分類4代謝・内分泌・栄養の異常10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

ビタミンB12欠乏症とは?

治療可能な認知機能低下の重要な原因

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

「受診すべきか迷っている」「診断結果を聞いたが理解できない」という段階の疑問を、認知症を専門とする医師が丁寧に回答します。

相談する

体験談・具体的な事例

村上トシ子さん(仮名・74歳)は、宮城県仙台市で娘夫婦と同居する元小学校教員です。退職後は地域の読み聞かせボランティアを続け、週に3日は図書館に通うほど活動的でした。20年以上前から「体に優しい食生活を」と完全菜食主義(ヴィーガン)を実践し、肉・魚・卵・乳製品を一切口にしない生活を続けてきました。 65歳ごろから両足の先にじんわりとした痺れを感じるようになりましたが、「足腰が弱くなっただけ」と放置していました。73歳になると変化が加速しました。毎日通い慣れたスーパーへの道順を間違える、読み聞かせの順番を忘れる、娘の美香さんに同じ質問を何度も繰り返す——そうした出来事が週に複数回起きるようになりました。心配した美香さんが付き添い、大学病院のもの忘れ外来を受診しました。 問診・神経学的診察に続いて採血を行ったところ、血清ビタミンB12値が92 pg/mL(正常値:200〜900 pg/mL)と著明な低値を示しました。担当医はさらにメチルマロン酸とホモシステインを測定し、それぞれ正常上限の4倍・3倍という高値を確認しました。大球性貧血(MCV 108 fL)と過分葉好中球もみられ、「長年の菜食による重度ビタミンB12欠乏が、神経障害と認知機能低下の原因です」と診断されました。MRI脳画像では脳萎縮は軽度にとどまっており、担当医は「治療できます」と明言しました。 翌日からシアノコバラミン1000μgの筋肉注射を週3回開始し、4週後から週1回に移行しました。3週間後には足の痺れが「半分以下になった」と自覚でき、2ヶ月後には認知機能検査(MMSE)のスコアが受診時の23点から28点に改善しました。担当医から「内因子を介した経口吸収には限界があるため、注射が最も確実」と説明を受け、トシ子さんは定期的な注射継続を選びました。 治療開始から3ヶ月が経ち、美香さんは「お母さんが戻ってきた」と言います。読み聞かせボランティアにも復帰し、以前と同じように子どもたちに絵本を読み聞かせることができています。担当医からは「菜食を続けるなら、シアノコバラミン1000μg/日の経口サプリメントか月1回の注射を生涯続けてください」と指導を受けました。 トシ子さんは今、毎朝B12サプリメントを飲むことを習慣にしています。「20年間も知らなかったのが悔しい。菜食主義の方には早めに教えてあげてほしい」と振り返ります。家族にとっても、「認知症と思っていたのが治る病気だった」という体験は、早期受診への強い動機づけとなりました。 ビタミンB12欠乏は、適切な検査と早期治療によって多くの場合に認知機能が回復する「治る認知症」の代表例です。菜食主義者・高齢者・胃切除後の方が認知症様の症状を示したとき、まず血清B12値を測定することが重要です。

基礎知識の解説

ビタミンB12欠乏症とは

ビタミンB12欠乏症は、DNA合成・ミエリン形成・ホモシステイン代謝に不可欠なコバラミンの不足によって認知機能障害・末梢神経障害・脊髄亜急性連合変性・大球性貧血を引き起こす治療可能な疾患です。血清B12値200 pg/mL未満が欠乏の目安とされ、菜食主義者・悪性貧血(内因子抗体陽性)・胃切除後・萎縮性胃炎・メトホルミン長期服用者・高齢者に好発します。日本国内では高齢化に伴い潜在的欠乏者が増加しており、認知症と誤診されやすいため「見逃してはならない治る認知症」として日本神経学会ガイドラインでも必須評価項目に位置づけられています。ビタミンB12の補充によって多くの症例で認知機能・神経症状の改善が得られます。

主な症状

  • 1認知機能低下(記憶・注意・処理速度・遂行機能の障害)
  • 2末梢神経障害(手足の痺れ・灼熱感・疼痛・感覚鈍麻)
  • 3脊髄亜急性連合変性(後索・側索障害による歩行障害・深部感覚障害・痙性)
  • 4大球性・正色素性貧血(疲労・動悸・息切れ・顔色不良)
  • 5舌炎・口内炎(ハンター舌炎:赤く平滑な舌)
  • 6抑うつ・易刺激性・精神病様症状
  • 7視神経症(視力低下・中心暗点)
  • 8ホモシステイン高値による血管内皮障害・血栓リスク上昇
  • 9振動覚・位置覚の低下(神経学的所見)
  • 10Romberg試験陽性(閉眼で著明な体幹動揺)

症状の進行

欠乏初期欠乏から数ヶ月〜数年
  • 手足のしびれ・ピリピリ感(末梢神経障害)

  • 倦怠感・易疲労感

  • 大球性貧血(動悸・息切れ)

  • 軽度の物忘れ・集中力低下

進行期欠乏が長期化
  • 歩行障害・深部感覚障害(亜急性連合変性)

  • 認知機能低下が日常生活に影響

  • 舌炎・口内炎

  • 精神症状(抑うつ・精神病様症状)

治療後(回復期)B12補充後
  • 早期治療で認知機能・神経症状の大部分が回復

  • 末梢神経障害は数ヶ月かけて改善

  • 脊髄変性が進んだ場合は完全回復が困難

  • 生涯にわたるB12補充で再発を予防

※ 進行速度・症状の現れ方は個人差が大きく、必ずしも順序通りに進むとは限りません。

原因・メカニズム

ビタミンB12(コバラミン)はメチルコバラミンとアデノシルコバラミンという2種の活性型補酵素として機能します。メチルコバラミンはメチオニン合成酵素の補酵素として5-メチルテトラヒドロ葉酸からホモシステインへのメチル基転移を触媒し、DNAメチル化・神経伝達物質合成・ミエリン塩基性蛋白の合成に不可欠なメチオニンを供給します。B12が欠乏するとホモシステインが蓄積し、血管内皮への直接毒性・酸化ストレス・神経毒性をもたらします。アデノシルコバラミンはメチルマロニルCoAをスクシニルCoAに変換するメチルマロニルCoAムターゼの補酵素として働き、欠乏するとメチルマロン酸が蓄積してミエリン合成が障害されます。その結果、脊髄後索・側索・末梢神経のミエリンが脱落し、亜急性連合変性が生じます。動物性食品のみに含まれるB12は、胃壁細胞が分泌する内因子と結合して回腸末端で吸収されるため、内因子欠乏・胃酸低下・回腸切除があると経口摂取が十分でも吸収が成立しません。

診断

日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」では、認知症疑い症例への血清ビタミンB12測定を推奨しています。血清B12値200 pg/mL未満が欠乏の診断閾値とされますが、200〜300 pg/mL の「正常低値」でも機能的欠乏が存在することがあり、その際はメチルマロン酸(≥271 nmol/L で欠乏を示唆)とホモシステイン(≥15 μmol/L で上昇)を測定して機能的B12欠乏を確認します。悪性貧血の診断には内因子抗体(特異度95%以上)および抗胃壁細胞抗体を用います。末梢血塗抹標本では大球性赤血球(MCV >100 fL)と過分葉好中球(5葉以上が5%超)が確認されます。神経学的評価として神経伝導検査(末梢神経障害のパターン確認)、頸髄・胸髄MRI(後索・側索の異常信号)が有用です。

治療・ケア

ウェルニッケ脳症を合併する重症例や経口吸収が期待できない症例(悪性貧血・胃切除後・重度萎縮性胃炎)では、シアノコバラミン1000μgの筋肉注射が選択されます。標準的なプロトコルは初期2週間は隔日注射、その後週1回を1〜2ヶ月、維持期は月1回の継続です。内因子が機能する場合には経口高用量補充(シアノコバラミン1000〜2000μg/日)で受動拡散による吸収(約1%)を利用した補充が可能です。国内ではメコバラミン(メチルコバラミン)錠500μg×3回/日が広く用いられています。食事面では動物性食品(肝臓・牛肉・魚介・卵・乳製品)の摂取を指導し、菜食主義者にはB12強化食品またはサプリメントの永続的服用を推奨します。メトホルミン服用中の糖尿病患者では年1回のB12測定を検討します。

予後・経過

早期発見・早期治療により認知機能障害・末梢神経障害は著明に改善することが多く、治療開始後数週間〜3ヶ月で効果が現れます。しかし脊髄亜急性連合変性(後索・側索のミエリン脱落)が進行した症例では運動障害・感覚障害が残存することがあり、完全回復が困難な場合もあります。欠乏期間が長いほど(目安:数年以上)、また発症時の神経学的重症度が高いほど予後は不良です。補充療法を中断すると再欠乏が生じるため、原因が除去できない場合(悪性貧血・菜食主義の継続など)は生涯にわたる補充が必要です。

ビタミンB12欠乏症についてもっと詳しく相談したい方へ

ビタミンB12欠乏症に関するご疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。

初回500円・48時間以内に医師が回答

医師査読済コンテンツ

本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

査読基準・検証フローを確認する →
公開日:

参考文献

  1. [1]Stabler SPVitamin B12 deficiencyN Engl J Med (2013)
  2. [2]Carmel RHow I treat cobalamin (vitamin B12) deficiencyBlood (2008)
  3. [3]日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017医学書院 (2017)
  4. [4]Healton EB et alNeurologic aspects of cobalamin deficiencyMedicine (Baltimore) (1991)

本サイトの医療コンテンツは医師による査読を経て公開しています。

監修ポリシーを確認する →