分類1|変性性認知症約6分で読めます
意味性認知症とは?
言葉の意味がわからなくなる認知症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
林美智子さん(仮名・63歳)は長年、図書館司書として言葉を愛する仕事をしてきました。異変を最初に感じたのは夫の隆さんでした。
「ねえ、あの……動物、何て言うんだったかな。鳴く、あの……犬みたいな」。美智子さんが指さしていたのはテレビに映った猫でした。猫という言葉が出てこないのです。しかし会話は流暢で、文章は組み立てられます。「なんか最近、物の名前がわからなくなった」と本人も笑いながら話していました。
半年後、症状は広がっていました。「りんご」と言っても何のことかわからず、絵を見せてもらって初めて「ああ、果物か」とわかる状態になりました。料理のレシピを見ても食材の名前がわからず、以前は得意だった家庭料理ができなくなりました。
脳神経内科を受診し、MRIを撮ると左側頭葉が著明に萎縮していました。神経心理検査では意味記憶(物事の概念・意味に関する記憶)の著しい低下が確認されました。エピソード記憶(出来事の記憶)は比較的保たれており、昨日の夕食や孫の話は生き生きと語ることができます。診断は「意味性認知症」。
隆さんが工夫したのは「絵カード」でした。言葉が通じなくても、絵や写真を見せると美智子さんはすぐに反応します。文字よりも絵・音・動作のほうが通じる——そのことを介護士から教わった隆さんは、台所に食材の写真を貼り付け、美智子さんが再び料理を楽しめるように工夫しました。
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基礎知識の解説
意味性認知症とは
意味性認知症(SD)は前頭側頭葉変性症の一型で、物事の意味・概念に関する「意味記憶」が選択的に失われる疾患です。言葉が出てこなくなるだけでなく、物の意味そのものがわからなくなります。左側頭葉前部の萎縮が特徴的で、60代に多く発症します。
主な症状
- 1物の名前が出てこない(異名失語)
- 2言葉の意味がわからなくなる(語義失語)
- 3絵や写真の名前が答えられない
- 4物の用途・概念がわからなくなる
- 5会話の流暢性は保たれる(言葉は出るが内容が空虚)
- 6昨日の出来事などエピソード記憶は初期には比較的保たれる
- 7顔の認識障害(右側頭葉優位の場合)
- 8強迫的・常同的な行動パターン(後期)
原因・メカニズム
TDP-43タンパク質の異常凝集が左側頭葉前部(特に上側頭回・紡錘状回)の神経細胞に蓄積します。この領域は言語・概念・意味情報の統合に関わるため、意味記憶が選択的に障害されます。アミロイドβは蓄積せず、アルツハイマー病とは別の病態です。
診断
神経心理検査で意味記憶の選択的低下(物品名呼称・語義理解・カテゴリー流暢性の著明な低下)を確認します。MRIでは左(または両側)側頭葉前部の著明な萎縮が特徴的です。FDG-PETでも同部位の代謝低下を認めます。
治療・ケア
根治療法はありません。言語聴覚士による言語療法が会話機能の維持に有効です。写真・絵カードを使ったコミュニケーション補助が生活の質を高めます。SSRIが行動症状(強迫・易怒性)に有効な場合があります。環境の一貫性と日課の維持が重要です。
予後・経過
発症から平均8〜12年の経過をたどります。言語機能の低下が先行し、後期には行動変容(前頭葉型の症状)が加わります。進行すると非言語的コミュニケーション(表情・身振り)への依存が高まります。
この疾患の重要ポイント
- •「言葉が出ない」ではなく「言葉の意味がわからなくなる」——失語とは異なる病態
- •エピソード記憶(出来事の記憶)が保たれるため、認知症と気づかれにくい
- •写真・絵・実物を使ったコミュニケーションが有効
- •左側頭葉の萎縮パターンがMRIで特徴的で、診断の手がかりとなる
- •アルツハイマー治療薬は効果が乏しく、誤診からの誤投与に注意
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