分類5|脳の物理的な障害・圧迫約6分で読めます
正常圧水頭症とは?
脳脊髄液が溜まる、治療で改善可能な認知症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
平野勝男さん(仮名・78歳)は、「最近歩き方がおかしい」と妻の友子さんに指摘され続けていました。一歩一歩が小刻みで、すり足になり、足を上げずに床を引きずるように歩きます。まるで床に磁石でくっついているかのようだと友子さんは表現しました。
同時に、おしっこが近くなって漏らしてしまうことが増えました。「恥ずかしくて言えなかったけど、最近おむつが必要になってきた」と勝男さんは打ち明けました。物忘れも目立ち始め、日付がわからなくなってきました。
神経内科を受診するとMRIで脳室(脳内の脳脊髄液が入る空間)が拡大しており、「正常圧水頭症(NPH)」の疑いが持たれました。腰椎穿刺で脳脊髄液を30mL抜き取るタップテスト(試験的穿刺)を行うと、歩行が著明に改善しました。「これは手術で治るかもしれない」と担当医が言い、家族は驚きました。
脳室腹腔シャント術(脳脊髄液を腹腔に流すチューブを入れる手術)を受けた後、勝男さんの歩行は見違えるほど改善しました。尿失禁も減り、物忘れも改善しました。
「手術で認知症が良くなるなんて信じられなかった」と友子さんは言います。「もっと早く受診していれば、もっと良くなったかもしれない」と悔やみつつも、「今からでも治せてよかった」と笑顔で話しました。
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基礎知識の解説
正常圧水頭症とは
正常圧水頭症(NPH)は、脳脊髄液の循環障害により脳室が拡大し、脳が圧迫されることで生じる認知症です。「歩行障害・認知症・尿失禁」の三徴が特徴で、脳室腹腔シャント術(VP シャント)で症状が改善する「治る認知症」の代表例です。高齢者に多く、アルツハイマー病と誤診されることがあります。
主な症状
- 1歩行障害:小刻み・すり足・磁気歩行(床に吸いついたような歩き)
- 2認知症:記憶・注意・実行機能の低下(比較的軽度)
- 3尿失禁:頻尿・急迫性尿失禁
- 4歩行障害が三徴の中で最初に現れることが多い
- 5認知症は比較的緩徐な進行
- 6表情の乏しさ・動作の緩慢化
原因・メカニズム
脳脊髄液は脈絡叢で産生され、クモ膜顆粒で吸収されます。NPHでは吸収の障害(または産生過剰)により脳室内に液が貯留し、脳室が拡大します。拡大した脳室が脳実質(特に歩行・排尿・認知に関わる領域)を圧迫し、機能障害が生じます。多くは特発性ですが、くも膜下出血・外傷・髄膜炎が原因となる二次性もあります。
診断
MRIで脳室拡大(Evans指数>0.3)と脳脊髄液の流れの乱れ(DESH:sulcal effacement with high-convexity)を確認します。タップテスト(30mL腰椎穿刺)での歩行改善が治療効果予測に重要です。脳室ドレナージテストも行われます。
治療・ケア
脳室腹腔シャント術(VPシャント)が標準治療です。脳室腰椎シャント術(LPシャント)も選択肢です。タップテストで改善が見られた場合、手術効果が期待できます。歩行障害は最も改善しやすく、認知症・尿失禁も改善が期待できます。
予後・経過
手術後に50〜70%の患者で症状の改善が見られます。病状が進行する前に手術を受けると改善率が高いです。シャントの機能不全・感染などの合併症リスクがあります。
この疾患の重要ポイント
- •「歩行障害・認知症・尿失禁」の三徴——特に「磁気歩行」はNPHを強く示唆
- •タップテスト(腰椎穿刺30mL)後に歩行が改善したら手術が有望
- •「治る認知症」の代表——アルツハイマーと誤診して手術機会を逃さないことが重要
- •歩行障害の改善が最も著明で、認知症・尿失禁も改善する
- •早期手術が予後を左右——「歳のせい」と放置しないことが大切
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