分類4|代謝・内分泌・栄養の異常約6分で読めます

副腎白質ジストロフィーとは?

脂肪酸代謝異常による白質変性疾患

Yuya Kobayashi, MD, PhD

医療監修

Yuya Kobayashi, MD, PhD

認知症専門外来・在宅診療医

副腎白質ジストロフィーについて、「なぜこんな行動をするの?」2分の無料チェックで、次の受診で伝えるべきことを整理できます。

2分でチェック

体験談・具体的な事例

IT企業でシステムエンジニアとして働く35歳の男性、中川誠二さん(仮名)は、週末は小学4年生の息子・太一(仮名・10歳)と公園でキャッチボールをするのが楽しみでした。妻・清美さん(仮名・33歳)と3人で暮らす名古屋市内のマンションには、いつも笑い声が絶えませんでした。 最初に変化に気づいたのは担任教師でした。「太一くんが最近、授業中に聞き返すことが増えました。視力の問題かもしれないので眼科受診をお勧めします」という連絡が学校から届きました。眼科で異常がないと言われた後も、太一の「見えにくい」「ぼやける」という訴えは続き、歩き方もわずかにふらつくようになりました。6ヶ月前まで活発にスポーツをしていた息子の変化を前に、誠二さんと清美さんは「何かおかしい」という確信を深めていきました。 小児神経科を受診してMRI検査を行うと、大脳白質後部(頭頂後頭葉)に広範な変性病変が確認されました。担当医はすぐに「副腎白質ジストロフィー(ALD)」を疑い、血液中の超長鎖脂肪酸(VLCFA: Very Long Chain Fatty Acids)を測定しました。結果は正常上限の3倍以上——テトラコサン酸(C24:0)およびヘキサコサン酸(C26:0)が著明に高値でした。ABCD1遺伝子解析でも病的変異が確認され、「X染色体連鎖副腎白質ジストロフィー(小児大脳型ALD)」の確定診断が下りました。 「X染色体に連鎖した遺伝性疾患です。まずはお母様がX染色体の保因者かどうかを確認する遺伝子検査をお勧めします」という医師の言葉に、清美さんは息を呑みました。検査の結果、清美さんのABCD1遺伝子に太一と同じ病的変異が確認され、無症候性の保因者であることが判明しました。清美さん自身に自覚症状はありませんでしたが、「保因者女性の一部は将来的に軽度の脊髄症状(AMN軽症型)を呈することがある」と説明を受け、定期的な神経学的フォローアップが提案されました。誠二さんの遺伝子検査は陰性で、副腎機能にも異常は認められませんでした。「気づいてあげられなかった」という自責の念が込み上げる清美さんに、主治医は「X連鎖遺伝は多くの場合、家系に何の予兆もないまま初めての発症者として見つかります。誰の落ち度でもありません」と説明し、遺伝の仕組みを理解するための家族カウンセリングが開始されました。 太一の治療については「造血幹細胞移植が唯一の疾患修飾的治療ですが、MRIの病変スコア(Loes score)が9以上になると移植後の転帰が不良になります。現在のLoes scoreは7——急いでドナー選定を進める必要があります」という説明がありました。幸い非血縁骨髄バンクから適合ドナーが見つかり、診断から3ヶ月後に移植が施行されました。前処置として大量化学療法(ブスルファン・シクロホスファミド)を行い、移植後12ヶ月の時点でMRIの進行が停止していることが確認されました。 移植後2年が経過した現在、太一は週3回の訪問リハビリ(理学療法・作業療法)を続けながら特別支援学級に通っています。視力は改善せず歩行に補助が必要な状態ですが、タブレット端末を使ってコミュニケーションする力は保たれています。清美さんは保因者としての定期的な神経学的フォローアップを継続しており、現時点で症状の出現はありません。 「もっと早く知っていたら」という後悔は今もあります。しかし誠二さん夫婦は、男児を持つ親たちへの啓発活動に参加し、「学習面や行動の変化を学校の問題と決めつけず、MRIを含む医学的評価を受けてほしい」と訴え続けています。

基礎知識の解説

小児型は急速進行、成人型は緩徐進行

副腎白質ジストロフィー(ALD: Adrenoleukodystrophy)は、ABCD1遺伝子の変異により超長鎖脂肪酸(VLCFA)の代謝が障害され、脳の白質と副腎に蓄積するX染色体連鎖の遺伝性代謝疾患です。男性において最も重篤な小児大脳型(4〜10歳発症・急速進行)と、成人型の副腎脊髄ニューロパチー(AMN、20〜40代発症・緩徐進行)を呈します。血漿VLCFAの著明な上昇と特徴的なMRI所見(大脳白質後部病変)が診断の手がかりとなります。

主な症状

  • 1小児大脳型:行動変容・学習障害(初発症状)
  • 2小児大脳型:視力低下・聴覚障害
  • 3小児大脳型:歩行障害・運動退行
  • 4小児大脳型:痙攣・急速な神経退行
  • 5成人脊髄型(AMN):痙性対麻痺(下肢の突っ張り・歩行困難)
  • 6成人脊髄型:末梢神経障害・膀胱直腸障害
  • 7副腎不全:皮膚色素沈着(特にアジソン病様変化)・倦怠感・低血圧
  • 8認知機能低下(特に小児大脳型では急速かつ著明)
  • 9MRIでの大脳白質後部(頭頂後頭葉・脳梁膨大部)の特徴的病変
  • 10女性保因者:軽度の脊髄症状(AMN軽症型)を示すことがある

原因・メカニズム

ABCD1遺伝子はペルオキシソーム膜のABC輸送体をコードし、VLCFAをペルオキシソームに取り込んでβ酸化するために必須です。ABCD1変異によりこの輸送体が機能せず、炭素数22以上のVLCFA(特にC26:0・C24:0)がミエリン・副腎皮質に蓄積します。小児大脳型では急速な炎症性脱髄が主体であり、T細胞・マクロファージの浸潤を伴う神経炎症が大脳後部から前部へ進展します。成人型(AMN)は炎症が目立たない軸索変性・脱髄が脊髄・末梢神経に緩徐に進行します。副腎皮質のVLCFA蓄積は副腎不全を引き起こします。

診断

血漿VLCFAの著明な上昇(C26:0、C26:0/C22:0比、C24:0/C22:0比の上昇)が診断の第一歩であり、感度は男性患者でほぼ100%です。ABCD1遺伝子変異の確認で確定診断します。MRIでは大脳白質後部(Loes分類のzone 1: 後頭葉・頭頂葉・脳梁膨大部)の特徴的なT2/FLAIR高信号と、造影検査での病変辺縁の増強効果(活動性炎症)が確認されます。Loes scoreは病変の程度を数値化し(0〜34点)、造血幹細胞移植の適応判断に用いられます。副腎機能検査(コルチゾール基礎値・ACTH刺激試験)が副腎不全の評価に必須です。

治療・ケア

小児大脳型の早期(Loes score 9未満、症状が軽度の時期)に実施する同種造血幹細胞移植(HSCT)が唯一の確立された疾患修飾的治療です。移植のタイミングが予後を決定的に左右します。自家造血幹細胞にレンチウイルスベクターでABCD1遺伝子を補正する遺伝子治療(エリバルドジェン オートテムセル/Skysona)は、マッチするドナーが得られない場合の代替として、米国では2022年にFDAの加速承認を取得しました(2024年に血液悪性腫瘍〔骨髄異形成症候群・白血病〕リスクを踏まえた枠付き警告とREMSが追加)。EUでも2021年に条件付き承認されていますが、日本国内(PMDA)では未承認であり、国内での使用には治験等の枠組みが必要です。副腎不全にはヒドロコルチゾン補充療法(成人10〜20mg/日、小児は体表面積換算)が必須であり、副腎クリーゼ予防のために患者・家族への教育が重要です。ロレンツォの油(エルカ酸・オレイン酸の混合油)はVLCFAを低下させますが、症状が出た後の神経保護効果は限定的で、無症状保因者の発症予防に一定の効果が示唆されています。AMNへの対症療法として、痙性対麻痺に筋弛緩薬(バクロフェン)・排尿障害に泌尿器科的治療が行われます。

予後・経過

小児大脳型は適切なタイミングでの移植がなければ診断後2〜5年以内に重篤な神経障害・死亡に至ります。早期移植(Loes score 9未満)を受けた場合は長期生存・機能温存が期待できます。成人脊髄型(AMN)は緩徐進行で数十年の経過をたどりますが、最終的に歩行困難・排尿障害が進行します。副腎機能は補充療法で管理可能であり、副腎不全による死亡は予防できます。

似た症状の疾患との違い

疾患名見分け方のポイント
異染性白質ジストロフィー(MLD)MLDはARSA酵素欠損によるスルファチド蓄積が原因で常染色体劣性遺伝、成人型では精神症状が先行しやすい。ALDはABCD1遺伝子異常によるVLCFA蓄積が原因のX連鎖性遺伝で、小児大脳型は行動変容・視力低下から急速に進行し、副腎不全を高頻度に合併する点で区別される。
多発性硬化症(MS)MSも大脳白質にMRI病変を呈するが、病変は側脳室周囲に散在性・非対称性に分布し(Dawson指サイン)、寛解と再発を繰り返す経過をとる。ALDの病変は大脳白質後部(頭頂後頭葉)に左右対称かつ進行性に広がり、血漿VLCFA上昇という代謝異常を伴う点で異なる。
孤立性の原発性副腎不全(アジソン病)副腎不全単独では神経症状やMRI白質病変を伴わない。ALDでは副腎不全が神経症状に先行または並行して出現しうるため、原因不明の副腎不全と診断された男性・男児では血漿VLCFA測定によるALDの除外が推奨される。
最終更新日:

参考文献

  1. [1]Moser HW, Mahmood A, Raymond GV.. X-linked adrenoleukodystrophy. Nat Clin Pract Neurol (2007)
  2. [2]Engelen M, Kemp S, de Visser M, et al.. X-linked adrenoleukodystrophy (X-ALD): clinical presentation and guidelines for diagnosis, follow-up and management. Orphanet J Rare Dis (2012)
  3. [3]日本先天代謝異常学会. 副腎白質ジストロフィー診療ガイドライン. 日本先天代謝異常学会 (2019)

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

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