分類8その他・稀な遺伝性疾患10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

アレキサンダー病とは?

GFAPの変異による白質変性の遺伝性疾患

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

症状のことや介護の悩みを、認知症を専門とする医師に直接相談できます。初回500円・48時間以内に回答。

相談する

体験談・具体的な事例

桐野美沙子さん(仮名・38歳)は、九州地方の小さな市役所で戸籍・住民票の窓口を担当する公務員でした。几帳面で話し上手な彼女は、市民からの信頼も厚く、同僚たちとの関係も良好でした。夫・雄介さん(仮名・40歳)との間に子どもはなく、2人で休日は海沿いをドライブするのが楽しみでした。 35歳頃から「声がかすれる」「飲み込みにくい」という症状が始まりました。かかりつけ医に相談すると「加齢や逆流性食道炎では」と言われ、胃酸抑制薬を処方されましたが改善はありませんでした。やがて市民との窓口対応で「うまく言葉が出ない」「発音がはっきりしない」という自覚が出てきて、雄介さんも「美沙子の話し方が変わった」と感じるようになりました。37歳のとき、市内の総合病院の神経内科を初めて受診しました。 神経学的診察では構音障害(dysarthria)と嚥下障害(dysphagia)が確認され、眼振・四肢の協調運動障害(測定異常・輪番運動障害)も認められました。「球麻痺症状と小脳症状が合わさっている」として、頭部MRIを撮影すると、延髄と頸髄の萎縮に加え、小脳脚・脳幹の白質に異常T2高信号が確認されました。「成人発症の脳幹・脊髄型白質変性症——稀な遺伝性疾患を疑う」として、三次病院(大学病院の希少神経疾患センター)への紹介が行われました。 大学病院でのGFAP(グリア線維酸性タンパク: Glial Fibrillary Acidic Protein)遺伝子解析により、ヘテロ接合性のミスセンス変異(GFAP p.R416W)が確認されました。「アレキサンダー病(成人型)」の確定診断でした。「GFAPはアストロサイトの主要な骨格タンパクです。この変異タンパクがアストロサイト内でミスフォールドし、ローゼンタール線維という異常な集積物を形成して脳幹・脊髄・小脳の白質を侵します」という説明を受けながら、美沙子さんは「これは遺伝する病気なのか」という疑問を担当医に問いかけました。 「常染色体優性遺伝です。ただし新規変異(de novo変異)のケースも多く、ご両親への影響は不明なことが多いです。ご確認のために、ご両親の検査もお勧めします」という医師の説明を受け、美沙子さんの父親が検査を受けました。父親も同じGFAP変異を持っていましたが、これまで明確な症状を自覚していませんでした。「父も同じ遺伝子を持っていると知ったとき、なぜ父が先に病気にならなかったのかという不思議と、これが家族を繋ぐ病気なのかという怖さが混ざりました」と美沙子さんは振り返ります。 子どもがいない美沙子さんにとって遺伝の問題は直接的ではありませんでしたが、弟夫婦が子どもを望んでいることを知り、遺伝カウンセラーとの面談に弟夫婦も同席しました。治療は言語聴覚士によるリハビリテーション(構音訓練・嚥下訓練)、食事形態の調整(ソフト食・増粘剤使用)、バクロフェン(5〜10mg/日)による痙性管理が中心となりました。また、補助コミュニケーション機器(タブレット型AAC端末)の導入を作業療法士と検討しました。 診断から1年半が経った現在、美沙子さんは在宅勤務が認められた市役所のバックオフィス業務に異動しています。声の通りはさらに低下しましたが、AACを使って雄介さんや職場の同僚と日常のコミュニケーションを維持しています。「嚥下リハビリを頑張っていると、先生から『誤嚥性肺炎を防げている』と言ってもらえる。それが今の目標です」と話す美沙子さんの言葉には、日々を丁寧に生きようとする強さがあります。血清GFAPは定期的に計測されており、今後の治療薬開発に向けたバイオマーカー研究への協力にも積極的に参加しています。

基礎知識の解説

アレキサンダー病とは

アレキサンダー病は、GFAP遺伝子変異によりアストロサイト内にローゼンタール線維が形成される常染色体優性遺伝の稀な白質変性疾患です。乳児型(最重症、脳全体の白質変性・大頭症・てんかん)・幼児型・成人型(脳幹・脊髄・小脳優位の萎縮と白質変化、球麻痺・小脳症状が主体)に分類されます。成人型は30〜40代に発症することが多く、緩徐進行します。発症頻度は100万人に1人以下と推定される極めて稀な疾患で、日本国内の報告例も限られます。

主な症状

  • 1成人型:構音障害(dysarthria)・嚥下障害(dysphagia)——球麻痺症状
  • 2成人型:小脳失調・歩行障害・協調運動障害
  • 3成人型:認知機能低下(記憶・実行機能)
  • 4成人型:眼球運動障害・眼振(主に垂直性)
  • 5成人型:脊髄症状(痙性対麻痺)
  • 6成人型:自律神経障害(睡眠障害・体温調節異常)
  • 7乳児型:大頭症・てんかん・発達退行・痙性
  • 8幼児型:歩行障害・嚥下障害・認知退行
  • 9MRIでの脳幹(延髄優位)・小脳・頸髄の萎縮と白質変化(成人型の特徴)
  • 10血清・脳脊髄液GFAP濃度の上昇

原因・メカニズム

GFAP変異タンパク(特にミスセンス変異による機能獲得型毒性)はアストロサイト内で正常なGFAPと凝集し、αB-クリスタリン・Hsp27・ユビキチンなどと共にローゼンタール線維を形成します。ローゼンタール線維の蓄積がプロテアソーム・オートファジー系を障害し、アストロサイトの恒常性維持機能(神経栄養因子供給・グルタミン酸再取り込み・血液脳関門維持・ミエリンホメオスタシス)が失われます。これにより白質の変性・萎縮が進行します。成人型では脳幹・脊髄・小脳に病変が集中するのが乳児型との主な違いです。

診断

GFAP遺伝子解析でヘテロ接合性病的変異を確認することでほぼ確定診断します(新規変異も多い)。成人型のMRIでは脳幹(特に延髄)・小脳・頸髄の萎縮と白質変性(T2高信号)が特徴的であり、乳児型と異なり大脳白質の広範な病変は目立ちません。血清GFAP濃度および脳脊髄液GFAP濃度の上昇が診断補助・疾患活動性の指標として有用です。家族歴(常染色体優性遺伝パターン)の確認が重要ですが、de novo変異の場合は家族歴がないことも多いです。鑑別疾患として延髄優位の筋萎縮性側索硬化症(ALS)・多系統萎縮症・遺伝性痙性対麻痺などが挙げられます。

治療・ケア

根治療法は現時点では確立していません。嚥下障害に対する言語聴覚士によるリハビリテーションと食事形態の調整(ソフト食・増粘剤・場合により胃瘻造設)が誤嚥性肺炎予防に最も重要です。痙性にはバクロフェン(経口または髄腔内投与)・チザニジンを使用します。てんかん(主に乳幼児型)には抗てんかん薬を使用します。歩行補助具(短下肢装具・歩行器)の早期導入が転倒予防と歩行維持に有効です。コミュニケーション補助機器(AAC:Augmentative and Alternative Communication)が構音障害の進行例で重要な役割を果たします。研究段階として、GFAPを標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)療法が動物モデルで有望な効果を示しています。遺伝カウンセリングが家族計画において必須です。

予後・経過

乳児型は最も予後が悪く、多くが10歳以前に死亡します。成人型は比較的緩徐な進行ですが、球麻痺(嚥下障害)の進行による誤嚥性肺炎が主要な死因となります。発症から10〜20年の経過をたどる例もありますが、最終的には重篤な運動・コミュニケーション障害に至ります。早期からの嚥下リハビリ・栄養管理が生存予後の改善に寄与します。

アレキサンダー病についてもっと詳しく相談したい方へ

アレキサンダー病に関するご疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。

初回500円・48時間以内に医師が回答

医師査読済コンテンツ

本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

査読基準・検証フローを確認する →
公開日:

参考文献

  1. [1]Messing A, LaPash Daniels CM, Hagemann TL.Strategies for treatment in Alexander diseaseNeurotherapeutics (2010)
  2. [2]Prust M, Wang J, Morizono H, et al.GFAP mutations, age at onset, and clinical subtypes in Alexander diseaseNeurology (2011)

本サイトの医療コンテンツは医師による査読を経て公開しています。

監修ポリシーを確認する →