分類8|その他・稀な遺伝性疾患約5分で読めます
海馬硬化症とは?
高齢者に多い海馬の神経細胞脱落による記憶障害
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
岡本千枝子さん(仮名・85歳)は「最近の記憶がひどく抜ける」と家族に言われていました。朝食を食べたことを忘れ、孫の名前がわからなくなることもある。ただ昔の思い出はよく語れます。
娘の敬子さんが連れていったもの忘れ外来で、認知機能検査を受けました。記憶力は著明に低下していましたが、それ以外の認知機能(言語・視空間・実行機能)は比較的保たれていました。MRIでは両側の海馬が著明に萎縮していましたが、側頭葉・頭頂葉の萎縮はアルツハイマー病ほど広くありませんでした。
アミロイドPET検査を行うと陰性でした。「アルツハイマー病ではなく、海馬硬化症(LATE:加齢性TDP-43脳症)の可能性が高い」と担当医から説明を受けました。
「85歳以上の超高齢者では、アミロイドなしで海馬が萎縮するTDP-43病変が認知症の重要な原因となっています」と説明を受けました。
「認知症の薬(コリンエステラーゼ阻害薬)を飲んでも、LATE には効きにくいかもしれません」と言われましたが、「それでも試してみたい」と千枝子さんは言いました。デイサービスを活用しながら、家族と一緒に毎日を大切にしています。
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基礎知識の解説
海馬硬化症とは
海馬硬化症(LATE:Limbic-predominant Age-related TDP-43 Encephalopathy)は、85歳以上の超高齢者でTDP-43タンパクが海馬・扁桃体に蓄積し、海馬の神経細胞が脱落する疾患です。アルツハイマー病に似た記憶障害を呈しますが、アミロイドβ・タウは陰性であることが特徴です。超高齢者の認知症の15〜25%に関与するとされます。
主な症状
- 1記憶障害(特に最近の出来事)——アルツハイマーに類似
- 2比較的局所的な認知障害(言語・視空間は初期に保たれることが多い)
- 3見当識障害(日時・場所)
- 4緩徐な進行(アルツハイマーより遅い傾向)
- 5MRIでの海馬・扁桃体の選択的萎縮
- 6アミロイドPET陰性(アルツハイマーとの鑑別点)
原因・メカニズム
TDP-43(TAR DNA-binding protein 43)が海馬CA1領域・扁桃体・嗅内皮質の神経細胞内に蓄積し、細胞死を引き起こします。TDP-43は正常ではDNA・RNAの結合タンパクとして核内に存在しますが、疾患状態では細胞質に異常集積します。GRNやATXN2などの遺伝子変異がリスクとなる場合があります。
診断
生前確定診断は困難で、病理解剖が必要です。アミロイドPET陰性・海馬の選択的萎縮・超高齢者という条件がLATEを示唆します。「アルツハイマー治療薬を投与しても改善しない超高齢者の認知症」の再評価にLATEを考慮します。
治療・ケア
根治療法はありません。コリンエステラーゼ阻害薬の効果はアルツハイマーより限定的とされますが、症例によっては使用されます。非薬物療法(認知リハビリ・運動・デイサービス)が生活の質を維持します。
予後・経過
アルツハイマーより緩徐な進行とされますが、超高齢者であるため他の疾患(感染症・転倒)による影響が大きいです。
この疾患の重要ポイント
- •85歳以上の「アミロイドPET陰性の認知症」はLATE(海馬硬化症)を考慮する
- •超高齢者の認知症の15〜25%に関与——非常に一般的な高齢者の認知症原因
- •アルツハイマー病と臨床的に区別が難しいが、アミロイドPETで鑑別できる
- •コリンエステラーゼ阻害薬の効果が限定的——過剰治療を避けた介護重視のアプローチも重要
- •LATE研究は急速に進んでいる——将来のTDP-43標的治療薬開発に期待
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