季節に合った服を目につく場所に置く
視覚的なヒントで適切な服装を促す
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
認知症が進むと、季節や気温を自分で判断して服を選ぶことが難しくなります。クローゼットに今の季節の服だけを置き、目につきやすくすることで、本人が自然に適切な服を選びやすくなり、熱中症や低体温症のリスクも減らせます。
体験談
真夏の暑い日、母(79歳、アルツハイマー型認知症)が厚手のセーターを着てリビングに現れました。「お母さん、今日は暑いよ」と言っても、「そう?」と言うだけで、着替えようとしません。逆に真冬には、半袖のブラウス一枚で出かけようとして、慌てて止めたこともありました。
最初は「まあ、多少寒くても暑くても、本人がいいなら」と大目に見ていましたが、熱中症や低体温症のリスクを考えると、放っておけないと思うようになりました。母のクローゼットを見ると、季節に関係なく、あらゆる服がごちゃ混ぜに並んでいて、母自身、今の季節に合った服がどれか分からなくなっていたのだと気づきました。
ケアマネジャーさんに相談し、「季節外れの服はクローゼットの奥や別の部屋にしまって、今の季節に着る服だけを目につく場所に置いてみては」とアドバイスをもらいました。
実践してみると、母は目の前にある服の中から自然に選ぶようになり、季節に合わない服を着ることがほとんどなくなりました。「選ぶ」という行為自体は変わらず楽しんでいるようで、ただ選択肢を絞ってあげるだけで、こんなに変わるのかと驚きました。
— 79歳の母(アルツハイマー型認知症)と同居する51歳娘
詳しく知る
なぜ季節に合わない服を選んでしまうのか
なぜ季節に合わない服を選んでしまうのか
季節に合った服を選ぶには、「今の気温はどれくらいか」「今日は何月か」「この服はどの季節向けか」といった複数の情報を組み合わせて判断する必要があります。認知症が進むと、こうした複合的な判断が難しくなり、目に入った服を季節に関係なく選んでしまうことがあります。
また、見当識障害(今がいつなのか分かりにくくなる症状)により、実際の季節感と本人の感覚がずれてしまうことも背景にあります。
季節に合わない服装は、単なる見た目の問題ではなく、夏なら熱中症、冬なら低体温症のリスクに直結するため、注意が必要です。具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「本人のこだわりもあり、勝手に服を片付けづらいです」
💬 「本人のこだわりもあり、勝手に服を片付けづらいです」
介護経験者からのアドバイス
「私も最初は、母の服を勝手にしまうことに抵抗がありました。『自分の物を勝手に触られた』と感じさせたくなかったからです。
そこで、母がいる前で『そろそろ夏の服を出そうか』と声をかけながら、一緒に衣替えをするような形で進めました。完全に本人抜きで片付けるのではなく、一緒に作業する形にすることで、納得感を持ってもらいやすかったです。
すべての服を隠す必要はなく、季節外れの服が数着交ざっている程度なら、あまり神経質にならなくても大丈夫だと思います。極端な選択(真冬に半袖一枚など)を防げれば十分です。」
実践のステップ
クローゼットを季節ごとに整理し、今の季節の服だけを目につく場所に置く
季節外れの服は別の場所(奥・別の衣装ケースなど)にしまう
前日や当日の朝に、家族が2〜3着の候補を用意して選んでもらう
衣替えは本人抜きで進めず、一緒に作業する形にする
気温と服装の目安を書いた表をクローゼットや玄関に貼っておく
本人の好きな色・柄は残し、選ぶ楽しみを保つ
注意点
真夏に厚着を続けて顔が赤い・汗をかいていない様子がある場合や、真冬に薄着のまま外出しようとして震え・唇の色の変化が見られる場合は、熱中症・低体温症の可能性があります。環境の工夫だけで様子を見ず、すぐに医療機関に相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
真夏の厚着や真冬の薄着で、顔色の変化・発汗の異常・震えなど熱中症や低体温症を疑うサインがある場合は、環境の工夫だけで対応しようとせず、速やかに医療機関に相談してください。
応用・バリエーション
衣替えのたびに一からクローゼットを整理するのが難しい場合は、季節ごとに『今シーズン用』の衣装ケースをあらかじめ用意しておき、シーズンが変わったらケースごと入れ替えるだけにすると、負担を減らせます。
まとめ
このヒントのポイント
季節や気温を判断して服を選ぶことが難しくなる
今の季節の服だけを目につく場所に置き選択肢を絞る
季節外れの服は本人の前で一緒に整理する
気温と服装の目安表など視覚的なヒントも有効
熱中症・低体温症のサインには特に注意する
関連するヒント
根拠について:季節に応じた選択肢の絞り込みが認知症のある方の適切な衣服選択を助けるという考え方は、認知症ケアにおける環境調整の一般的な実践知として支持されているが、この方法単独の効果を検証した系統的研究は限定的である。