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基礎知識の解説
ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)とは
ペラグラ(ニコチン酸欠乏症)は、ビタミンB3(ナイアシン・ニコチン酸)の欠乏によって生じる全身性疾患で、「三つのD」——皮膚炎(Dermatitis)・下痢(Diarrhea)・認知症(Dementia)——が古典的三徴とされ、重症化すると死亡(Death)に至る「四つのD」として記述されることもあります。日光暴露部位の対称性皮膚炎が最も視覚的に特徴的です。アルコール依存症・極端な偏食・消化管吸収障害・ハルトナップ病(トリプトファン輸送異常)・イソニアジドなどの薬剤使用が主な原因です。先進国では稀ですが、アルコール依存症患者では依然として見られます。ナイアシン補充で症状が改善する「治る認知症」の一例であり、複数のビタミン欠乏との合併に注意が必要です。
主な症状
- 1皮膚炎:日光暴露部位(首・顔・手の甲・前腕)の対称性皮膚炎(紅斑→色素沈着→落屑)
- 2皮膚炎:カサール項目(Casal's necklace)——首周囲の帯状皮膚炎
- 3下痢:慢性的な水様性下痢・腹痛・嘔気・消化管粘膜の炎症
- 4認知症様症状:記憶障害・見当識障害・混乱・遂行機能低下
- 5精神症状:抑うつ・不安・幻覚・せん妄・精神病様症状
- 6口内炎・舌炎(赤く炎症した舌:グロッシス)
- 7倦怠感・体重減少・食欲不振
- 8四肢の感覚異常・末梢神経炎(他のビタミン欠乏合併時に顕著)
- 9不眠・頭痛・眩暈
- 10重症例では昏迷・昏睡・死亡
原因・メカニズム
原因・メカニズム
ナイアシン(ニコチン酸・ニコチンアミド)はNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)およびNADP(リン酸型)の前駆体として、細胞内の酸化還元反応(エネルギー代謝・糖新生・脂肪酸合成・DNA修復)に中心的な役割を果たします。欠乏するとATP産生が低下し、代謝活性の高い組織——脳神経細胞・消化管粘膜上皮・皮膚ケラチノサイト——が優先的に障害されます。脳では前頭皮質・基底核・視床などの広い領域でエネルギー不足と酸化ストレスが蓄積し、認知機能障害・精神症状をもたらします。消化管粘膜の萎縮と炎症が吸収障害・下痢を引き起こし、さらにビタミン欠乏を悪化させる悪循環を形成します。アルコール依存症では摂取不足・消化管吸収障害・肝臓でのナイアシン代謝障害・アルコールによるNAD消費亢進が重なります。なお、必須アミノ酸のトリプトファンは肝臓でNADに変換されるため(60 mgのトリプトファン→1 mg NAD)、トリプトファン摂取不足や代謝障害(ハルトナップ病・イソニアジド服用)でもペラグラが発症します。
診断
診断
臨床診断が中心であり、「三つのD」の確認が出発点です。日光暴露部位の対称性皮膚炎は特徴的で、皮膚科的所見から診断を先導することがあります(Hegyi J et al, 2004)。尿中N1-メチルニコチンアミド(正常では0.5 mg/日以上;欠乏では著明低下)がナイアシン欠乏の客観的指標として有用です。血清ナイアシン値は変動が大きく信頼性が低いため補助的指標にとどまります。アルコール依存症患者では血清B1・B12・葉酸・亜鉛・鉄の同時測定により複数のビタミン欠乏を確認します(Pitsavas S et al, 2004)。薬剤歴(イソニアジド・5-フルオロウラシル・アザチオプリン)の確認も必須です。皮膚病変については、接触性皮膚炎・光線過敏症との鑑別が必要です。
治療・ケア
治療・ケア
ナイアシンアミド(ニコチンアミド)100〜300mg/日の経口投与が第一選択です。ニコチン酸(ナイアシン)はフラッシング(顔面紅潮・熱感)の副作用があるため、急性期にはフラッシングのないナイアシンアミドが好まれます。重症例・経口摂取困難例では静脈内投与も選択できます。複数のビタミン欠乏が合併することが多いため、B1・B2・B6・B12・葉酸を含むマルチビタミン補充を並行します。食事改善として肉・魚・卵・豆類・ナッツ・全粒穀物(ナイアシン・トリプトファンを豊富に含む食品)の摂取を指導します。アルコール依存症が基礎疾患の場合は断酒支援を中心とした包括的な治療が不可欠です。皮膚炎には遮光と保湿ケアを指導します。治療開始後数日〜1〜2週間で精神症状・消化器症状が、数週間〜数ヶ月で皮膚症状が改善します。
予後・経過
予後・経過
認知症様症状・下痢などの消化器症状は、早期にナイアシンを補充すれば数日〜2週間以内に著明に改善します。皮膚炎の回復には数週間〜数ヶ月を要します。長期間の重篤な神経症状が遷延した症例では完全回復が困難なことがあります。基礎疾患(アルコール依存症)の治療と断酒継続が予後を最も左右し、飲酒継続では再発・悪化をくり返します。
ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)の重要ポイント
「皮膚炎・下痢・認知症の三つのD」がペラグラの古典的三徴——アルコール依存症患者で疑うべき
アルコール依存症患者では複数のビタミン欠乏(B1・B12・葉酸・ナイアシン)が重なることが多い
ナイアシン補充で数日〜2週間以内に精神症状・消化器症状が劇的に改善する「治る認知症」
日光暴露部位(首・手の甲・前腕)の対称性皮膚炎は診断の視覚的な手がかり
イソニアジド(結核薬)服用中の患者も発症リスクがある——薬剤歴の確認を
現代日本では稀だが、見落とすと死亡に至る可能性がある——ペラグラの知識を持つことが重要
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