分類1変性性認知症10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

びまん性レビー小体病とは?

脳全体に広がるレビー小体による認知症

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

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体験談・具体的な事例

西村勝美さん(仮名・77歳)は長年、建設会社の現場監督として働いてきた几帳面な男性でした。退職後は家庭菜園を手がけ、毎朝6時に起きてトマトとナスの様子を確認するのが日課でした。妻の妙子さんは「この人、定年後のほうが規則正しい」と笑っていました。 最初の異変は夜でした。妙子さんが目を覚ましたのは、勝美さんが「危ない、逃げろ!」と叫びながら布団の上で腕をばたつかせていたからでした。起こしても夢の内容を鮮明に覚えており、「工事現場でクレーンが倒れてきた」と興奮気味に語りました。翌朝にはケロッとしているため、最初は「ただの悪夢だろう」と思っていましたが、これが週に2〜3回繰り返されるようになりました(REM睡眠行動障害)。 夜の異変から半年ほど経ったころ、今度は昼間に「廊下に子供が立っている」と言い出しました。妙子さんには何も見えません。「そんないないよ」と言うと一瞬怒りますが、「そうかな……でもはっきり見えるんだよ」と首をかしげます。翌週には「押し入れの中に老人がいる」「天井に黒い蜘蛛の巣が広がっている」と毎日のように訴えるようになりました。鮮明でリアルな幻視です。さらに認知機能の波が激しく、朝は会話が弾むのに昼過ぎには妙子さんの名前もわからなくなることがありました。 神経内科を紹介され、詳しい検査を受けました。DaTスキャン(123I-FP-CIT SPECT)では「両側被殻・尾状核でのドーパミントランスポーター取り込みほぼ消失」という所見が得られました。心臓MIBGシンチグラフィでは心/縦隔比(H/M比)が早期像1.4、後期像1.3と著明に低下しており、心臓交感神経の変性が確認されました。これらの結果とREM睡眠行動障害・幻視・認知機能変動を合わせ、担当医は「McKeith IG et al. 2017の第4次DLBコンソーシアム基準にもとづくレビー小体型認知症(DLB)——かつての『びまん性レビー小体病(DLBD)』と実質的に同義です」と診断を告げました。 その数週間後、勝美さんが幻視で興奮していたとき、別の病院でリスペリドール1mgが処方されました。翌朝、勝美さんは突然立ち上がれなくなりました。全身の筋肉が固まったように動かず、体温は39.5℃、血液検査ではCK(クレアチンキナーゼ)値が3,200 IU/Lまで上昇していました。「抗精神病薬過敏症(neuroleptic sensitivity)」による重篤な反応で、緊急入院となりました。妙子さんは「あのとき死ぬかと思った」と振り返ります。 退院後、主治医のもとでドネペジル塩酸塩5mgを開始しました。3ヶ月後には幻視の頻度が「毎日」から「週2〜3回」へと減り、持続時間も短くなりました。妙子さんも日中の部屋の照明を明るく保つようにしました(暗い場所では幻視が増悪しやすいため)。クロナゼパム0.5mgを就寝前に加えたことで、夜間の激しい叫び声は落ち着いてきました。 今も勝美さんは状態のよい午前中に家庭菜園の世話をしています。「廊下の子供」に話しかけることはまだありますが、妙子さんは否定せず「そうね、元気そうね」と受け流します。「抗精神病薬は使えない。これだけは全ての先生に伝えなければ」と妙子さんは常に診察に同席し、薬の禁忌を伝え続けています。

基礎知識の解説

びまん性レビー小体病とは

びまん性レビー小体病(DLBD: Diffuse Lewy Body Disease)は、αシヌクレインからなるレビー小体が大脳皮質全体(特にすべての皮質層)にわたって広範に分布する病態を指す概念で、現在はレビー小体型認知症(DLB: Dementia with Lewy Bodies)と実質的に同義です。「びまん性(diffuse)」は旧Kosaka分類における「びまん性新皮質型」に由来し、皮質全層への広がりを強調した呼称です。臨床像は典型的なDLBと同様で、リアルな幻視・認知機能の著しい日内変動・パーキンソン症状・REM睡眠行動障害が四大症状です。抗精神病薬への重篤な過敏反応(neuroleptic sensitivity)が最大の治療上の危険点であり、全医療者への情報共有が不可欠です。

主な症状

  • 1鮮明でリアルな幻視(毎日のように繰り返され、人・子供・動物が「見える」と確信している)
  • 2認知機能の著しい日内・日間変動(朝は会話が成立するのに昼過ぎには名前もわからなくなる)
  • 3REM睡眠行動障害(夢の内容に合わせて大声を出す・腕足をばたつかせる)
  • 4パーキンソン様運動症状(筋固縮・小刻み歩行・動作緩慢・表情の乏しさ)
  • 5繰り返す転倒・立ちくらみ(自律神経障害による起立性低血圧)
  • 6過剰な日中傾眠(日中に何時間も眠り込む)
  • 7自律神経症状(頑固な便秘・発汗異常・血圧変動)
  • 8抗精神病薬への重篤な過敏反応(筋固縮悪化・高体温・CK上昇・意識障害)
  • 9嗅覚低下(パーキンソン病と共通する早期症状)
  • 10注意機能・視空間認知の低下(アルツハイマー型より前面に出やすい)

原因・メカニズム

αシヌクレインというタンパク質が神経細胞内で異常凝集・封入体(レビー小体)を形成します。「びまん性(diffuse)」の語は旧Kosaka分類(1980年代)における「びまん性新皮質型」に由来し、レビー小体が脳幹から辺縁系にとどまらず大脳新皮質の全5層に広く分布することを意味します。黒質のドーパミン神経が変性するとパーキンソン症状が出現し、Meynert基底核のコリン神経障害が認知機能・注意機能を低下させます。後頭葉の視覚処理野が侵されると幻視が起こりやすくなり、脳幹網様体の障害がREM睡眠行動障害の原因となります。アルツハイマー病変(アミロイドβ・神経原線維変化)を合併する混合型が多く、これが症状の多様性につながります。

診断

McKeith IG et al.(Neurology 2017)のDLBコンソーシアム第4次コンセンサス基準にもとづいて診断します(DLBD はこの基準でDLBとして分類されます)。「確実」の臨床診断には2つの中核症状(幻視・認知変動・パーキンソン症状・REM睡眠行動障害)、または1つの中核症状+1つのバイオマーカーが必要です。

支持バイオマーカー

① DaTスキャン(123I-FP-CIT SPECT):線条体ドーパミントランスポーターの取り込み著明低下 ② 心臓MIBGシンチグラフィ:H/M比の低下(後期像1.6以下が基準の目安)③ ポリソムノグラフィー:REM睡眠中の筋緊張消失なし(RBD確認)。

アルツハイマー型認知症との鑑別では、認知機能の変動・幻視の鮮明さ・DaTスキャン所見が重要です。

治療・ケア

根治療法はなく症候別対症療法が中心です。

認知・幻視

コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル(5〜10mg/日)が認知機能と幻視の改善に有効で、DLBへの保険適用があります。

REM睡眠行動障害

クロナゼパム(0.5mg 就寝前)が有効ですが、転倒リスクに注意。メラトニン(0.5〜3mg)も選択肢となります。

パーキンソン症状

L-ドーパを低用量から慎重に開始します。ドーパミンアゴニストはより慎重な使用が必要です。

絶対禁忌——抗精神病薬

ハロペリドール・リスペリドール等の定型および非定型抗精神病薬はレビー小体型では致死的な過敏反応(高度のパーキンソン症状悪化・高体温・CK上昇・意識障害:悪性症候群様反応)を引き起こすことがあるため原則禁忌です。全ての医療者にこの情報を共有することが家族の最重要任務です。

非薬物療法

日中の照明を明るく保つ(暗い環境で幻視が増悪しやすい)、生活リズムの規則化、幻視を否定せず共感的に受け流す対応が有効です。

予後・経過

平均罹患期間は5〜8年ですが個人差が大きく、3〜20年の幅があります。転倒による骨折・誤嚥性肺炎・自律神経障害(脱水・感染)が予後を悪化させる主な要因です。抗精神病薬の誤投与による急速悪化が最大のリスクであり、医療機関を受診・入院する際には必ず薬剤禁忌情報を伝える必要があります。アルツハイマー合併例は進行が速い傾向があります。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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参考文献

  1. [1]McKeith IG, Boeve BF, Dickson DW, et al.Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: Fourth consensus report of the DLB ConsortiumNeurology (2017)
  2. [2]Kosaka KDiffuse Lewy body diseasePsychiatry Clin Neurosci (2000)
  3. [3]Walker Z, Possin KL, Boeve BF, Aarsland DLewy body dementiasLancet (2015)
  4. [4]日本神経学会認知症疾患診療ガイドライン2017医学書院 (2017)
  5. [5]Postuma RB, Gagnon JF, Montplaisir JREM sleep behavior disorder and prodromal neurodegeneration — where are we headed?Tremor Other Hyperkinet Mov (2013)

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