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薬剤性認知機能障害とは?
睡眠薬・抗不安薬・抗コリン薬などの多剤併用
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
永井美代子さん(仮名・79歳)は複数の慢性疾患を持ち、5つの病院から合計12種類の薬を処方されていました。何年も前からの不眠に対してベンゾジアゼピン系睡眠薬、胃もたれにはH2ブロッカー、花粉症に抗ヒスタミン薬、膀胱炎には抗コリン薬——複数の医師が処方した薬が「偶然に重なって」いました。
「最近急に認知症が進んだ」と娘の恵美さんが心配して受診した老年内科で、主治医が薬のリストを見て眉をひそめました。「これだけ抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系が重なっていれば、認知機能が落ちて当然です」。
「薬剤性認知機能障害」と判断され、薬の整理が始まりました。不眠にはベンゾジアゼピン系の代わりにスボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬)へ変更、抗ヒスタミン薬は中止、H2ブロッカーはプロトンポンプ阻害薬に変更。抗コリン薬の膀胱直腸障害治療薬も見直しました。
3ヶ月後の再診で美代子さんは「頭がすっきりした」と言い、認知機能検査のスコアが明らかに改善していました。「薬を飲んでいたことが、逆に認知症を引き起こしていたとは…」と恵美さんは驚きを隠せませんでした。
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基礎知識の解説
薬剤性認知機能障害とは
薬剤性認知機能障害は、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)・抗ヒスタミン薬・抗コリン薬・H2ブロッカーなどの薬剤が認知機能を低下させる状態です。高齢者では薬剤の代謝・排泄が低下しており、薬が脳に蓄積しやすくなります。原因薬剤を整理することで改善が期待できる「治る認知症」の一つです。
主な症状
- 1認知機能低下(記憶・注意・処理速度)
- 2過剰な鎮静・傾眠・ふらつき
- 3混乱・見当識障害
- 4便秘・口渇・尿閉(抗コリン症状)
- 5転倒リスクの増加
- 6薬剤開始後・増量後に症状が悪化する
- 7服薬中止・減量で症状が改善する
原因・メカニズム
ベンゾジアゼピン系薬はGABA受容体を強化して鎮静・健忘作用を持ちます。抗コリン薬はアセチルコリン系(記憶・認知に不可欠)を阻害します。高齢者では血液脳関門の透過性上昇・肝腎機能低下による薬の蓄積が起きやすく、若年者の数倍の脳への影響が生じます。「抗コリン薬負荷スコア(ACB)」が認知症リスクを評価するツールとして使われています。
診断
服用中の全薬剤(市販薬・サプリ含む)のリストアップが最重要です(ポリファーマシーの確認)。認知症様症状が特定の薬剤開始・増量後に出現または悪化したかを確認します。「お薬手帳」を持参させ、複数医療機関からの処方を一元把握します。
治療・ケア
原因薬剤の中止または減量(急な中止は禁忌の場合があるため漸減)が治療です。かかりつけ薬剤師・薬局による処方整理(ポリファーマシー解消)が有効です。ベンゾジアゼピン系睡眠薬の代替薬(スボレキサント・レンボレキサント)への変更が有効です。
予後・経過
原因薬剤の中止・変更で多くの場合に認知機能が改善します。改善には数週間〜数ヶ月かかることがあります。
この疾患の重要ポイント
- •「多剤服用高齢者の認知症様症状」は薬剤性認知機能障害を必ず疑う——「治る認知症」
- •抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系・抗ヒスタミン薬が特に注意が必要な薬剤
- •「お薬手帳」持参・かかりつけ薬剤師への相談でポリファーマシーを防ぐ
- •高齢者に「ひとつ薬を追加するなら、ひとつ薬を見直す」という原則を
- •家族が薬の管理を手伝うことで過剰服薬・見落としを防ぐ
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