分類2血管性認知症10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

脳出血後認知症とは?

脳出血の後遺症として生じる認知機能障害

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体験談・具体的な事例

岸本猛さん(仮名・64歳)は工場の班長として部下20人を束ね、「段取りの鬼」と呼ばれていました。ある月曜の早朝、出勤準備中に突然「頭が割れるように痛い」と倒れ、妻の京子さんが119番を呼びました。救急車の中でGCS(グラスゴー昏睡尺度)はE3V4M5——意識は保たれているものの明らかに混濁していました。 搬送先の脳外科救急でCTを撮影すると「左被殻に約25mLの高吸収域、周囲に浮腫を伴う高血圧性脳出血」と診断されました。意識障害が急速に悪化したため緊急開頭血腫除去術が施行されました。術後はICUへ入室し、右片麻痺・失語が重篤な状態が続きました。意識が清明になった3日後、担当医が「お名前は?」と尋ねると——猛さんは口を動かそうとするのに言葉が出てきませんでした。京子さんはそのとき初めて、「この人が「班長さん」に戻れないかもしれない」と感じたと言います。 発症時のNIHSSスコアは15点でした。ICU管理では降圧目標を収縮期140mmHg(24時間以内)に設定し、持続点滴でニカルジピンを投与しました。急性期リハビリは発症48時間後からPT・OT・STが連日介入を開始しました。PTでは平行棒を使った歩行練習、OTでは利き手交換を見据えた箸の操作訓練、STでは絵カードを使った単語産生練習を毎日実施しました。3週後にNIHSSは8点まで改善し、「ありがとう」「はい」など短い返答が出始めました。 3ヶ月後の退院時評価では、右上肢MMTは3/5(重力に抗してわずかに動く)、MMSE 19/30、WAB-J(日本語版失語症検査)の失語商60(中等度失語)でした。計算・文字の読み書きはまだ困難ですが、簡単な2語文での意思疎通は可能になりました。退院にあたって障害者手帳(肢体不自由2級・言語機能障害3級)を申請し、介護保険の要介護2認定を取得しました。 在宅生活では、ヘルパーが週3日(入浴介助・調理補助)、訪問STが週1回入りました。服薬管理は京子さんがピルケースに朝・昼・夕・眠前と分けてセットし、「飲んだら蓋を閉めて」というルールを猛さんと決めました。最初は「なんで俺が自分でできないんだ」と悔しがっていた猛さんも、半年後には「京子の決めたやり方でやれば失敗しない」と話すようになりました。 京子さんの心境は複雑です。「家に帰ってきてよかった——でも毎日が介護の緊張感です。麻痺した右手が動くたびに嬉しくて、薬を飲んでいたかわからなくなるたびに怖くなる」。それでも「あの日工場に行っていたら、誰も気づかなかったかもしれない。家にいてよかった」と言います。猛さんは今日も、絵カードで単語を覚える練習をしながら、京子さんと食卓を囲んでいます。

基礎知識の解説

脳出血後認知症とは

脳出血後認知症は、高血圧性脳出血やCAA性出血などの後遺症として生じる認知機能障害です。出血部位・血腫量・周囲の浮腫・白質連絡線維の損傷程度によって症状の幅は大きく、運動麻痺・失語などの局所症状と認知症が合併することが多いです。急性期リハビリの早期開始と再出血予防のための厳格な血圧管理が予後を左右する二大介入です。

主な症状

  • 1記憶障害(近時記憶の障害——昨日のことを覚えていない)
  • 2実行機能障害(計画・段取り・手順の遂行困難)
  • 3注意力・集中力の低下(二重課題が困難)
  • 4感情の平板化・無気力・意欲低下
  • 5抑うつ(障害受容過程での二次的うつも多い)
  • 6失語(左半球出血——特に被殻・側頭葉)
  • 7失行・空間認識障害(右半球出血の場合)
  • 8運動麻痺・感覚障害との合併(片麻痺)
  • 9せん妄・混乱(急性出血期の意識変容)
  • 10病識低下(自分の障害を認識しにくくなる)

原因・メカニズム

高血圧性脳出血の好発部位は被殻(約40%)・視床(約30%)・小脳・橋であり、部位により症状の組み合わせが異なります。血腫形成後は血腫自体による脳組織の直接圧迫・破壊に加え、血腫周囲の細胞毒性浮腫(cytotoxic edema)と血管原性浮腫(vasogenic edema)が二次損傷として発症後数日間にわたって拡大します。白質の長距離連絡線維(U線維・皮質脊髄路・弓状束)が断裂すると、遠隔部位の神経回路が機能を失う「離断症候群」が生じ、麻痺・失語・認知障害が複合して出現します。血腫吸収後も神経細胞の不可逆的壊死と白質変性が残存し、遠隔期の認知症として発現します。

診断

頭部CTで急性期血腫は高吸収域として明瞭に描出され、血腫量はABC/2法で推定します(被殻出血30mL以上が手術適応の目安)。MRI SWIでは慢性期血腫(低信号)と微小出血を確認でき、高血圧性変化とCAAの鑑別に有用です。失語評価にはWAB-R(Western Aphasia Battery改訂版)またはSLTA(標準失語症検査)を使用し、失語タイプと重症度を定量化します。発症3ヶ月以降に神経心理検査(MMSE・FAB・MoCA)を施行して認知症の残遺障害を評価し、介護保険・障害者手帳の申請の根拠とします。

治療・ケア

急性期の手術適応は被殻出血で血腫量≥30mL・神経学的悪化を認める場合が目安で、視床出血・橋出血は原則保存療法です。急性期リハビリは発症後24〜72時間以内の早期開始が国際的に推奨されており、PT・OT・STの連日介入が回復を最大化します。降圧管理では発症24時間以内の急速降圧は収縮期140mmHg程度まで、長期目標は130mmHg未満とします(J-stroke 2021準拠)。抗血小板薬・抗凝固薬の再開は出血から最低4〜8週後に脳画像で再確認してから慎重に検討します。認知症症状にはコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル5〜10mg/日)を考慮しますが血管性認知症への効果は限定的です。障害者手帳(肢体不自由・言語機能障害)および介護保険の申請を早期に支援し、多職種連携(訪問PT・OT・ST・ヘルパー・ケアマネ)を構築します。

予後・経過

出血部位・血腫量・年齢・合併症により予後は大きく異なります。被殻出血30mL以下では急性期リハビリにより機能回復が期待できますが、30mL超では重篤な後遺障害が残ることも多いです。発症後6〜12ヶ月が最大回復期で、その後は緩徐な改善が続きます。再出血リスクは年間3〜5%で、厳格な血圧管理が長期予後の最重要因子です。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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公開日: 最終更新日:

参考文献

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  4. [4]日本脳卒中学会脳卒中治療ガイドライン2021協和企画 (2021)

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