限局することの4条件を満たします。DSA(脳血管造影)は感度40〜90%・特異度は低く(血管攣縮・動脈硬化でも類似所見)、単独では確定診断に不十分です。脳生検は感度75%でGold Standardであり、biopsy部位(活動病変の選択)が感度に大きく影響します。RCVSとの鑑別では、「突然発症・雷鳴頭痛・可逆性血管狭窄(4〜12週で正常化)」がRCVSを示唆し、慢性頭痛・白質病変・CSF炎症・進行性認知障害がPACNSを示唆します。全身性自己免疫(抗dsDNA・ANCA・抗カルジオリピン・血清ACE)と感染症(梅毒・HIV・結核・ヘルペス)のスクリーニングで二次性血管炎を先に除外することが重要です。

治療・ケア

プレドニゾロン1mg/kg/日(最大60〜80mg)から治療を開始します。軽症〜中等症では単独ステロイドで6〜12ヶ月かけてテーパリングします。重症例(多発脳梗塞・急速進行・脳生検で肉芽腫性変化)にはシクロホスファミドパルス(500〜1000mg/m²、月1回×6回)を併用します。シクロホスファミド終了後の寛解維持にはメトトレキサート(15〜25mg/週)またはアザチオプリン(2mg/kg/日)を12〜18ヶ月使用します。免疫抑制中の日和見感染予防としてST合剤(バクタ配合錠、1錠/日)を予防投与します。抗けいれん薬・抗血小板薬・高血圧管理も脳梗塞再発予防に重要です。PML(進行性多巣性白質脳症)リスクを考慮した定期的なJCV抗体モニタリングも長期管理において検討されます。

予後・経過

早期診断・早期治療により多くの場合で頭痛の消失とMRA所見の改善が得られます。しかし治療が遅れると虚血性脳梗塞が蓄積し、不可逆的な認知障害・身体障害が残存します。治療後の再発率は約25〜30%とされ、長期の維持療法と定期MRI・MRAフォローが必要です。PACNS全体の予後はやや多様で、脊髄病変・脳幹病変を有する例では回復が限定的なことがあります。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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参考文献

  1. [1]Calabrese LH, Mallek JA.Primary angiitis of the central nervous system. Report of 8 new cases, review of the literature, and proposal for diagnostic criteria.Medicine (Baltimore). 1988;67(1):20-39. (1988)
  2. [2]Birnbaum J, Bhardwaj A.Nervous system vasculitis.Curr Opin Neurol. 2009;22(3):285-292. (2009)
  3. [3]de Boysson H, Zuber M, Naggara O, et al.Primary central nervous system vasculitis: description of the first fifty-two adults enrolled in the French cohort of patients with primary central nervous system vasculitis.Arthritis Rheumatol. 2014;66(5):1315-1326. (2014)
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