分類6|中毒・薬剤によるもの約5分で読めます
放射線照射後の脳壊死とは?
脳腫瘍などへの放射線治療による脳組織の壊死
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
西村幸江さん(仮名・58歳)は5年前に肺がんの脳転移に対し、全脳照射(WBRT)を受けました。その時点では転移巣のコントロールが目的で、副作用について「後で認知機能に影響が出ることがある」と説明は受けていましたが、「命を守るためだから仕方ない」という気持ちで治療を受けました。
治療後2〜3年は元気に過ごしていましたが、4年目ごろから物忘れが目立ち始めました。新しいことを覚えられない。計算が遅くなった。以前より疲れやすく、長い時間の活動が難しくなりました。
「放射線照射後の脳変化です」と主治医から説明を受けました。MRIでは照射を受けた白質に変化が確認されました。「放射線脳壊死(または放射線性白質脳症)」という状態でした。
「がんを治すための治療が、別の問題を生んだ」という複雑な気持ちを幸江さんは抱えています。担当医は「当時の状況では全脳照射が最善の選択でした。現在はより局所的な定位照射が選ばれることが多く、脳への影響を最小化できるようになっています」と説明しました。
幸江さんはデイサービスを活用しながら、夫の健一さんと自宅で生活しています。
広告
基礎知識の解説
放射線照射後の脳壊死とは
放射線照射後の脳壊死(放射線性脳壊死・放射線性白質脳症)は、脳腫瘍・頭頸部がんなどへの放射線治療後に、照射を受けた脳組織が壊死・変性する遅発性の副作用です。照射から数ヶ月〜数年後に認知機能障害・白質変化が現れます。全脳照射(WBRT)後の認知機能低下は特に問題となります。
主な症状
- 1認知機能低下(記憶・処理速度・注意力)
- 2倦怠感・集中力低下
- 3局所神経症状(照射部位による)
- 4頭痛・てんかん発作(壊死巣が大きい場合)
- 5MRIで照射野の変化・壊死巣(リング状増強効果)
- 6白質脳症(広範な白質病変)
原因・メカニズム
放射線が血管内皮細胞・オリゴデンドロサイトに障害を与え、脱髄・血管障害・脳組織の壊死を引き起こします。全脳照射後の慢性白質変化は、海馬・白質の微小血管障害と神経幹細胞の障害が主なメカニズムです。照射線量・分割回数・照射野の広さ、化学療法の同時使用が影響します。
診断
MRIで照射野の変化・白質病変・壊死巣(T1増強・T2高信号)を確認します。腫瘍再発との鑑別が重要で、MRS・MR灌流・FDG-PETが補助的に使われます。照射歴と症状出現の時間的関係が診断に重要です。
治療・ケア
軽度の白質変化:対症的に認知リハビリ・デイサービス活用が主体です。局所壊死巣:ベバシズマブ(血管新生阻害薬)が浮腫・壊死を縮小させる効果があります。ステロイドが一時的な浮腫改善に有効です。外科的除去は大きな壊死巣に選択されることがあります。
予後・経過
放射線性白質脳症は進行性の場合もあり、症状が安定する場合もあります。予防が最善で、現代では海馬回避全脳照射・定位手術的照射(SRS)により認知機能へのダメージを最小化する治療法が選ばれています。
この疾患の重要ポイント
- •「脳への放射線治療後の認知機能低下」は放射線性脳障害を常に考慮する
- •全脳照射(WBRT)の代替として、海馬回避WBRT・定位照射(SRS)が認知機能保護に有効
- •腫瘍再発と放射線壊死の鑑別が治療方針を決める——MRS・PETが鑑別に有用
- •ベバシズマブが放射線壊死の縮小に有効なことがある
- •「がんを治す治療」の長期副作用を患者・家族に事前に説明し、意思決定を支援することが重要
広告