透析認知症(アルミ中毒など)とは?
透析治療に伴うアルミニウム蓄積による脳障害
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
透析認知症(アルミ中毒など)について、「薬を飲んでくれない」「どう管理すればいい?」2分の無料チェックで、受診時に伝えるべきことを整理できます。
透析認知症(アルミ中毒など)の重要ポイント
「透析患者の構音障害(ろれつ困難)+ミオクローヌス」が出現したら血清アルミニウム濃度を即座に測定する
透析患者へのアルミニウム含有制酸薬(水酸化アルミニウムゲル)の使用は禁忌——患者・家族への繰り返しの教育が必要
透析液の超純水化とアルミニウム含有薬の回避が最大の予防策——現代では発症は著しく減少している
血清アルミニウム濃度の定期的なモニタリング(年1〜2回)が透析患者の標準管理に含まれる
早期発見であればデフェロキサミン(DFO)キレート療法で進行を止められるが、完全回復は困難——予防が最善
透析担当看護師・コメディカルの気づきが早期発見の鍵——多職種チームでの定期的な神経学的評価が重要
体験談・具体的な事例
基礎知識の解説
透析中に症状が悪化する特徴
透析認知症(透析脳症・アルミニウム脳症)は、長期透析患者でアルミニウムが脳・骨などに蓄積することにより生じる進行性の神経障害です。主要症状は構音障害(どもり・ろれつ困難)・ミオクローヌス・てんかん発作・認知機能低下・人格変化であり、透析中〜後に症状が増悪する傾向があります。過去にはアルミニウム含有制酸薬や低品質の透析液が原因で多発しましたが、透析液の高度精製とアルミニウム含有薬剤の禁忌徹底により現在は著しく減少しています。早期発見と血清アルミニウムモニタリングが引き続き重要です。
主な症状
- 1構音障害(ろれつ困難・どもり・言語の乱れ)——透析中〜後に増悪
- 2ミオクローヌス(四肢・顔面のぴくつき・不随意運動)
- 3てんかん発作(ミオクローヌス発作・全般発作)
- 4認知機能低下(記憶・判断力・実行機能の低下)
- 5歩行障害・小脳性運動失調
- 6人格変化・易怒性・脱抑制
- 7幻覚・幻視(進行例)
- 8書字障害・失語(進行例)
- 9透析中〜後の症状増悪パターン(特徴的な経過)
- 10無治療では数ヶ月〜数年の進行性悪化
原因・メカニズム
原因・メカニズム
アルミニウム(Al)は腸から吸収されると正常な腎臓から速やかに排泄されますが、透析患者では腎排泄機能が失われているため、経口摂取・透析液からの吸収により体内に蓄積し続けます。骨・肝臓・脳などの組織に高濃度で沈着し、特に脳内ではシナプス部位・ニューロンの細胞骨格(神経微小管・神経細線維)に沈着します。アルミニウムは①コリン作動性神経伝達の障害、②エネルギー代謝(ヘキソキナーゼ・ATPase)の阻害、③酸化ストレスの誘発、④DNAの転写阻害を通じて神経細胞を障害・死滅させます。Alfrey ACら(1976年)が最初に透析患者の脳灰白質にアルミニウムが正常の10〜20倍蓄積していることを報告し、透析脳症との関連を示しました。
診断
診断
日本透析医学会アルミニウム中毒ガイドラインに準拠して診断します。血清アルミニウム濃度の著明な上昇(正常:5μg/L以下、透析認知症の診断的水準:60μg/L以上、典型例:100μg/L以上)が診断の主要根拠です。デフェロキサミン(DFO)負荷試験(DFO 5mg/kg静注後の血清アルミニウム増加量(DAI)が150μg以上)でアルミニウム蓄積を確認します。アルミニウム含有薬(制酸薬・一部のリン吸着薬)の服用歴・透析液のアルミニウム含有量を確認します。脳波では前頭葉・側頭葉優位の徐波・棘徐波複合が特徴的です。頭部MRIで構造的疾患(脳血管障害・腫瘍)を除外します。尿毒症性脳症・ウェルニッケ脳症・その他の代謝性脳症との鑑別を行います。
治療・ケア
治療・ケア
アルミニウム含有薬品(水酸化アルミニウム含有制酸薬・一部のリン吸着薬)の即時中止が最重要です。デフェロキサミン(DFO:鉄・アルミニウムキレート剤)によるアルミニウムキレート療法が症状の進行抑制に有効です。DFO投与後の透析(通常の透析または高効率透析)でアルミニウムを体外に除去します。DFOの副作用(視神経炎・低血圧・ムコール症のリスク)を考慮して適切なモニタリングのもとで使用します。対症療法として抗てんかん薬(バルプロ酸・クロナゼパム:ミオクローヌス・てんかん発作の抑制)を使用します。すでに生じた神経障害の回復は限定的であり、予防こそが最善の治療です。
予後・経過
予後・経過
透析認知症は無治療では進行性であり、発症後に治療しなければ数ヶ月〜数年で死亡します。早期発見・DFOキレート療法の開始で進行を止められる場合がありますが、神経障害の回復は部分的にとどまります。血清アルミニウム値を適切に管理し、アルミニウム含有薬品を回避することで発症そのものを防ぐことができます。現代の透析管理(透析液の超純水化・アルミニウム含有薬の禁忌化)により本疾患の発症は著しく減少しており、定期的な血清アルミニウムモニタリングが引き続き推奨されます。
似た症状の疾患との違い
似た症状の疾患との違い
| 疾患名 | 見分け方のポイント |
|---|---|
| 尿毒症性脳症 | 尿毒症性脳症は透析導入前後の尿毒素蓄積によるびまん性の意識障害・ミオクローヌス・けいれんを呈し、通常は適切な透析導入・強化により速やかに改善する。透析認知症は長期透析中にアルミニウムが蓄積して緩徐に進行し、透析を強化しても改善しない点で区別される。 |
| 肝性脳症 | 肝性脳症も羽ばたき振戦(アステリクシス)・意識障害・認知機能低下を呈し臨床像が類似するが、血中アンモニア高値と肝機能障害・肝硬変の存在で鑑別する。透析認知症は肝機能に異常がなく血清アルミニウム高値を示す点で区別される。 |
| ウェルニッケ・コルサコフ症候群 | 透析患者は食事制限や透析による水溶性ビタミンの喪失でビタミンB1欠乏をきたしやすく、眼球運動障害・運動失調を伴う場合はウェルニッケ脳症も鑑別に挙げる。透析認知症は構音障害とミオクローヌスが主体で眼球運動障害を伴わない点、血清アルミニウム高値を示す点で区別される。 |