分類4代謝・内分泌・栄養の異常10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

葉酸欠乏症とは?

葉酸不足による神経・認知機能への影響

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

症状のことや介護の悩みを、認知症を専門とする医師に直接相談できます。お試し相談 ¥1,000・48時間以内に回答。

相談する

体験談・具体的な事例

柴田幸雄さん(仮名・71歳)は、大阪府吹田市で一人暮らしをする元製造業の現場監督です。40年間、工場の生産ラインを仕切り続けた気骨のある人物でした。定年退職後は週2回のゲートボールを楽しんでいましたが、妻を4年前に亡くしてからは外出が減り、食事はもっぱらコンビニのおにぎりや缶詰、インスタント味噌汁で済ませる日々が続きました。 70歳を過ぎたころから、変化が出始めました。ゲートボール仲間との打ち合わせで約束を忘れる、電話で同じ話を繰り返す、月末の家計管理で計算に時間がかかるようになる——異変に気づいた長男の健太さんが「物忘れが心配だから一緒に診てもらおう」と誘い、かかりつけ医を経由して大学病院のもの忘れ外来を受診しました。 神経心理検査(MMSE 24点・MoCA 21点)と採血を実施したところ、血清葉酸値が2.1 ng/mL(基準値:3.1〜20.5 ng/mL)と低値、赤血球葉酸値も79 ng/mL(基準値:150 ng/mL以上)と半値以下でした。血清ホモシステインは23 μmol/L(基準値:15 μmol/L未満)と高値を示し、血清ビタミンB12も215 pg/mL と正常低値でした。大球性貧血(MCV 105 fL)も認められ、「偏食による葉酸欠乏がホモシステイン蓄積を介して認知機能に影響している」と診断されました。MRIでは脳萎縮は軽度で、白質病変は認めませんでした。 治療は葉酸5mg/日の経口補充とビタミンB12(メコバラミン1500μg/日)の同時投与から開始しました。担当医から「葉酸だけを補充するとB12欠乏の神経症状が隠蔽される危険がある」と説明があり、両方同時に開始することが強調されました。3ヶ月後、ホモシステインは13 μmol/L と基準値内に改善し、MMSEも27点に回復しました。幸雄さん自身も「頭がはっきりしてきた気がする」と変化を実感しました。 健太さんは週に2〜3回、実家に立ち寄って野菜料理を持参するようになりました。ほうれん草の胡麻和え、枝豆の煮物、納豆ご飯——葉酸を多く含む食品を意識したメニューです。「父が喜んで食べてくれるから、料理も苦にならない」と健太さんは言います。幸雄さんのゲートボール参加回数も元の週2回に戻りました。 治療開始から6ヶ月が経ち、担当医の診察で「認知機能は安定しており、葉酸・B12値も適正範囲に維持されています」との評価を受けました。幸雄さんは毎食後にサプリメントを飲む習慣を身につけ、「一人でいると食事が偏る。意識しないといけないと分かった」と話します。 葉酸欠乏は、適切な栄養管理とビタミン補充によって改善できる「治る認知症」の一つです。高齢者の一人暮らしに多い偏食が引き金になりやすく、認知症疑いの評価では葉酸・B12・ホモシステインの測定が欠かせません。

基礎知識の解説

葉酸欠乏症とは

葉酸欠乏症は、DNA合成・核酸代謝・ホモシステインのメチオニンへの変換に必須な葉酸(ビタミンB9)の不足によって認知機能障害・大球性貧血・精神症状を引き起こす治療可能な疾患です。血清葉酸値3.1 ng/mL未満または赤血球葉酸値150 ng/mL未満が欠乏の目安とされ、高齢者の偏食・アルコール依存症・消化管吸収障害(クローン病・セリアック病)・葉酸拮抗薬(メトトレキサート・フェニトインなど)の使用が主な原因です。ホモシステイン高値は脳血管障害・認知症の独立した危険因子であり、葉酸補充によるホモシステイン低下が認知機能維持に寄与する可能性が示されています。日本神経学会ガイドラインでは認知症疑い例への葉酸測定を推奨しています。

主な症状

  • 1認知機能低下(記憶・集中力・処理速度・遂行機能の障害)
  • 2抑うつ・無気力・易刺激性
  • 3大球性・正色素性貧血(倦怠感・動悸・息切れ)
  • 4舌炎・口内炎(赤く平滑な舌)
  • 5ホモシステイン高値による血管内皮障害・脳血管リスク上昇
  • 6神経精神症状(焦燥・幻覚・精神病様症状)
  • 7食欲不振・体重減少
  • 8四肢の感覚異常(末梢神経炎:ビタミンB12欠乏合併時に顕著)
  • 9過分葉好中球(末梢血塗抹標本所見)
  • 10胎児神経管欠損リスク上昇(妊娠可能年齢女性における欠乏の場合)

原因・メカニズム

葉酸はテトラヒドロ葉酸(THF)として一炭素単位転移反応の中心を担い、プリン・ピリミジン塩基の合成を通じたDNA複製と、ホモシステインからメチオニンへの変換(ビタミンB12依存的メチル化)に不可欠です。葉酸が欠乏するとホモシステインが蓄積し、血管内皮細胞への酸化ストレス・炎症促進・メチル化反応の全般的な障害をもたらします。ホモシステインはニコチン酸受容体(NMDA受容体)を過剰刺激して神経毒性を示し、脳血管病変・神経変性を加速させます。また葉酸はセロトニン・ドーパミン・ノルエピネフリンの生合成に関与するため、欠乏時には気分障害・精神症状が出現します。葉酸とビタミンB12は代謝経路で相互依存しており、一方が欠乏するともう一方の機能も低下します。さらに葉酸単独補充はB12欠乏の貧血を改善しても神経症状を隠蔽するリスクがあるため、両者の同時評価が不可欠です。

診断

日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」は認知症疑い例への葉酸測定を推奨しています。血清葉酸値(3.1 ng/mL未満で欠乏)と赤血球葉酸値(150 ng/mL未満で欠乏:体内葉酸蓄積量をより正確に反映)を測定します。機能的欠乏の指標としてホモシステイン(15 μmol/L以上で上昇)が有用です。ビタミンB12との合併欠乏を必ず確認します(B12欠乏を見落として葉酸のみ補充すると神経症状が隠蔽される危険)。末梢血検査では大球性貧血(MCV >100 fL)と過分葉好中球が確認されます。薬剤歴(メトトレキサート・フェニトイン・経口避妊薬)と飲酒歴の確認が診断に重要です。

治療・ケア

葉酸サプリメント1〜5mg/日の経口投与が主体です。ビタミンB12欠乏が合併している(または除外できない)場合は必ずB12も同時に補充します。食事改善として葉酸を豊富に含む食品(ほうれん草・ブロッコリー・枝豆・アスパラガス・レバー・納豆)の定期的な摂取を指導します。アルコール依存症が原因の場合は断酒支援と栄養管理を並行します。メトトレキサートなど葉酸拮抗薬による医原性欠乏には亜葉酸カルシウム(ロイコボリン)が選択されることがあります。ホモシステイン高値の心血管リスク低減を目的とした補充も研究されています(Clarke R et al, 2010)。補充後は3〜6ヶ月でホモシステイン値・認知機能検査・血算の再評価を行います。

予後・経過

早期補充によって認知機能障害・貧血・精神症状は多くの場合に改善します。ホモシステイン低下は脳血管リスクの軽減に寄与する可能性があります。欠乏期間が短く脳血管障害が少ない症例ほど回復が良好です。食習慣の改善が難しい高齢一人暮らし・アルコール依存症患者では再発防止のためサプリメントの継続が必要です。

葉酸欠乏症についてもっと詳しく相談したい方へ

葉酸欠乏症に関するご疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。

お試し相談 ¥1,000(初回1回限定)・48時間以内に医師が回答

医師査読済コンテンツ

本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

査読基準・検証フローを確認する →
公開日: 最終更新日:

参考文献

  1. [1]Bailey LB, Gregory JFFolate metabolism and requirementsJ Nutr (1999)
  2. [2]Clarke R et alHomocysteine and dementia: an international consensus statementJ Alzheimers Dis (2010)
  3. [3]日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017医学書院 (2017)
  4. [4]Smith AD et alHomocysteine-lowering by B vitamins slows the rate of accelerated brain atrophy in mild cognitive impairmentPLoS One (2010)

本サイトの医療コンテンツは医師による査読を経て公開しています。

監修ポリシーを確認する →