分類1|変性性認知症約6分で読めます
レビー小体型認知症とは?
幻視や動作の遅さを伴う認知症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
佐藤一郎さん(仮名・71歳)は定年まで設計士として働き、几帳面な性格から老後も模型製作に情熱を注いでいました。妻の洋子さんが最初に気づいたのは夜のことでした。一郎さんが就寝中に突然「逃げろ!」と叫び、布団の上で手足をばたつかせるのです。起こすと本人は「怖い夢を見ていた」と言いますが、翌朝には覚えていません。
やがて日中にも異変が現れました。「部屋の隅に子供が立っている」「天井を虫が這い回っている」——本人はどこまでも真剣で、洋子さんには何も見えません。そのうちに歩き方がすり足になり、表情が乏しくなりました。かかりつけ医にパーキンソン病の疑いで紹介状を書いてもらい、大学病院の神経内科を受診することになりました。
診察では「レム睡眠行動障害」と「鮮明な幻視」「パーキンソン症状」という三つがそろっていることが指摘され、DaTスキャンの結果とあわせてレビー小体型認知症と診断されました。
洋子さんを最も困惑させたのは、症状の波でした。ある朝は家族の名前も顔もはっきりわかるのに、午後になると「あなたは誰ですか」と夫に問い返されることがあります。「どちらが本当の夫なのか」と涙ながらに話す洋子さんに、担当医は「日内変動はレビー小体型の特徴です。良い時間帯を大切にしてください」と伝えました。
現在は少量の抗認知症薬と睡眠の環境整備で、幻視の頻度は減り、夜間の激しい寝言も落ち着いています。一郎さんは今日も、状態の良い午前中に模型のパーツを並べています。
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基礎知識の解説
レビー小体型認知症とは
レビー小体型認知症は認知症の約15〜20%を占め、アルツハイマー型に次いで多い変性性認知症です。脳内にαシヌクレインからなる「レビー小体」が広範に蓄積し、認知機能・精神症状・運動機能の三領域にわたる多彩な症状を呈します。認知機能の日内変動と鮮明な幻視が特徴的です。
主な症状
- 1鮮明でリアルな幻視(人・動物・虫などが見える)
- 2認知機能の顕著な日内変動(良い時間帯と悪い時間帯がある)
- 3パーキンソン症状(小刻み歩行・筋固縮・無動・振戦)
- 4レム睡眠行動障害(夢に合わせて叫ぶ・手足を動かす)
- 5繰り返す原因不明の転倒・失神
- 6自律神経障害(便秘・起立性低血圧・発汗異常)
- 7抑うつ・無関心・妄想
- 8抗精神病薬への過敏反応(少量で重篤な副作用が生じやすい)
原因・メカニズム
αシヌクレインというタンパク質が異常に凝集してレビー小体を形成し、大脳皮質・辺縁系・脳幹(黒質など)の神経細胞に蓄積します。ドーパミン系・アセチルコリン系・ノルアドレナリン系など複数の神経伝達系が障害されるため、運動・認知・自律神経・睡眠に及ぶ広範な症状が生じます。
診断
中核症状(認知機能変動・繰り返す幻視・パーキンソン症状・REM睡眠行動障害)の組み合わせで臨床診断します。DaTスキャンでドーパミン神経の変性を確認し、心臓MIBGシンチグラフィで自律神経機能を評価します。
治療・ケア
コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)が認知・幻視に有効です。パーキンソン症状にはL-ドーパを少量から慎重に使用します。抗精神病薬は過敏反応の危険があり原則禁忌です。睡眠環境の整備とクロナゼパム(RBD対策)を組み合わせます。
予後・経過
平均罹患期間は5〜8年ですが個人差が大きく、転倒・誤嚥・肺炎が予後を悪化させる主な要因です。症状の変動が激しいため、家族への情報提供と心理的サポートが特に重要です。
この疾患の重要ポイント
- •「幻視」は本人にはリアルな体験:否定せず「怖かったね」と共感的に対応する
- •抗精神病薬(ハロペリドール等)の安易な使用は生命を脅かす重篤な副作用を招く可能性がある
- •認知機能の変動はレビー小体型の本質的な特徴であり、「良い時間帯」を活かしたケアを計画する
- •REM睡眠行動障害はアルツハイマーよりも早期に出現し、診断の手がかりとなる
- •パーキンソン病との鑑別が重要:認知症が先行するか運動症状が先行するかで診断が変わる
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