分類2|血管性認知症約6分で読めます
小血管病による認知症(ビンスワンガー病)とは?
脳の深部の白質が傷つく慢性的な認知症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
木村俊夫さん(仮名・76歳)は長年、高血圧と向き合ってきました。「薬を飲めば大丈夫」と軽く考えていた時期もあり、薬を飲み忘れることも多かった30代・40代でした。
70歳を過ぎたころから、歩き方が変わってきました。一歩一歩がすり足になり、小刻みになる。「お酒でも飲んできたの?」と近所の人に言われるほど、バランスが悪くなりました。同時に物忘れが目立ち始め、直前の話を忘れる、道が覚えられない。
神経内科でMRIを撮ると、脳の深部・白質の広い範囲が白く変化していました(白質病変)。「ビンスワンガー病です」と医師は言いました。長年の高血圧により、脳の深部の細い血管が傷つき、白質の神経線維が広範に障害された状態でした。
妻の澄子さんが特に困ったのは、小刻み歩行による転倒でした。トイレへの歩行中に転倒し、股関節を骨折。その入院をきっかけに、認知機能がさらに悪化しました。「骨折さえなければ」と澄子さんは悔やみますが、担当医は「急性の入院が認知症を悪化させることはよくあること。自分を責めないでください」と声をかけてくれました。
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基礎知識の解説
小血管病による認知症(ビンスワンガー病)とは
ビンスワンガー病(皮質下動脈硬化性脳症)は、長年の高血圧などによる脳深部の細い血管の動脈硬化が原因で、大脳白質が広範に障害される血管性認知症です。MRIで特徴的な白質病変が確認され、認知症・歩行障害・尿失禁の三徴が典型的です。緩徐に進行するタイプが多いです。
主な症状
- 1緩徐に進行する認知機能低下(記憶・実行機能・処理速度)
- 2小刻み歩行・すり足・バランス障害
- 3尿失禁
- 4感情失禁(泣きやすい・笑いやすい)
- 5無関心・抑うつ
- 6注意力・集中力の低下
- 7言語の流暢性低下
- 8精神症状(幻覚・妄想は少ない)
原因・メカニズム
長年の高血圧・糖尿病・脂質異常症などで脳深部の穿通枝(小動脈)が動脈硬化し、大脳白質への慢性的な血流不足が起きます。白質は皮質から脳深部をつなぐ神経線維(軸索)の束であり、ここが広範に障害されると情報の伝達が阻害されます。急性梗塞ではなく、慢性的な虚血変化が主体です。
診断
MRIのFLAIR画像で大脳白質の広範な高信号域(白質病変)を確認します。認知・歩行・尿失禁の三徴と長年の高血圧歴が診断の手がかりです。正常圧水頭症(NPH)との鑑別が必要です。
治療・ケア
根治療法はなく、危険因子(高血圧・糖尿病・脂質異常症)の厳格な管理が進行を遅らせます。転倒予防(歩行補助具・住環境整備)が重要です。コリンエステラーゼ阻害薬が一部の患者に有効な場合があります。デイサービス・リハビリによる機能維持を図ります。
予後・経過
危険因子を管理しなければ緩徐に進行します。転倒・骨折・誤嚥性肺炎が予後を悪化させます。高血圧の適切な管理により進行を大幅に遅らせることが可能です。
この疾患の重要ポイント
- •「長年の高血圧の脳への請求書」——30代からの高血圧放置が70代の認知症につながることがある
- •認知症・歩行障害・尿失禁の三徴がビンスワンガー病の典型
- •転倒・骨折からの入院が認知症を一気に悪化させるリスク——転倒予防が最優先
- •高血圧の厳格な管理が最大の治療——今から始めても進行を遅らせられる
- •正常圧水頭症(NPH)と症状が似ており、治療可能なNPHを見逃さないことが重要
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