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遺伝性拡散性白質脳症(ALSP)とは?
神経軸索スフェロイド形成を伴う白質変性
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
宮崎由美さん(仮名・44歳)の母が40代で「認知症」と言われて亡くなっていました。「若年性認知症は遺伝するのかな」と不安を抱えながら過ごしてきた由美さんでしたが、42歳から自分自身にも変化が出てきました。
最初はてんかん発作でした。突然意識を失い、救急搬送されました。MRIで大脳白質に広範な病変が見つかり、さらに両側の前頭葉にカルシウムの沈着(石灰化)も確認されました。
「遺伝性白質脳症の一種が疑われます」として、CSF1R遺伝子の解析を行うと、変異が確認されました。「ALSP(遺伝性拡散性白質脳症)」の診断でした。「コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)の変異で、脳のマクロファージ(ミクログリア)が正常に機能しなくなる常染色体優性の白質変性症です」と説明を受けました。
「お母さんも同じ病気だったんですね」という言葉が、由美さんに複雑な感情をもたらしました。
「遺伝子治療の研究が進んでいます。今できることを最大限やりながら、新しい治療を待ちましょう」という担当医の言葉を支えに、由美さんは今日も過ごしています。
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基礎知識の解説
遺伝性拡散性白質脳症(ALSP)とは
ALSP(Adult-onset Leukoencephalopathy with axonal Spheroids and Pigmented glia:遺伝性拡散性白質脳症)は、CSF1R遺伝子変異によりミクログリアが機能不全となり、大脳白質に神経軸索スフェロイド・色素沈着グリアが形成される常染色体優性の白質変性疾患です。認知機能低下・てんかん・精神症状・運動障害が30〜50代に発症します。
主な症状
- 1認知機能低下(記憶・実行機能・処理速度)
- 2てんかん発作
- 3精神症状(うつ・精神病様症状)
- 4運動障害(歩行困難・錐体路症状)
- 5パーキンソン様症状
- 6失語
- 7白質病変(MRI)と石灰化(CT)の合併が特徴的
- 8急速な進行(数年で重篤化)
原因・メカニズム
CSF1R変異によりミクログリアのコロニー刺激因子1(CSF1/IL-34)シグナルが障害され、ミクログリアの生存・機能維持が失われます。ミクログリア機能不全により、白質のホメオスタシス・髄鞘維持・軸索保護が障害され、神経軸索スフェロイドと色素沈着グリアが蓄積します。
診断
CSF1R遺伝子解析で変異を確認します。MRIで大脳白質の広範な変性と脳梁菲薄化が特徴的です。頭部CTで白質内の石灰化(びまん性または斑状)が確認されます。家族歴(常染色体優性)の確認が診断の重要な手がかりです。
治療・ケア
根治療法は現時点では確立していません。造血幹細胞移植(HSCT)が疾患初期に行われた場合に進行を遅らせる可能性があるという報告があります。てんかん・精神症状・運動障害の対症療法が主体です。遺伝カウンセリングが家族全員に必要です。
予後・経過
発症から6〜12年で重篤な障害に至ることが多いです。進行速度には個人差があります。遺伝子治療・ミクログリア移植などの治療研究が進行中です。
この疾患の重要ポイント
- •「40〜50代の白質変性症+石灰化(CT)+家族歴」はALSPを疑う
- •CSF1R遺伝子解析が診断の決め手——希少遺伝性疾患専門施設での診断が重要
- •常染色体優性遺伝——子への遺伝確率50%、遺伝カウンセリングが必須
- •「てんかん+白質変性症」の組み合わせで若年〜中年発症は稀な遺伝性疾患を鑑別に
- •造血幹細胞移植の早期実施が唯一の可能性のある疾患修飾的治療——発症前・初期の診断が鍵
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