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分類1変性性認知症7分で読めます

前頭側頭型認知症(ピック病)とは?

人格変化や言語障害が先行する認知症

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

体験談・具体的な事例

中村健二さん(仮名・58歳)は中堅企業の営業部長として、部下から慕われる穏やかな人物でした。変化は54歳のころから始まりました。 最初に気づいたのは同僚の田村さんでした。打ち合わせ中に健二さんが突然、取引先のことを「あいつは馬鹿だ」と口走ったのです。温厚だった人がなぜ——驚いた田村さんが妻の由紀子さんに相談すると、「家でも最近おかしい」という答えが返ってきました。 健二さんは食事の習慣が変わり、甘い物ばかり食べたがるようになりました。毎朝コンビニに行っては同じ菓子パンを3個買う。それが一種の「儀式」となり、順序を変えると激しく怒ります。仕事の失敗を指摘されても「何が問題なの?」と悪びれません。自分の行動がどう見られているかへの関心が、すっかり失われているようでした。 由紀子さんが最もつらかったのは、夫が「他人」になっていくような感覚でした。以前の健二さんなら絶対に言わない言葉を平気で言い、他人の迷惑を顧みず、悲しんでいる妻に共感を示しません。記憶は比較的保たれているのに、「人」としての核心部分が変わってしまったようでした。 神経内科を受診し、MRIで前頭葉と側頭葉の萎縮が確認されました。神経心理検査では記憶力は正常範囲内でしたが、社会的認知・抑制機能・計画性の低下が明らかでした。診断は「前頭側頭型認知症(行動変容型)」。 現在、健二さんは障害年金を受給しながら、就労継続支援施設に通っています。由紀子さんは「夫の病気を理解することで、怒りが悲しみに変わった」と語ります。介護者家族の集まりで出会った仲間が、今の支えになっています。

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基礎知識の解説

前頭側頭型認知症(ピック病)とは

前頭側頭型認知症(FTD)は、前頭葉・側頭葉の神経細胞が変性・脱落する疾患で、65歳未満の若年性認知症の中では最多の一つです。記憶障害よりも先に、人格変化・行動異常・言語障害が前面に出ることが特徴で、アルツハイマー型とは異なる経過をたどります。

主な症状

  • 1社会的に不適切な行動(無礼・性的逸脱・衝動的言動)
  • 2無関心・感情の平板化・共感の喪失
  • 3同じ行動・言葉の繰り返し(常同行動)
  • 4食習慣の変化(甘い物への偏り・過食・食物の盗み食い)
  • 5自制心の低下・衝動性の亢進
  • 6言語の流暢性低下・言葉が出にくくなる(言語型)
  • 7記憶は比較的保たれる(初期)
  • 8実行機能障害(計画・段取り・判断の困難)

原因・メカニズム

TDP-43、FUS、タウなどの異常タンパク質が前頭葉・側頭葉の神経細胞に蓄積します。遺伝子変異(GRN、C9orf72、MAPT等)が原因の家族例も多く、若年発症が多い点が特徴です。アセチルコリン系よりもドーパミン系・セロトニン系の障害が主体で、行動・感情調節に関わる神経回路が優先的に障害されます。

診断

国際診断基準(Rascovsky基準)では、行動変容(脱抑制・無関心・常同行動・食習慣変化・実行機能低下)のうち複数を認めることが必要です。MRIで前頭葉・側頭葉の萎縮、FDG-PETで前頭葉の代謝低下を確認します。神経心理検査では前頭葉機能(WCST・FAB)の低下が特徴的です。

治療・ケア

根治療法はありません。SSRIが衝動性・常同行動・食欲変化に一定の効果を示すことがあります。コリンエステラーゼ阻害薬はFTDには無効とされます。行動・環境の構造化(毎日同じルーティン)が症状管理に有効です。介護者の精神的サポートが特に重要です。

予後・経過

発症から平均8〜10年の経過をたどりますが、個人差が大きいです。言語型は行動型より緩徐に進行することが多いです。呼吸筋麻痺を伴うFTD-ALS(運動ニューロン病合併)の場合、予後は2〜3年と短くなります。

この疾患の重要ポイント

  • 記憶ではなく「人格・行動・言語」が最初に変わる認知症
  • 65歳未満の若年発症が多く、本人・家族ともに就労や生活への影響が大きい
  • 遺伝性の場合があり、家族歴の確認が重要
  • コリンエステラーゼ阻害薬(アルツハイマー治療薬)は無効であり、誤投与に注意
  • 介護者は「人格が変わった」ことへの悲嘆・怒りを抱えやすく、専門的な心理支援が必要
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