分類8その他・稀な遺伝性疾患10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

てんかん性認知症とは?

非けいれん性てんかん重積状態による認知障害

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体験談・具体的な事例

服部善雄さん(仮名・71歳)は、元・高校の数学教師として定年まで40年間教壇に立ち続けた人です。退職後は地域の公民館で算数教室のボランティアを続け、趣味の将棋では地域大会の常連でした。妻の和子さんと二人暮らしで、毎朝欠かさず近所を30分散歩する規則正しい生活を送っていました。 2ヶ月前から、善雄さんに変化が現れていました。将棋の対局中に「どこへ指すか」を長時間考え込んで止まることが増え、友人から「大丈夫か」と声をかけられても反応が鈍い日がありました。会話のテンポが落ち、文の途中でぼんやりするような場面も出てきました。「急に認知症が悪化した」と感じた息子の誠司さんが専門医への受診を促しました。 もの忘れ外来での問診では、MMSEが18点(半年前は27点)と急激な低下を示しました。担当医が「これほど急速な悪化は血管性・てんかん・せん妄などを鑑別する必要があります」と脳波検査(EEG)を実施したところ、担当医が画面を見て静止しました。「側頭葉から発する周期性のてんかん性放電が確認されました。非けいれん性てんかん重積状態(NCSE)と考えられます」。 「てんかん? でも発作は見たことがありません」と誠司さんが言うと、担当医は「高齢者では全身けいれんを起こさない、気づかれないてんかんが認知症様症状として現れることがあります。NCSEではぼんやり・反応の鈍さ・会話の停止が主な症状で、本人も周囲も気づきにくい」と説明しました。 抗てんかん薬レベチラセタム(500 mg/日)を開始すると、5日後に善雄さんの会話が明らかに戻ってきました。「あれ、将棋やるか」と誠司さんに声をかけたとき、家族全員が安堵しました。1ヶ月後の脳波検査では周期性放電が消失し、MMSEは24点まで回復しました。 その後、定期的な脳波モニタリングと抗てんかん薬の継続が決まりました。担当医から「長期にわたるてんかん発作の繰り返しは海馬の神経細胞に酸化ストレスを蓄積させ、慢性的な認知機能低下を引き起こします。アルツハイマー病との合併例も多く、両方を管理することが重要です」と説明を受けました。 善雄さんは現在、週1回の抗てんかん薬外来を継続しながら、算数教室のボランティアに復帰しています。「将棋の手を考えていたはずなのに急に頭が止まる感覚が、あの時はどうしたのかと不思議だった。今はそれがない」と善雄さんは言います。「急に悪化した認知症」は、適切な検査と治療で劇的に改善することがある——そのことを、善雄さん一家の経験が示しています。

基礎知識の解説

てんかん性認知症とは

てんかん性認知症(epileptic dementia)とは、てんかん発作の繰り返しや非けいれん性てんかん重積状態(NCSE: Non-Convulsive Status Epilepticus)が持続することで、認知機能が進行性に低下する状態をいう。高齢者のてんかん有病率は人口1,000人あたり10〜15人とされ、高齢化に伴い増加している。高齢者のNCSEでは古典的な全身けいれんを伴わず、「ぼんやり・反応の鈍さ・混乱・急速な認知機能悪化」として現れるため見逃されやすい。脳波検査(EEG)によるてんかん性放電の確認と抗てんかん薬(レベチラセタム等)による治療で症状が劇的に改善する「治る認知症」の一つである。アルツハイマー病との合併例も多い。

主な症状

  • 1非けいれん性てんかん重積状態(NCSE):ぼんやり・反応の鈍さ・会話の途中での停止
  • 2急速な認知機能悪化(数週間〜2ヶ月以内での著明な低下)
  • 3記憶障害(特に発作後に悪化)
  • 4言語障害・失語様症状(途中で言葉が止まる)
  • 5注意・集中力の著明な低下
  • 6発作後(ポスタール)状態:発作後数時間〜数日間の混乱・傾眠
  • 7慢性的な反復発作による累積的な認知機能低下
  • 8脳波での周期性てんかん性放電の確認
  • 9抗てんかん薬投与後に認知機能が改善する(治療反応性)
  • 10見かけ上の「認知症の急速な悪化」(実はてんかんが背景にある)

原因・メカニズム

てんかん発作中・後の過度な神経活動は海馬CA1・CA3領域および皮質の神経細胞に興奮毒性(グルタミン酸過剰による細胞内Ca²⁺流入)と酸化ストレスをもたらし、神経細胞死を引き起こす。NCSEでは発作が持続しながら意識は保たれているため、この神経障害が蓄積しながら認知症様症状として現れる。長期にわたる反復発作は海馬を進行性に萎縮させ(てんかん性海馬硬化)、記憶・空間認識・実行機能の慢性的な低下をもたらす。高齢者では脳の予備能が低下しているため、同じ発作でも若年者より大きな認知機能障害を来たしやすい。アルツハイマー病変(アミロイドβ・タウ蓄積)はてんかん発作閾値を下げ、両者が相互に悪化させ合う関係にある。

診断

「急速に悪化する認知症(数週間〜2ヶ月以内)」は必ずてんかんを鑑別に入れ、脳波検査(EEG)を積極的に実施することが日本てんかん学会ガイドライン(2018年)で推奨されている。NCSEの診断基準はSalzburg Criteriaが用いられ、周期性側頭葉放電・1Hz以上の律動的放電・抗てんかん薬への反応性が診断の根拠となる。脳MRIではてんかん焦点(海馬硬化・皮質萎縮)を確認する。アルツハイマー病・血管性認知症・代謝性脳症(低血糖・低ナトリウム血症・肝性脳症)・せん妄との鑑別が必要であり、血液検査(電解質・血糖・肝機能・甲状腺機能)を並行して実施する。

治療・ケア

急性NCSEにはジアゼパム(静注5〜10 mg)またはロラゼパム(静注2〜4 mg)を初期治療として使用し、効果不十分な場合にレベチラセタム(静注1,000 mg)またはフォスフェニトイン(静注15〜18 mg PE/kg)を追加する。慢性管理においてはレベチラセタム(経口500〜1,500 mg/日)またはラモトリギン(経口25〜200 mg/日)が高齢者に比較的安全であり認知機能への悪影響が少ない。バルプロ酸は高齢者での肝毒性・血小板減少・高アンモニア血症に注意が必要で、カルバマゼピンは低ナトリウム血症・CYP薬物相互作用のリスクがある。発作管理と並行して、認知リハビリテーション・転倒予防対策・運転禁止指導を行う。

予後・経過

NCSEは適切な治療で劇的かつ速やかに改善することがあり、認知機能スコアが数週間以内に発症前水準に近づく例も多い。一方、長期てんかんによる慢性的な認知機能障害は部分的な回復にとどまる場合があり、発作コントロールの維持が認知機能の長期保護に不可欠である。アルツハイマー病を合併する例では両疾患の進行に並行して管理する必要があり、予後はより慎重に判断する。適切な発作管理と転倒・誤嚥予防により、在宅生活の継続が可能な例も少なくない。

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本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

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参考文献

  1. [1]Beghi EThe epidemiology of epilepsyNeuroepidemiology (2020)
  2. [2]Helmstaedter C, Kurthen MMemory and epilepsy: characteristics, course, and influence of drugs and surgeryCurr Opin Neurol (2001)
  3. [3]日本てんかん学会てんかん診療ガイドライン2018日本てんかん学会 (2018)
  4. [4]Leitinger M, Beniczky S, Rohracher A, et alSalzburg Consensus Criteria for Non-Convulsive Status Epilepticus: approach to clinical applicationEpilepsy Behav (2015)

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