着替えの手順を声かけでサポート
順序立てた指示で混乱を防ぐ
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
着替えは、いくつもの動作が組み合わさった複雑な一連の作業です。一度に多くを伝えず、一つの動作ごとに短く区切って声をかけることで、本人の混乱を減らし、スムーズに着替えを進めやすくなります。
体験談
父(77歳、アルツハイマー型認知症)は、着替えの途中でよく動きが止まってしまいます。シャツを頭からかぶった状態で固まっていたり、ズボンを片足だけ通して次にどうすればいいか分からなくなったり。私は「早くして」と急かしてしまい、父はますます混乱して、着替えそのものを嫌がるようになっていきました。
ある日、デイサービスの職員さんが着替えを手伝う様子を見学させてもらう機会がありました。職員さんは「シャツを持ちますね」「右腕を通しましょう」「次は左腕です」と、一つひとつの動作を短い言葉で区切って伝えていました。父は驚くほどスムーズに、指示に沿って体を動かしていました。
家に帰ってから、私も同じように「一度に一つの指示」を意識するようにしました。「シャツを着ましょう」ではなく、「右手をここに入れて」「次は左手」というふうに。最初はまどろっこしく感じましたが、父の混乱が明らかに減り、着替え全体にかかる時間もむしろ短くなりました。急かす言葉をやめて、一つずつ伝える。それだけのことで、こんなに変わるとは思いませんでした。
— 77歳の父(アルツハイマー型認知症)を在宅介護する47歳息子
詳しく知る
なぜ着替えの途中で動きが止まってしまうのか
なぜ着替えの途中で動きが止まってしまうのか
着替えは、「シャツを持つ」「袖に腕を通す」「襟元を整える」「ボタンを留める」など、多くの細かい動作が順序立てて組み合わさった行為です。健常な人は無意識にこの手順をこなしていますが、認知症により実行機能(物事を計画し、順序立てて実行する力)が低下すると、次に何をすればよいか分からなくなり、動作の途中で止まってしまう(動作の停止)ことがあります。
このとき、「早くして」「何をしているの」と急かしたり責めたりすると、本人は焦りと混乱をさらに深め、着替えそのものへの拒否感が強まる悪循環に陥りやすくなります。
「一度に一つの指示」の伝え方
「一度に一つの指示」の伝え方
1動作を細かく分解する
「着替えましょう」という大きな指示ではなく、「シャツを持ちましょう」「右腕をここに入れましょう」「次は左腕です」というように、一つの動作ごとに区切って伝えます。
2短く、具体的な言葉を使う
長い説明文ではなく、「右手、ここ」のように、短く具体的な言葉の方が伝わりやすいことがあります。
3一つの指示が完了してから、次を伝える
複数の指示を一度に伝えると、本人はどれから手をつければよいか分からなくなります。一つの動作が終わったのを確認してから、次の指示に移りましょう。
4動作を見せながら伝える(模倣を促す)
言葉だけでなく、介助者が同じ動作をして見せる、本人の手を軽く誘導するなど、視覚的・身体的な手がかりを組み合わせると、より伝わりやすくなります。
💬 「一つずつ伝えるのがまどろっこしくて、つい急かしてしまいます」
💬 「一つずつ伝えるのがまどろっこしくて、つい急かしてしまいます」
介護経験者からのアドバイス
「私も最初は『そんなに丁寧にやってたら時間がかかる』と思っていました。でも実際は逆で、急かすことで本人が混乱し、かえって着替え全体の時間が長引いていたんです。
一度に一つの指示を心がけるようになってから、父も迷わず体を動かせるようになり、結果的に着替え全体がスムーズに、むしろ早く終わるようになりました。焦らず、一つひとつ。急がば回れだと実感しています。」
声かけ以外の工夫
声かけ以外の工夫
1着替えやすい衣類を選ぶ
前開きの服、伸縮性のある素材、大きめのボタンやマジックテープなど、動作の負担が少ない衣類を選ぶことで、動作の停止自体を減らせます。
2着る順番を考えて服を渡す
下着からズボン、シャツの順など、着る順番通りに服を並べて渡すと、本人が次に何を着るか迷いにくくなります。
3焦らせる環境を減らす
時間に余裕を持ってスケジュールを組み、テレビの音や周囲の会話など、気が散る刺激を減らした環境で行うと、集中しやすくなります。
こんな時は専門家に相談
こんな時は専門家に相談
- 声かけの工夫をしても、着替えの動作停止が非常に頻繁で、日常生活に大きな支障が出ている
- 着替えの拒否が強く、暴言や抵抗を伴う
- 手足の動かし方そのものに異常(麻痺、震えなど)が見られる
こうした場合は、作業療法士やケアマネジャー、かかりつけ医に相談し、本人の身体機能や認知機能に合わせた具体的な介助方法の指導を受けることができます。
まとめ:急がば回れ、一つずつの声かけが近道
まとめ:急がば回れ、一つずつの声かけが近道
着替えの途中で動きが止まるのは、本人が困っている、助けを必要としているサインです。急かすのではなく、一つの動作ごとに区切って伝えることで、混乱を防ぎ、結果的にスムーズな着替えにつながります。
実践のステップ
着替えの動作を『シャツを持つ』『右腕を通す』など細かく分解する
一つの動作ごとに短く具体的な言葉で声をかける
一つの指示が完了してから次の指示に移る
言葉だけでなく、動作を見せる・手を軽く誘導するなど視覚的な手がかりも使う
前開き・伸縮素材など着替えやすい衣類を選ぶ
着る順番通りに服を並べて渡し、テレビなど気が散る刺激を減らした環境で行う
注意点
声かけを工夫しても動作の停止が非常に頻繁である場合、着替えの拒否が強く暴言や抵抗を伴う場合、手足の動かし方に麻痺や震えなど異常が見られる場合は、認知機能以外の要因(身体機能の変化など)が関わっている可能性があります。作業療法士やかかりつけ医に相談してください。
応用・バリエーション
本人の実行機能の低下が進んでいる場合は、家族が最初のきっかけ(シャツを軽く持たせる、袖口を広げておくなど)だけを作り、その後の動作は本人に任せる『部分介助』の形も有効です。どこまで自分でできるかは日によって変わることがあるため、都度様子を見ながら介助の程度を調整しましょう。
まとめ
このヒントのポイント
着替えは多くの動作が組み合わさった複雑な行為
実行機能の低下により動作の途中で止まってしまうことがある
急かさず、一度に一つの動作を短く具体的に伝える
視覚的な手がかり(見せる・軽く誘導する)も組み合わせる
着替えやすい衣類の選択と落ち着いた環境づくりも重要
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