分類1|変性性認知症約6分で読めます
進行性核上性麻痺とは?
眼球運動障害と転倒を特徴とする稀な疾患
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
小林康夫さん(仮名・69歳)は定年後、地元のゲートボールチームで活躍していました。最初の異変は「転びやすさ」でした。
「後ろに倒れるんです、前じゃなくて」と妻の節子さんは説明します。普通の転倒は前のめりになるのに、康夫さんは何もないところで後方に倒れます。チームの仲間からも「なんか最近バランスがおかしい」と言われ、受診を勧められました。
整形外科では「問題なし」。次に行った神経内科で医師が注目したのは、眼球の動きでした。「上を見てください」と言われた康夫さんは、顔を上に向けようとしますが眼球だけが上を向かない。「縦方向の眼球運動」が障害されていたのです。
その後、表情が乏しくなり、言葉がゆっくりになりました。「仮面様顔貌」と呼ばれる、驚いたような目を見開いた表情が目立つようになります。飲み込みが悪くなり、食事の際にむせることが増えました。MRIでは中脳の萎縮(ハミングバードサイン)が確認され、「進行性核上性麻痺(PSP)」と診断されました。
節子さんが最も心がけているのは転倒予防です。車椅子への移行後も、後方に勢いよく倒れようとするため、ヘッドレスト付きの特殊な車椅子を使っています。言葉がほとんど出なくなった今も、康夫さんの目は節子さんを追い続けています。
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基礎知識の解説
進行性核上性麻痺とは
進行性核上性麻痺(PSP)は、脳幹・基底核・小脳に異常タウタンパクが蓄積する神経変性疾患です。後方への転倒、縦方向の眼球運動障害、パーキンソン様症状、前頭葉症状が4大特徴です。パーキンソン病と誤診されやすく、確定診断に時間がかかることが多い稀少疾患です。
主な症状
- 1後方への転倒(早期から)
- 2垂直方向の眼球運動障害(特に下方注視困難)
- 3構音障害(ゆっくりした、かすれた話し方)
- 4嚥下障害(誤嚥性肺炎のリスク)
- 5表情の乏しさ・驚いたような顔つき(仮面様顔貌)
- 6前頭葉症状(無関心・判断力低下・衝動性)
- 7頸部後屈(首が後ろに倒れやすい)
- 8L-ドーパへの反応が乏しい
原因・メカニズム
4リピートタウ(4R-タウ)が脳幹(特に中脳上丘・淡蒼球・黒質)・大脳皮質に蓄積します。眼球運動を制御する核上路(上丘・眼球運動野)が特異的に障害されるため、随意的な眼球運動が失われます。ドーパミン系も侵されますが、L-ドーパへの反応はアルツハイマー型に比べて乏しいです。
診断
臨床診断は「転倒・眼球運動障害・認知機能障害・パーキンソン様症状」の組み合わせで行います。MRIでは中脳の萎縮(ハミングバードサイン、ペンギンサイン)が特徴的です。L-ドーパへの反応不良もPSPを示唆します。病理確定診断は剖検が必要です。
治療・ケア
根治療法はありません。L-ドーパを試みますが効果は限定的です。嚥下障害に対し言語聴覚士による嚥下リハと食事形態の調整が重要です。転倒予防のための歩行補助具・車椅子導入を早期から検討します。コミュニケーション補助(文字盤・AAC)を活用します。
予後・経過
発症から平均5〜7年で死亡します。誤嚥性肺炎が最大の死因です。進行は比較的急速で、発症2〜3年で歩行不能になることが多いです。
この疾患の重要ポイント
- •「後方への転倒」と「眼球が上下に動かない」がPSPの重要なサイン
- •パーキンソン病と誤診されやすいが、L-ドーパへの反応不良・後方転倒・眼球運動障害で鑑別する
- •嚥下障害が早期から出現し、誤嚥性肺炎予防が予後を左右する
- •MRIの「ハミングバードサイン」(中脳萎縮)が診断の手がかり
- •進行が速いため、早期から転倒予防・住環境整備・コミュニケーション手段の確立を急ぐ
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