分類1|変性性認知症約5分で読めます
神経原線維変化型老年期認知症(PART)とは?
タウタンパクの蓄積による高齢発症の認知症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
齋藤昌代さん(仮名・88歳)は90歳近くまで自宅で一人暮らしを続けていた、地域でも評判の「元気なお婆ちゃん」でした。
87歳のころから、同じ話を繰り返すことが増えました。「先週の日曜日に息子が来てね」という話を、同じ日に3回繰り返す。息子の浩一さんが同行して受診したもの忘れ外来では、HDS-Rが17点(30点満点)——軽度から中等度の認知症の範囲でした。
「アルツハイマー型の可能性が高いが、高齢で発症した場合、PARTという病態も考えられます」と担当医から説明を受けました。MRIでは海馬の萎縮があるものの、アミロイドPET検査では陰性——つまりアルツハイマーの原因物質であるアミロイドβの蓄積はない、という結果でした。
昌代さんは90歳で老健に入所するまで、浩一さん家族と同居し、デイサービスを週3回利用しながら穏やかに過ごしました。「アルツハイマーじゃなかったと聞いて、少し安心しました。でも認知症であることには変わりないので、できることを一緒に続けることが大事だと思っています」と浩一さんは語ります。
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基礎知識の解説
神経原線維変化型老年期認知症(PART)とは
神経原線維変化型老年期認知症(PART:Primary Age-Related Tauopathy)は、超高齢者において脳内にタウタンパクが蓄積するが、アルツハイマー病に特徴的なアミロイドβの蓄積を伴わない状態です。「年齢相応の老化」と「アルツハイマー病」の中間に位置する概念で、85歳以上では非常に多く認められます。
主な症状
- 1軽度〜中等度の記憶障害
- 2エピソード記憶の低下(同じ話の繰り返し)
- 3見当識障害
- 4比較的緩徐な進行
- 5アルツハイマーより「穏やかな経過」が多い
- 6日常生活は比較的長く保たれることがある
- 7精神症状(抑うつ・不安)を伴う場合がある
原因・メカニズム
加齢に伴い、脳の内嗅皮質・海馬を中心にタウタンパクの神経原線維変化が蓄積します(ブラークステージ1〜4に相当)。アミロイドβは蓄積しないか、ごく少量です。「純粋な老化によるタウ病理」という概念で、アルツハイマー病とは異なる疾患単位として2014年に提唱されました。超高齢者の剖検例の多くにPART病変が見られます。
診断
アミロイドPET検査(または脳脊髄液のアミロイドβ測定)でアミロイド陰性を確認した上で、タウPETまたは剖検でタウ蓄積を確認します。臨床的には「85歳以上」「緩徐な記憶障害」「MRIで海馬萎縮」「アミロイドPET陰性」の組み合わせからPARTを疑います。
治療・ケア
根治療法はなく、対症療法が中心です。アルツハイマー治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬)の効果は限定的とされますが、合併するアルツハイマー病変に対して使用されることがあります。非薬物療法(認知リハ・運動・社会活動)が生活の質の維持に有効です。
予後・経過
アルツハイマー病より緩徐に進行することが多いとされますが、個人差が大きく、高齢であることから他の疾患(心血管・感染症)が予後を左右します。
この疾患の重要ポイント
- •「アミロイド陰性の高齢者の認知症」は、アルツハイマーではなくPARTの可能性がある
- •超高齢者(85歳以上)では非常に多く見られる「加齢に伴うタウ病理」
- •アミロイドPET検査でアルツハイマーと鑑別できる——過剰治療の回避に重要
- •アルツハイマーより緩徐な進行であることが多く、生活の質を保てる期間が長い傾向
- •「老化」と「認知症」の境界領域——「年のせいだから仕方ない」と放置せず、サポート体制を整える
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