分類1変性性認知症7分で読めます医師査読済 · 2026年8月25日

レビー小体型認知症とは?

幻視や動作の遅さを伴う認知症

Yuya Kobayashi, MD, PhD

医療監修

Yuya Kobayashi, MD, PhD

認知症専門外来・在宅診療医

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

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体験談・具体的な事例

深夜に大声で寝言を叫ぶようになった夫を心配した妻が、専門医から聞いた診断名。

定年まで機械設計の仕事に携わり、退職後は精密な鉄道模型を趣味にしていた一郎さん(仮名)。几帳面で物静かなその人が最初に変わったのは夜でした。 妻の洋子さんが目を覚ましたのは、一郎さんが布団の上で大声を出しながら手足をばたつかせているのを感じたからでした。起こすと一郎さんは「工場で機械が暴走していた」と話し、ひどく動揺していました。翌朝には夢の内容を細部まで覚えていました。「ただの悪夢」と思いながらも、月に数回このような夜が続きました。 昼間には別の異変が現れました。「電話の横に、3歳くらいの子供がしゃがんでいる」——一郎さんは何の疑いもなく洋子さんに伝えます。洋子さんには何も見えません。「おじいちゃんが子供好きだから見えるんじゃないかな」と最初は笑っていましたが、「仏壇の前で老人が立っている」「天井を黒い犬が歩いている」と毎日のように続くようになると、笑えなくなりました。 さらに気になったのは認知機能の波でした。ある朝は昨年の旅行のことを楽しそうに話すのに、同じ日の午後には「あなたは誰ですか」と洋子さんに問い返すのです。「どちらが本当の夫なのだろう」と洋子さんは戸惑いを隠せませんでした。歩き方も変わりました。小刻みな歩行、動作の遅さ、表情の乏しさ——かかりつけ医はパーキンソン病の疑いで神経内科へ紹介状を書きました。 大学病院の神経内科で一郎さんは詳しい評価を受けました。脳波・神経心理検査・MRI のほか、ドーパミントランスポーターの分布を画像化する DaT スキャン(123I-FP-CIT SPECT)が施行されました。結果は「両側被殻・尾状核での取り込み著明低下」——ドーパミン神経の変性を示す典型的な所見でした。また、心臓の交感神経機能を見る心臓 MIBG シンチグラフィでは、心/縦隔比(H/M 比)が早期像 1.5、後期像 1.4 と著明に低下しており、自律神経障害の存在が確認されました。ポリソムノグラフィーでは REM 睡眠中に筋緊張が消失せず、実際に大きな体動を伴う「REM 睡眠行動障害(RBD)」が証明されました。診断は「レビー小体型認知症(DLB)」でした。 主治医から「幻視が怖くても、抗精神病薬は重篤な副作用が出やすいため使えません。市販の睡眠薬や安定剤も、認知機能や意識状態に影響することがあるため自己判断では使わず、必ず私にご相談ください」と強く言われました。コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル塩酸塩を 3mg から開始し、2週間ほどで 5mg に増量すると、幻視の頻度と強度が徐々に和らぎました。クロナゼパムを少量追加したことで夜間の激しい寝言も落ち着き、洋子さんも眠れるようになりました。 一郎さんは今日も、状態の良い午前中に模型の車輪を丁寧に組み立てています。「今日は昨日より集中できた気がする」と言う日と、全く手がつかない日があります。洋子さんはその波を「一郎さんらしいリズム」として受け入れるようになりました。

基礎知識の解説

レビー小体型認知症とは

レビー小体型認知症(DLB: Dementia with Lewy Bodies)は、認知症全体の15〜20%を占めるアルツハイマー型に次いで多い変性性認知症です。脳内の神経細胞にαシヌクレインからなる「レビー小体」が広範囲に蓄積し、認知・精神・運動・自律神経の四領域にわたる多彩な症状を呈します。特徴は、リアルで鮮明な幻視、時間帯によって大きく揺れ動く認知機能の変動、パーキンソン症状(小刻み歩行・筋固縮)、REM 睡眠行動障害(夢に合わせて叫ぶ・暴れる)の四つです。パーキンソン病認知症(PDD)とは連続スペクトラムと考えられており、認知症が先行する場合に DLB と診断します。好発年齢は 70〜80 歳代で男性にやや多いとされています。

主な症状

  • 1鮮明でリアルな幻視(人・動物・虫・小さな子供などが繰り返し見える)
  • 2認知機能の顕著な日内・日間変動(良い時間帯と混乱する時間帯が交互に出現)
  • 3パーキンソン症状:小刻み歩行・無動・筋固縮(初期は振戦が目立たないことも多い)
  • 4REM 睡眠行動障害:睡眠中に夢の内容に合わせて大声を出す・手足をばたつかせる
  • 5繰り返す原因不明の転倒・失神・立ちくらみ(自律神経障害による起立性低血圧)
  • 6自律神経症状:頑固な便秘・発汗異常・血圧変動
  • 7うつ状態・強い不安感・アパシー(無気力)
  • 8抗精神病薬への過敏反応:少量でも重篤なパーキンソン症状悪化・意識障害・転倒が生じる(危険)
  • 9嗅覚低下(アルツハイマーよりも早期から出現しやすい)
  • 10注意機能・視空間認知の低下(アルツハイマー型より前面に出やすい)

症状の進行

初期発症〜数年
  • リアルな幻視(人や動物が見える)

  • 寝ている間に大声を出す・暴れる(REM睡眠行動異常症)

  • 日によって認知機能が大きく変動する

  • 立ちくらみや失神(自律神経障害)

中期3〜8年
  • 動作が遅くなる・手が震える(パーキンソン症状)

  • 転倒リスクが高まる

  • 幻視への反応が強くなる(怖がる・話しかける)

  • 抑うつや無気力が目立つ

  • 日常動作に介助が増える

後期発症後7年以降
  • 歩行困難・寝たきりに近い状態

  • 嚥下障害による誤嚥性肺炎が増える

  • 言葉でのコミュニケーションが困難

  • 全面的な身体介護が必要

※ 進行速度・症状の現れ方は個人差が大きく、必ずしも順序通りに進むとは限りません。

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原因・メカニズム

αシヌクレインというタンパク質が神経細胞内で異常に凝集・折り畳みを起こし、「レビー小体」と呼ばれる封入体を形成します。レビー小体は大脳新皮質(前頭葉・頭頂葉・後頭葉)・辺縁系・脳幹(黒質・迷走神経背側核)・自律神経節に広がります。黒質のドーパミン神経が変性するとパーキンソン症状が出現し、コリン神経(Meynert 基底核)の障害が認知機能・注意機能を低下させます。後頭葉の視覚処理野が侵されると幻視が起こりやすくなり、睡眠調節に関わる脳幹網様体の障害が REM 睡眠行動障害の原因となります。αシヌクレインの病理変化はパーキンソン病(PD)・多系統萎縮症(MSA)と共通するシヌクレイノパチーの範疇に入ります。

診断

2017年の DLB コンソーシアム第4次コンセンサス報告(McKeith IG et al., Neurology 2017)に基づいて診断します。臨床診断としての「ほぼ確実(probable)」には2つの中核症状、または1つの中核症状+1つのバイオマーカーが必要です。なお「確実(definite)」は剖検による病理診断にのみ用いられる用語であり、臨床診断には使用しません。

中核症状

幻視(鮮明でリアル)・認知機能変動・パーキンソン症状・REM 睡眠行動障害(多くは DLB 発症の 10 年以上前から出現する)。

補助バイオマーカー

① DaT スキャン(123I-FP-CIT SPECT):線条体ドーパミントランスポーターの取り込み低下 ② 心臓 MIBG シンチグラフィ:心/縦隔比(H/M 比)の低下(交感神経変性を反映)③ ポリソムノグラフィー:REM 睡眠中の筋緊張消失なし(RBD の確認)。

認知機能検査ではアルツハイマー型と比較して視空間認知・注意機能の低下が目立ちます。

治療・ケア

根治療法はなく症候別対症療法が中心です。

認知・幻視

コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル(5〜10mg/日)が認知機能と幻視の改善に有効で、DLB への保険適用があります。ガランタミン・リバスチグミンも使用されることがありますが、これら2剤はアルツハイマー型認知症にのみ保険適用があり、DLBへの使用は適応外です。

パーキンソン症状

L-ドーパを低用量(100〜150mg/日)から慎重に開始します。ドーパミンアゴニストはより慎重な使用が必要です。

REM 睡眠行動障害

クロナゼパム(0.5mg 就寝前)が有効ですが、転倒リスクに注意。メラトニン(0.5〜3mg)も選択肢となりますが、国内で承認されているメラトニン製剤(メラトベル)は小児が適応であり、成人への使用は保険適用外です。

厳禁

ハロペリドール等の定型抗精神病薬はレビー小体型では致死的な過敏反応(高度のパーキンソン症状悪化・意識障害・高体温)を引き起こすことがあるため、原則禁忌です。クエチアピンなど非定型抗精神病薬も慎重に使用します。

非薬物療法

生活リズムの規則化、照明の調整(暗い場所で幻視が増悪するため)、環境の単純化が幻視軽減に役立ちます。

予後・経過

平均罹患期間はアルツハイマー型と同程度の 7〜8 年とされますが、個人差が大きく 3〜20 年の幅があります。認知機能の変動と幻視は早期から出現し、パーキンソン症状は中期以降に前面に出ることが多いです。転倒による骨折・誤嚥性肺炎・自律神経障害(脱水・感染)が予後を悪化させる主な要因です。抗精神病薬の誤投与による急速悪化にも注意が必要です。家族介護者の心理的負担が大きく、症状の変動に振り回される消耗感に対するサポートが特に重要です。

似た症状の疾患との違い

疾患名見分け方のポイント
アルツハイマー型認知症初期から近時記憶障害が前景に立つのに対し、DLBでは記憶障害は比較的軽く、幻視・認知機能の変動・パーキンソン症状が先行することが多い。MIBG心筋シンチやDAT-SPECTは通常正常。
パーキンソン病認知症臨床像は類似するが、パーキンソン症状が先行し発症から1年以上経過してから認知症が出現した場合はPDD、パーキンソン症状と認知症がほぼ同時〜1年以内に出現した場合はDLBと分類される(いわゆる「1年ルール」)。
前頭側頭型認知症記憶障害より先に人格変化・脱抑制・言語障害が前景に立つのが特徴で、幻視やレム睡眠行動障害、パーキンソン症状は基本的にみられない。

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