分類1|変性性認知症約6分で読めます
大脳皮質基底核変性症とは?
片側の手足が思い通りに動かなくなる
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
伊藤和子さん(仮名・66歳)は右利きの主婦でした。3年前のある日、右手がいうことを聞かなくなりました。
「お皿を持とうとすると、右手が勝手に持ち上がるんです」。箸を持とうとすると、右手は意図とは異なる動きをします。まるで右手が「自分の意思」を持っているかのようで、和子さんは「右手が言うことを聞かない」と表現しました。
神経内科の医師がこの現象に「他人の手徴候(エイリアンハンドサイン)」という名前があることを教えてくれました。右手だけがまるで他人のように動く——大脳皮質と基底核の間の神経回路が障害されることで起きる、この疾患に特徴的な症状だと説明されました。
その後、右手の筋肉が固くなり(筋固縮)、細かい動作ができなくなりました。字を書こうとしても右手が震えて書けません。左手は問題なく動きます。左右差が非常に大きいのが和子さんの症状の特徴でした。
MRIでは左大脳皮質(頭頂葉を中心に)の萎縮が確認されました。診断は「大脳皮質基底核変性症(CBS)」。言語や記憶の障害は初期には少なく、「なぜ手が動かないのか自分でもわからない」という苦痛を和子さんは抱えています。
夫の一郎さんは、和子さんの右手に特殊なグローブをつけて固定し、意図しない動作を抑制する工夫をしています。「妻の右手は今も一生懸命何かをしようとしているように見える」と一郎さんは語ります。
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基礎知識の解説
大脳皮質基底核変性症とは
大脳皮質基底核変性症(CBD/CBS)は、4リピートタウが大脳皮質と基底核に非対称性に蓄積する神経変性疾患です。片側の上肢を中心とした筋固縮・失行・「他人の手徴候」が特徴的で、運動症状と高次脳機能障害(失行・失認)が組み合わさって現れます。PSPと病理的に関連が深い疾患です。
主な症状
- 1片側の肢(多くは利き手側)の筋固縮・不器用さ
- 2失行(道具の使い方がわからない、意図した動作ができない)
- 3他人の手徴候(手が意図と異なる動きをする)
- 4ミオクローヌス(ぴくつき)
- 5失語(言語症状が前面に出る型もある)
- 6高次脳機能障害(失認・空間認識障害)
- 7認知症(前頭葉型の行動変容・実行機能低下)
- 8眼球運動障害(PSPとの重複例)
原因・メカニズム
4リピートタウが大脳皮質(特に頭頂葉・前頭葉)と基底核(被殻・淡蒼球)に非対称性に蓄積します。「バルーンニューロン(腫大した神経細胞)」の出現が病理的特徴です。PSPと同じタウ病理を持ちながら、大脳皮質への広がりが強い点が異なります。
診断
「片側性の失行・筋固縮・他人の手徴候」の組み合わせが臨床診断の手がかりです。MRIでは病変側の反対側大脳半球の萎縮(非対称性)が特徴的です。L-ドーパへの反応は乏しく、PSPとの鑑別が必要です。確定診断は病理組織検査が必要です。
治療・ケア
根治療法はありません。L-ドーパは一部の筋固縮に効果を示すことがあります。作業療法による残存機能の活用・自助具の導入が有効です。ミオクローヌスにはクロナゼパムを使用します。コミュニケーション障害には言語聴覚士の介入が重要です。
予後・経過
発症から平均6〜8年の経過をたどります。症状は徐々に反対側にも広がり、最終的には全身の運動障害・嚥下障害・認知症が現れます。誤嚥性肺炎・転倒が主な死亡原因です。
この疾患の重要ポイント
- •「片側の手だけがおかしい」「手が勝手に動く(他人の手徴候)」がCBSの特徴的なサイン
- •症状が左右非対称であることが診断の重要な手がかり
- •PSPと同じタウ病理を持つ関連疾患であり、症状が重複することがある
- •失行(道具の使い方がわからない)は認知症とは異なる——道具を渡しながら使い方を示す介護が有効
- •進行が速いため、早期から作業療法・コミュニケーション支援を開始する
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