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基礎知識の解説
放射線照射後の脳壊死とは
放射線性脳壊死(放射線性白質脳症・放射線照射後遅発性認知機能障害)は、脳腫瘍・脳転移・頭頸部がんへの放射線治療後に、照射を受けた脳組織が壊死・変性する遅発性副作用です。全脳照射(WBRT)後の認知機能低下は特に問題となり、照射から数ヶ月〜数年後に発症します。好発年齢は50〜70代(放射線治療を受けることが多い年代)で、主要症状は①認知機能低下(記憶・処理速度・注意力)、②易疲労感・集中力の低下、③局所神経症状(運動麻痺・感覚障害)、④てんかん発作(壊死巣が大きい場合)の4つです。腫瘍再発との鑑別が治療方針決定において最重要課題となります。
主な症状
- 1認知機能低下(近時記憶・処理速度・注意力・実行機能)
- 2新しいことを覚えられない(近時記憶障害)
- 3易疲労感・集中力の低下・作業効率の低下
- 4局所神経症状(照射部位による運動麻痺・感覚障害・失語)
- 5頭痛・吐き気(浮腫・壊死巣による頭蓋内圧亢進)
- 6てんかん発作(壊死巣が皮質に近い場合)
- 7人格変化・感情の易変性・抑うつ
- 8MRI(FLAIR・T2強調)での大脳白質広範高信号域
- 9MRI(T1増強)での壊死巣のリング状増強効果
- 10歩行障害・バランス障害(小脳・脳幹への照射後)
原因・メカニズム
原因・メカニズム
放射線は血管内皮細胞とオリゴデンドロサイト(ミエリン産生細胞)に直接DNA損傷を与えます。血管内皮障害により脳小血管の閉塞・微小出血・血液脳関門の破綻が起き、慢性的な脳虚血・浮腫が生じます。オリゴデンドロサイトの障害と脱髄により大脳白質が広範に変性する「白質脳症」が形成されます。全脳照射後の慢性認知機能低下には、海馬歯状回の神経幹細胞(neural progenitor cells)の障害による海馬新生の抑制が重要な役割を担うと考えられています。照射線量(単回・総線量)・分割回数・照射野の広さ・化学療法の同時使用・患者年齢が壊死の発症リスクと重症度に影響します。定位放射線手術(SRS)では照射境界に高線量が集中するため局所壊死リスクがあり、全脳照射では広範な白質障害が問題となります。
診断
診断
診断の基本は照射歴と症状出現の時間的関係の確認です。全脳照射では照射後6ヶ月〜数年後、SRSでは照射後1〜3年後に遅発性変化が多く現れます。頭部MRI(T1増強・T2/FLAIR・DWI)で照射野の白質変化・壊死巣(T1増強リング状・T2高信号)を確認します。腫瘍再発との鑑別が最重要課題で、MRスペクトロスコピー(MRS:Cho/Cr比・NAA低下)・MR灌流(rCBV低下)・FDG-PETまたはアミノ酸PET(FMT-PET:代謝活性の低下)が補助的に使用されます。確定診断には組織生検が必要な場合もありますが、侵襲性が高いため慎重に適応を判断します。神経心理検査(MoCA-J・ウェクスラー記憶検査)で認知機能障害の全体像を定量評価します。日本放射線腫瘍学会ガイドラインでは定期的なMRIフォローアップと多職種チームによる管理が推奨されています。
治療・ケア
治療・ケア
軽度〜中等度の白質変化に対しては認知リハビリテーション(記憶補完戦略・代償手段の習得)とデイサービス・通所リハビリの活用が主体です。局所壊死巣・浮腫に対しては、ベバシズマブ(アバスチン:5〜10mg/kg、2〜4週ごと)が腫瘍壊死因子VEGF阻害により浮腫・壊死の縮小に有効であることが複数の臨床試験で示されています。ステロイド(デキサメタゾン)は急性期浮腫の一時的な改善に有効ですが、長期使用は骨粗鬆症・糖尿病などの副作用が問題となります。大きな壊死巣・腫瘍再発との鑑別困難例では外科的切除が選択されることがあります。予防として現代では海馬回避全脳照射(HA-WBRT)・定位手術的照射(SRS)により脳機能へのダメージを最小化する治療法が標準化されつつあります。メマンチン(20mg/日)の予防投与が全脳照射後の認知機能低下を軽減するというエビデンスもあります。
予後・経過
予後・経過
放射線性白質脳症は進行性の経過をたどる場合と症状が安定する場合があり、予測が困難です。局所壊死巣はベバシズマブにより縮小することがありますが、広範な白質変化は不可逆的な場合が多いです。Aoyama H et al.(2015)は定位照射(SRS)と全脳照射の比較試験で、SRS単独群の方が照射後12ヶ月時点の認知機能が有意に保たれていることを示しました。予防が最善の対策であり、初期治療段階から神経認知機能保護を意識した照射計画が重要です。
放射線照射後の脳壊死の重要ポイント
「脳への放射線治療後の認知機能低下」は放射線性脳障害を常に鑑別に挙げる
全脳照射(WBRT)の代替として、海馬回避WBRT・定位照射(SRS)が認知機能保護に有効
腫瘍再発と放射線壊死の鑑別が治療方針を決める——MRS・アミノ酸PETが鑑別に有用
ベバシズマブが放射線壊死の縮小・浮腫改善に有効なことがある
「がんを治す治療」の長期副作用について、患者・家族が治療前に十分な説明を受けて意思決定できる環境が重要
認知リハビリと代償手段(手帳・ホワイトボード活用)で日常生活の質を維持することができる
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