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進行性核上性麻痺の重要ポイント
「後方への転倒」と「眼球が上下に動かない(縦方向の眼球運動障害)」が PSP の二大サイン——早期診断の手がかりになる
パーキンソン病との最重要な鑑別:L-ドーパへの反応不良・後方転倒・縦眼球麻痺の三点セット
嚥下障害が発症早期から出現し誤嚥性肺炎が主な死因——言語聴覚士の評価と食事形態変更を早期から行う
ハミングバードサイン(MRI 矢状断での中脳萎縮)が診断の重要な画像所見
後方転倒は骨折・頭部外傷の直接原因——後部支持型歩行補助具を早期から導入する
コミュニケーション支援(AAC・文字盤)の準備は「話せなくなる前」に——診断直後から言語聴覚士に相談する
体験談・具体的な事例
基礎知識の解説
進行性核上性麻痺とは
進行性核上性麻痺(PSP: Progressive Supranuclear Palsy)は、4リピートタウ(4R-タウ)タンパク質が脳幹・基底核・大脳皮質に蓄積する神経変性疾患(タウオパチー)です。後方への転倒・縦方向の眼球運動障害・構音・嚥下障害・前頭葉機能低下が主な症状で、典型的な Richardson 症候群(RS)と、パーキンソン病様の PSP-P、純粋無動症(PAGF)、前頭側頭葉型の PSP-F など複数の臨床亜型が知られています。有病率は 10 万人あたり 5〜7 人で、60〜70 歳代に発症しパーキンソン病と誤診されやすい希少疾患です。男性にやや多い傾向があります。
主な症状
- 1発症早期からの後方への転倒(前のめりにならず後ろに倒れる)
- 2縦方向の随意的眼球運動障害:上方注視困難が先行し、進行すると下方注視も困難になる(核上性眼球麻痺)
- 3構音障害:低くしゃがれた声・発話が遅い(偽性球麻痺)
- 4嚥下障害:食事でむせる・誤嚥が増える(早期から出現しやすい)
- 5驚愕様顔貌(目を見開いたような無表情・眉毛が挙上している)
- 6頸部後屈(首が後ろに傾きやすい)——パーキンソン病の前屈姿勢と逆
- 7前頭葉症状:無気力・無関心・衝動的言動・注意機能・実行機能の低下
- 8睡眠障害(不眠・眠れない感覚)
- 9L-ドーパへの反応が乏しい(パーキンソン病との重要な鑑別点)
- 10発症初期は記憶障害が目立たない(前頭葉型の認知障害が先行する)
症状の進行
後方への転倒(前のめりにならず後ろに倒れる)
歩行バランスの悪化・小股歩き
上を向こうとすると眼球が追いつかない(上方注視困難)
動作の遅さ・表情の乏しさ
縦方向の眼球運動障害が著明に(上下とも困難)
構音障害(ゆっくりした低い声・話しにくい)
嚥下障害(むせる・誤嚥)——食事形態の変更が必要
前頭葉症状:無気力・衝動性・判断力低下
独歩が困難になり歩行補助具・車椅子が必要
発語が著しく低下——コミュニケーション補助が必須
嚥下困難が重度になり誤嚥性肺炎のリスクが高まる
ほぼ寝たきり・全身介護が必要
眼球がほとんど動かなくなる
※ 進行速度・症状の現れ方は個人差が大きく、必ずしも順序通りに進むとは限りません。
原因・メカニズム
原因・メカニズム
PSP は 4 リピートタウ(4R-tau)が神経細胞とグリア細胞(星状膠細胞・希突起膠細胞)に異常蓄積するタウオパチーに分類されます。タウの異常蓄積(神経原線維変化・房状星状膠細胞・コイル体など)は、中脳上部(上丘・前蓋部・中脳被蓋)・淡蒼球・黒質・視床下核・小脳歯状核・前頭葉皮質に優先的に生じます。眼球運動の随意制御を担う中脳の「視蓋前野」「riMLF(吻内側縦束)」が選択的に障害されるため、特徴的な縦方向眼球運動障害が現れます。原因遺伝子として MAPT(タウ遺伝子)のハプロタイプ H1/H1 との関連が報告されていますが、孤発性が大多数です。
診断
診断
2017 年の Movement Disorder Society(MDS)国際診断基準(Höglinger GU et al., Mov Disord 2017)に基づき診断します。「中核症状」「臨床的特徴」「画像所見」の組み合わせで「確実(probable)」「有力(possible)」「示唆(suggestive)」に分類します。
後方への転倒(≥3ヶ月以内に 2 回以上)、または発症 3 年以内の急速な歩行・バランス障害。
下方眼球運動速度低下(saccade)または上方視不能(≥垂直 30°)。
中脳上部の萎縮(矢状断でのハミングバードサイン:中脳と橋の前後径の比 < 0.52)、中脳面積 < 100mm²。FDG-PET での中脳・前頭前野代謝低下も参考になります。
多系統萎縮症(MSA)・大脳皮質基底核変性症(CBD)・レビー小体型認知症・進行性核上性麻痺との鑑別に、L-ドーパへの反応性、DaT スキャン所見を補助的に利用します。
治療・ケア
治療・ケア
根治療法は存在せず、症候別対症療法が中心です。
L-ドーパ(200〜600mg/日)を試みますが、Richardson 型では著明な改善は少ない(PSP-P 型の方が効果が出やすい)。アマンタジン・ゾルピデムが一部で有効との報告があります。
発症早期から後方転倒のリスクを説明し、後部支持型歩行器(後ろに転ばないよう手すりが後方にあるもの)・ヘッドレスト付き車椅子を早期から導入します。自宅の段差解消・床の滑り止め設置が必須です。
言語聴覚士(ST)による嚥下評価(VF や VE)を定期的に実施し、食事形態を早めに刻み食・ミキサー食・とろみ付きに移行します。誤嚥性肺炎の予防が予後を左右する最重要課題です。
構音障害の進行に合わせ、文字盤・スマートフォンアプリ(AAC)を早期から導入します。声が出なくなってから準備するのでは間に合わないため、診断直後から ST と相談することが望ましいです。
アパシーへの薬物療法は限定的。家族への病状説明と心理的サポート(家族会への案内)が不可欠です。
予後・経過
予後・経過
発症から平均 5〜8 年の経過をたどりますが、亜型によって差があります。Richardson 症候群(典型例)は最も進行が速く、発症 2〜4 年で歩行不能・発語困難に至ることが多く、5〜7 年で死亡します。PSP-P 型はやや緩やかです。誤嚥性肺炎が最大の死因で、肺炎予防(嚥下管理・口腔ケア・予防接種)が予後の鍵を握ります。後方転倒による頭部外傷も重大な死亡・ADL 低下要因です。
進行性核上性麻痺の重要ポイント
「後方への転倒」と「眼球が上下に動かない(縦方向の眼球運動障害)」が PSP の二大サイン——早期診断の手がかりになる
パーキンソン病との最重要な鑑別:L-ドーパへの反応不良・後方転倒・縦眼球麻痺の三点セット
嚥下障害が発症早期から出現し誤嚥性肺炎が主な死因——言語聴覚士の評価と食事形態変更を早期から行う
ハミングバードサイン(MRI 矢状断での中脳萎縮)が診断の重要な画像所見
後方転倒は骨折・頭部外傷の直接原因——後部支持型歩行補助具を早期から導入する
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