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進行性多巣性白質脳症(PML)とは?
免疫低下時に発症するウイルス性脳疾患
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
加藤誠さん(仮名・38歳)は多発性硬化症(MS)の治療のため、ナタリズマブ(モノクローナル抗体製剤)を2年間使用していました。ある日、右半身が動きにくくなり、言葉がうまく出なくなりました。
MRIで脳の白質に広範な病変が出現していました。「多発性硬化症の再発ではない?」と担当医は慎重に検討し、脳脊髄液のPCR検査でJCウイルスのDNAが陽性と判明しました。「進行性多巣性白質脳症(PML)」——ナタリズマブによる免疫抑制が引き金となった、日和見感染症でした。
ナタリズマブを即中止しましたが、JCウイルスによる脳の破壊は止まりません。「中止するとIRIS(免疫再構築炎症症候群)が起きて一時的に悪化することがある」と説明されました。実際に、その後急激に症状が悪化し、誠さんは一時期意識を失いました。
数ヶ月後、免疫機能がある程度回復するとともに状態は安定しましたが、右半身の麻痺・失語・認知機能低下が後遺症として残りました。「PMLになったことで、MSの治療方針を根本的に変えなければならなくなった」と妻の真由美さんは言います。
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基礎知識の解説
進行性多巣性白質脳症(PML)とは
進行性多巣性白質脳症(PML)は、JCウイルス(ポリオーマウイルスの一種)が免疫低下状態の患者の脳に感染し、白質を破壊する致死的な日和見感染症です。HIV/AIDS・白血病・臓器移植・免疫抑制薬使用者に多く見られます。急速に進行し、認知障害・運動障害・視覚障害などを引き起こします。
主な症状
- 1片側性の運動麻痺・歩行障害
- 2構音障害・失語
- 3視覚障害(半盲・視力低下)
- 4認知機能低下・人格変化
- 5協調運動障害
- 6てんかん発作
- 7急速な進行(週〜月単位)
- 8意識障害(重篤例)
原因・メカニズム
JCウイルスは健常人の60〜80%に潜伏感染していますが、免疫機能が正常であれば発症しません。免疫抑制状態(HIV・免疫抑制薬)で免疫機能が低下すると、潜伏していたJCウイルスが再活性化し、脳内のオリゴデンドロサイト(髄鞘を作る細胞)に感染・破壊します。髄鞘のない白質が多巣性に壊死します。
診断
脳脊髄液のJCウイルスDNA PCR検査で診断します(感度70〜90%)。MRIでは白質の多巣性病変がT2高信号として確認されます。ガドリニウム増強効果が乏しい点がMSと異なります。脳生検で確定診断が可能です。
治療・ケア
根治的な抗JCウイルス薬はありません。最も重要なのは免疫機能の回復——HIV患者ではARTの開始・強化、免疫抑制薬使用者では薬剤の中止・減量です。IRISのリスクがあるため、免疫回復は慎重に行います。
予後・経過
未治療・重篤な免疫低下例では致死率が非常に高く、生存しても重篤な後遺症が残ります。HIV関連PMLはART開始後の免疫回復で生存率が改善しています。ナタリズマブ関連PMLは死亡率約20%、生存者の多くに重篤な後遺症が残ります。
この疾患の重要ポイント
- •免疫抑制薬(特にナタリズマブ・リツキシマブ)使用中の白質病変はPMLを必ず鑑別に挙げる
- •「JCウイルス抗体価の定期検査」がナタリズマブ使用者のリスク層別化に重要
- •治療は「免疫機能の回復」が唯一の手段——原因薬剤の中止が最優先
- •IRIS(免疫再構築炎症症候群)で一時的悪化する可能性を患者に事前説明する
- •PML発症後は治療選択の根本的見直しが必要——多職種で方針を検討
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