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基礎知識の解説
異染性白質ジストロフィーとは
異染性白質ジストロフィー(MLD: Metachromatic Leukodystrophy)は、ARSA遺伝子変異によりアリルスルファターゼA(ARSA)酵素が欠損し、スルファチドが中枢・末梢神経のミエリン産生細胞に蓄積する常染色体劣性のライソゾーム蓄積症です。乳児型(1.5歳以前発症、最重症)・幼児型(1.5〜6歳)・成人型(16歳以降)に分類され、成人型では精神症状・認知機能低下が先行するためうつ病・統合失調症と誤診されやすいです。発症頻度は約1/4万出生で、白質ジストロフィーの中では最多とされます。
主な症状
- 1成人型:精神症状(行動変容・感情不安定・認知機能低下)が初発
- 2成人型:痙性歩行・協調運動障害
- 3成人型:末梢神経障害(腱反射低下・感覚障害)
- 4成人型:言語・コミュニケーション障害(語想起困難・構音障害)
- 5成人型:排尿障害
- 6乳児型:発達退行・歩行喪失・筋緊張低下・嚥下障害
- 7幼児型:認知退行・学習障害・行動変容・痙攣
- 8全型:MRIでの大脳白質の広範な変性(前頭葉優位の対称性T2高信号)
- 9神経伝導検査での伝導速度著明低下(脱髄型末梢神経障害)
- 10尿中スルファチド排泄増加
原因・メカニズム
原因・メカニズム
ARSA酵素欠損によりスルファチド(3-O-スルホガラクトシルセラミド)がリソゾーム内で分解されず、ミエリンを産生するオリゴデンドロサイト(中枢神経)およびシュワン細胞(末梢神経)に蓄積します。スルファチドの過剰蓄積がミエリンの変性・崩壊を引き起こし、軸索の保護機能が失われます。病変は大脳・小脳・脊髄・末梢神経に進行します。「メタクロマジー」(異染性)とは、スルファチドが酸性クレジルバイオレット染色で赤褐色に染まる(通常と異なる色調)性質を指します。
診断
診断
血漿または白血球のARSA酵素活性の著明な低下(正常の10〜15%以下)で疑い診断します。ARSA遺伝子解析で両アレルに病的変異を確認することで確定診断します。尿中スルファチド排泄増加が補助的指標となります。MRIでは大脳白質の広範なT2/FLAIR高信号(前頭葉・頭頂葉優位の対称性分布、「蝶の羽」様パターン)が特徴的です。神経伝導検査では運動・感覚神経伝導速度の著明な低下(脱髄型多発神経障害)が確認されます。成人型では精神科初診が多いため、「若年成人の行動変容+白質変性(MRI)+腱反射消失」の組み合わせが鑑別のきっかけとなります。
治療・ケア
治療・ケア
造血幹細胞移植(HSCT)が発症前または発症初期(症状が軽度の段階)に行われた場合に疾患進行を遅らせる効果があります。遺伝子治療(Atidarsagene autotemcel:自家造血幹細胞へのレンチウイルスベクターによるARSA遺伝子補正)がEU・米国で承認されており、発症前〜初期の患者に有望な結果が示されています。日本では未承認ですが、患者申出療養制度等の活用が検討されます。症状が進行した後は対症療法が主体です。痙縮にバクロフェン・チザニジン、排尿障害に抗コリン薬、精神症状に対症的向精神薬を使用します。言語聴覚療法・作業療法・福祉機器(コミュニケーション補助機器)の活用が生活の質を支えます。
予後・経過
予後・経過
発症年齢・型によって予後が大きく異なります。乳児型は最も重症で、発症から3〜5年以内に死亡することが多いです。幼児型は数年〜10年の経過をたどります。成人型は比較的緩徐に進行しますが、最終的に重篤な認知症・運動障害に至ります。遺伝子治療が早期症例の予後を大きく変える可能性があり、新生児スクリーニングによる発症前診断が治療機会を最大化します。
異染性白質ジストロフィーの重要ポイント
「若年成人の精神症状(行動変容・認知低下)+MRI白質変性+腱反射消失」はMLDを疑う
成人型では精神症状が先行しうつ病・統合失調症と誤診されやすい——早期に神経内科評価を
ARSA酵素活性の血液検査が簡便なスクリーニング——白質変性疾患を疑ったら酵素活性を測定
遺伝子治療(Atidarsagene autotemcel)が欧米承認——発症前・初期での診断が治療機会に直結
常染色体劣性遺伝——両親・兄弟姉妹への酵素スクリーニングと遺伝カウンセリングを実施
新生児スクリーニング(一部の国で実施中)が早期診断・治療機会の最大化につながる
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