分類7|自己免疫・炎症性疾患約5分で読めます
橋本脳症とは?
甲状腺の自己免疫疾患に伴う脳症
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
藤井絹子さん(仮名・52歳)は橋本甲状腺炎(慢性甲状腺炎)で長年治療を受けていました。甲状腺機能自体はホルモン補充でコントロールされており、「甲状腺の問題は安定している」と思っていました。
突然の異変は45歳のときでした。仕事中に意識が遠くなり、「おかしな発作」が起きました。手が震えてコントロールできない(ミオクローヌス)、視界がぐるぐる回る——数分後に回復しましたが、翌日また同じような発作が起きました。
神経内科を受診するとMRIで脳の一部に異常が見つかりました。「橋本脳症」と診断されました。「橋本病(自己免疫性甲状腺炎)に関連して、自己抗体が脳を攻撃している状態です。甲状腺機能の問題とは別のメカニズムです」と説明を受けました。
ステロイド療法を開始すると、発作は速やかに止まり、認知機能も改善しました。「ステロイドがこんなに効くとは思わなかった」と絹子さんは言います。
「SREAT(ステロイド反応性自己免疫性甲状腺炎関連脳症)とも呼ばれ、きちんとステロイドで治療すれば回復できます」と担当医は説明しました。
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基礎知識の解説
橋本脳症とは
橋本脳症(SREAT:Steroid-Responsive Encephalopathy Associated with Autoimmune Thyroiditis)は、橋本甲状腺炎(自己免疫性甲状腺炎)に関連した自己免疫性脳症です。甲状腺機能が正常でも発症し、認知機能障害・けいれん・ミオクローヌス・精神症状が現れます。ステロイドへの良好な反応が特徴的で、「治る認知症」の一つです。
主な症状
- 1ミオクローヌス(体がぴくっとする不随意運動)
- 2けいれん発作
- 3認知機能低下(記憶・注意)
- 4意識障害(発作性・進行性)
- 5精神症状(幻覚・妄想・行動変容)
- 6小脳失調(ふらつき)
- 7局所神経症状(麻痺・失語)
- 8甲状腺機能は正常〜低下の範囲(機能低下とは別のメカニズム)
原因・メカニズム
橋本病の自己抗体(抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体)が脳の血管・神経細胞に交叉反応する可能性が指摘されています。また、甲状腺に対する自己免疫反応が神経系にも波及する可能性があります。NMDA受容体などに対する抗体との関連も研究されています。
診断
血清・脳脊髄液の抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体の著明な高値が診断の手がかりです。MRIで白質病変・皮質病変を確認することがあります(正常の場合も多い)。ステロイドへの治療反応性を確認することが診断的治療として重要です。他の自己免疫性脳炎との鑑別が必要です。
治療・ケア
ステロイド療法(プレドニゾロン経口または静注)が第一選択です。多くの場合に劇的な改善が見られます。再発する場合は免疫抑制薬(アザチオプリン・ミコフェノール酸モフェチル)の追加が検討されます。甲状腺機能低下症があれば甲状腺ホルモン補充も行います。
予後・経過
ステロイド治療への反応は良好で、多くの患者で症状が改善します。ステロイド減量による再発に注意が必要で、長期の少量ステロイド維持が必要な場合があります。
この疾患の重要ポイント
- •「甲状腺機能が正常な橋本病患者の急性〜亜急性脳症」は橋本脳症を疑う
- •抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体の高値が診断の手がかり——甲状腺機能とは別に抗体価を確認
- •「ステロイドで劇的に改善する」ことが診断的治療の手がかりになる
- •希少疾患だが治療可能——見逃さないために、甲状腺疾患の既往を聴取する
- •再発リスクがあるため、ステロイド減量は慎重に・長期フォローを続ける
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