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基礎知識の解説
海馬硬化症とは
海馬硬化症(LATE:Limbic-predominant Age-related TDP-43 Encephalopathy)は、85歳以上の超高齢者においてTDP-43タンパクが海馬・扁桃体・嗅内皮質に選択的に蓄積し、神経細胞死を引き起こす疾患である。アルツハイマー病に類似した記憶障害(特に近時記憶の障害)を呈するが、アミロイドβおよびタウの蓄積を伴わないことが特徴的である。2019年のNelson PTらによるコンセンサスレポートで疾患概念が確立され、85歳以上の認知症の15〜25%に関与するとされる。主症状は近時記憶障害・見当識障害であり、言語・視空間機能・実行機能は初期に比較的保たれることが多い。アルツハイマー病より緩徐な進行をたどる傾向がある。
主な症状
- 1近時記憶の著明な障害(最近の出来事の忘却——アルツハイマーに類似)
- 2遠隔記憶の比較的良好な保持(古い記憶・昔の話は語れる)
- 3見当識障害(日時・曜日の混乱)
- 4言語流暢性・視空間機能の初期における比較的良好な保持
- 5緩徐な進行(アルツハイマーより遅い傾向)
- 6MRIでの海馬・扁桃体の選択的・両側性萎縮
- 7アミロイドPET陰性(アルツハイマーとの鑑別における重要な所見)
- 8実行機能・処理速度の後期における低下
- 9昼夜逆転・睡眠障害(進行に伴って出現することがある)
- 10嚥下障害・転倒(重症化した場合)
原因・メカニズム
原因・メカニズム
TDP-43(TAR DNA-binding protein 43)は正常では核内に存在しDNA・RNA代謝に関与するタンパクであるが、LATE では細胞質に異常集積して封入体を形成し、核内機能が失われることで神経細胞死が生じる。病変は嗅内皮質→海馬CA1領域→扁桃体の順に広がるとされ(LATE-NC病期分類Stage 1〜3)、最終的に前頭葉を含む広域に及ぶ。GRN(グラニュリン)遺伝子変異やABCC9・KCNMB2多型がリスク因子として同定されている。TDP-43病変はアルツハイマー病変(アミロイド・タウ)と合併することが多く(約50%)、複合病理としての認知症が超高齢者では一般的である。
診断
診断
生前の確定診断は困難であり、病理解剖が確定診断の基準となる。臨床的にLATEを示唆する条件は「85歳以上」「近時記憶障害が主体」「脳MRIで海馬・扁桃体の選択的萎縮」「アミロイドPET陰性(またはCSFアミロイドβ42正常)」の組み合わせである。2019年のNelson PTらのコンセンサス作業グループレポート(Brain誌)がLATEの診断基準・病期分類を提示している。アルツハイマー病・海馬型記憶障害を来たす他疾患(血管性・レビー小体型・FTLD)との鑑別にアミロイドPET・タウPET・FDG-PETが用いられる。アルツハイマー病変との合併例では両者の鑑別が困難となる場合がある。
治療・ケア
治療・ケア
根治療法は現時点で存在しない。コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル・リバスチグミン等)の効果はアルツハイマーより限定的とされるが、合併するアルツハイマー病変に対する効果や行動症状への部分的な効果を期待して症例ごとに判断される。非薬物療法が中心となり、認知リハビリテーション・運動療法・デイサービス(得意なことを生かした活動)が生活の質と残存機能の維持に有効である。睡眠障害・BPSDに対しては薬物療法(少量の抗精神病薬・睡眠薬)を慎重に使用する。転倒予防・嚥下管理・栄養管理が重症化予防の要点となる。
予後・経過
予後・経過
アルツハイマー病と比較して緩徐に進行する傾向があるが、発症年齢が85歳以上であるため他疾患(感染症・転倒骨折・心血管疾患)による影響が大きく、認知症以外の要因が予後を左右することが多い。適切な在宅支援・デイサービス利用により、在宅生活を長期間維持できる例もある。TDP-43標的治療薬の開発は現在進行中であり、今後の治療選択肢の拡大が期待される分野である。
海馬硬化症の重要ポイント
85歳以上の「アミロイドPET陰性の記憶障害」はLATE(海馬硬化症)を考慮する——超高齢者の認知症の15〜25%に関与する一般的な原因である
アルツハイマー病と臨床像が類似するが、アミロイドPET検査で鑑別できる——不必要なアルツハイマー治療薬の使用を避けるために重要な検査である
TDP-43が海馬・扁桃体に選択的に蓄積する——2019年のコンセンサスで確立された比較的新しい疾患概念であり研究が急速に進んでいる
アルツハイマー病との合併が約50%に見られる——複合病理としての認知症管理が超高齢者では一般的となる
コリンエステラーゼ阻害薬の効果は限定的——薬物療法より非薬物療法(認知リハ・運動・デイサービス)を重視した介護中心のアプローチが有効である
本人が「やってみたい」と言う意思を尊重し、試験的な治療を共に検討することが医療倫理の基本である
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