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基礎知識の解説
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)とは
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、幼少期の麻疹感染後、変異した欠損型麻疹ウイルスが脳内に潜伏し、感染から平均6〜15年後に再活性化して進行性の脳炎を引き起こす致死性の遅発性ウイルス感染症です。2歳未満での麻疹感染が最大の危険因子であり、主に学童期〜青年期に発症します。認知機能低下・行動異常・ミオクローヌス・てんかん発作を経て数年で死亡に至りますが、麻疹ワクチン2回接種により完全に予防可能です。発症率は麻疹感染者10万人あたり4〜11例とされています。
主な症状
- 1第1期:性格変化・学業成績低下・集中力の著明な低下(数週〜数ヶ月続く)
- 2第2期:ミオクローヌス(1〜2分間隔の規則的な頭部・体幹の不随意運動)
- 3第2期:脳波に周期性高振幅複合(ラドマエヤー複合・Radermecker complex)が出現
- 4第2期:知能低下・記憶障害の急速な進行
- 5第3期:重篤な認知症・高度の不随意運動
- 6第3期:視力低下・皮質盲(後頭葉の障害による)
- 7第3期:嚥下障害・構音障害
- 8第4期:筋固縮・無動・昏睡・植物状態
- 9全経過を通じて繰り返すてんかん発作
- 10自律神経障害(体温調節障害・発汗異常)
原因・メカニズム
原因・メカニズム
麻疹ウイルスが初感染後に中枢神経系へ侵入し、M(マトリックス)タンパクの発現を欠いた欠損型変異ウイルスとして脳内に持続感染するのがSSPEの基本病態です。野生型麻疹ウイルスは細胞外にウイルス粒子を放出して拡散しますが、SSPE型変異ウイルスはウイルス粒子を形成できず、神経細胞間の直接接触(cell-to-cell spread)を通じて免疫監視を逃れながら静かに脳全体へと広がります。この持続感染が引き金となり、ミクログリアの活性化・T細胞浸潤・脱髄が起こり、神経細胞脱落と最終的なびまん性脳萎縮へと進行します。なぜ一部の感染者のみがSSPEを発症するかは完全には解明されていませんが、2歳未満の感染・麻疹ワクチン未接種または1回のみ接種・免疫応答の個人差が関与すると考えられています。ウイルスのMタンパク変異は複数箇所にわたり、ほぼすべてのSSPE症例で確認されます。
診断
診断
Dyken(1985)の診断基準が広く用いられています。①典型的な臨床経過(認知低下→ミオクローヌス→認知症→植物状態の段階的進行)、②脳波の周期性複合(ラドマエヤー複合:0.5〜2Hz の高振幅棘徐波複合が規則的に出現)、③血清および脳脊髄液の麻疹ウイルス抗体の高値(血清1:256以上・CSF 1:4以上、IgG index 上昇)、④脳生検での核内封入体(Dawson 小体)、の4項目で診断します。確定診断には①②③の3項目で十分とされ、④は侵襲性から通常は行いません。MRI では第2期以降に白質病変・脳萎縮が確認されますが、第1期は正常のことがあります。血清・CSF 麻疹抗体の検出に際しては、IgG 抗体が常に高値であり、ワクチン接種既往だけでは除外できないため、抗体価の絶対値および CSF/血清比(intrathecal antibody production)を評価することが重要です。
治療・ケア
治療・ケア
現時点で根治療法は存在しません。最も研究されている治療はイノシンプラノベックス(IMP)100mg/kg/日の経口投与で、1ヶ月投与・1ヶ月休薬を1サイクルとして6サイクル以上実施します。進行を遅らせる効果が一部で報告されていますが、すべての症例で有効ではありません。インターフェロンα(IFN-α)の脳室内投与は限られた症例で試みられており、侵襲的な処置を要します。ミオクローヌスおよびてんかん発作の管理にはカルバマゼピン(200〜400mg/日)またはバルプロ酸(600〜1200mg/日)が用いられます。非薬物療法として、経管栄養・排痰管理・体位変換による褥瘡予防・関節拘縮予防の理学療法が主体となります。家族への心理社会的支援(告知後のグリーフケア・在宅ケア指導)が治療の重要な柱です。
予後・経過
予後・経過
発症から1〜3年で植物状態に移行し、多くは5〜7年以内に死亡します。まれに長期寛解(10年以上)の報告例がありますが、全体の5〜10%未満です。発症年齢が低いほど、また進行が急速なほど予後は不良です。2歳未満発症例では特に予後が悪く、1〜2年で死亡に至ることが多いとされています。麻疹ワクチンの2回接種によりSSPEはほぼ完全に予防可能であり、ワクチン接種率の維持が集団レベルでの発症防止に直結します。
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の重要ポイント
麻疹ワクチン2回接種が唯一の予防手段——1回のみ接種や未接種はSSPEリスクを高める
発症から死亡まで1〜3年——学童期の子どもが対象になるため家族への心理的支援が不可欠
脳波のラドマエヤー複合+血清・髄液の麻疹抗体高値が診断の二本柱(Dyken基準)
2歳未満での麻疹感染がSSPEの最大危険因子——乳幼児への麻疹伝播防止が重要
イノシンプラノベックス(IMP)100mg/kg/日が最も研究されている治療だが根治には至らない
根治療法がないため診断後はてんかん管理・経管栄養・褥瘡予防などの対症ケアが中心
母子手帳のワクチン記録確認——SSPEと診断されたらワクチン接種歴の詳細な聴取が必須
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