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基礎知識の解説
多発性硬化症とは
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の髄鞘(ミエリン)が自己免疫反応により破壊される脱髄疾患です。再発と寛解を繰り返す「再発寛解型(RRMS)」が全体の約85%を占め、20〜40代の若い女性に多く発症します(女性:男性=2〜3:1)。MRI上の白質病変・脳脊髄液のオリゴクローナルバンド陽性・視覚誘発電位異常がMcDonald診断基準の柱です。長期的に認知機能障害(処理速度・記憶・注意)が生じる頻度は高く、MSの「隠れた重症度」として近年重視されています。疾患修飾薬(DMT)の早期開始が再発抑制・障害蓄積の軽減に有効です。
主な症状
- 1視神経炎(一眼の視力低下・眼球運動時の疼痛・色覚異常「赤が赤く見えない」)
- 2感覚障害(しびれ・灼熱感・電撃様疼痛)
- 3運動障害(脱力・歩行困難・痙性対麻痺)
- 4Lhermitte徴候(頸部前屈で電気が背中に走る感覚)
- 5小脳症状(ふらつき・企図振戦・協調運動障害)
- 6認知機能障害(処理速度・記憶・注意・実行機能の低下)
- 7MS疲労(日常生活に支障をきたす強い倦怠感)
- 8膀胱直腸障害(頻尿・尿失禁・便秘)
- 9感情障害(抑うつ・感情失禁・不安)
- 10体温上昇による症状増悪(Uhthoff現象:入浴や運動で一時的に症状が悪化)
原因・メカニズム
原因・メカニズム
自己反応性CD4+ T細胞(主にTh1/Th17)が血液脳関門を通過して中枢神経系に侵入し、ミエリン塩基性タンパク(MBP)やプロテオリピドプロテイン(PLP)を標的として免疫攻撃を行います。ミエリン破壊によって神経インパルスの伝導が遅延・遮断され、急性期の神経症状が生じます。急性炎症が収束するとオリゴデンドロサイト前駆細胞が再髄鞘化を行い症状が「寛解」しますが、繰り返す再発で軸索の不可逆的損傷が蓄積します。McDonald基準2017では、脳脊髄液中のオリゴクローナルバンド(OCB)陽性が時間的多発性(DIT)の代替基準として採用されており、初回発作後の早期確定診断が可能になりました。認知機能障害には大脳灰白質の菲薄化・白質体積の減少が関与し、処理速度に関わる前頭葉ネットワークが早期から障害されます。Lhermitte徴候は脱髄した脊髄後索が頸部前屈という機械的刺激を受けることで電気信号が散乱し生じる現象です。
診断
診断
McDonald基準2017が世界標準の診断基準です。空間的多発性(DIS)はMRIで脳室周囲・皮質直下・テント下・脊髄の4領域のうち2か所以上にT2病変があることで満たされます。時間的多発性(DIT)はT1増強病変と非増強T2病変が同時存在、または追加のMRIで新規病変が確認されることで満たします。OCB(オリゴクローナルバンド)陽性はDITの代替基準となり、初回発作でも診断確定が可能です(感度85%・特異度85%)。VEP(視覚誘発電位)では視神経炎後のP100潜時延長(>110ms)が脱髄の電気生理学的証拠となります。鑑別すべき疾患には視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD・AQP4抗体・MOG抗体陽性)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳血管疾患などが含まれます。神経心理検査(PASAT・SDMT)で認知機能低下を定量化することも重要です。
治療・ケア
治療・ケア
急性再発期にはメチルプレドニゾロン1g/日×3〜5日の静脈内投与(ステロイドパルス)を行います。再発回数を減らし障害蓄積を抑制するため、確定診断後は速やかに疾患修飾薬(DMT)を開始します。RRMS の標準第一選択薬はインターフェロンβ(アボネックス・ベタフェロン)、酢酸グラチラマー(コパキソン)、ジメチルフマル酸塩(テクフィデラ)、テリフルノミド(オバジオ)です。再発が多い高活性型RRMSにはナタリズマブ300mg/4週(JCV抗体価陰性確認が必要)、オクレリズマブ600mg/6ヶ月、クラドリビン(短期経口投与)が用いられます。ナタリズマブ長期使用例ではJCV抗体価の定期測定を行い、陽転化・高価の場合はPML(進行性多巣性白質脳症)リスクを評価して治療変更を検討します。非薬物療法として認知リハビリ・疲労管理(エネルギー節約テクニック)・運動療法・SSRI(抑うつ治療)がQOLに重要な役割を果たします。
予後・経過
予後・経過
疾患修飾薬を早期から使用した場合、再発率は50〜70%抑制され、長期的な身体障害蓄積も軽減されます。治療なしでは発症から15〜20年で約半数が歩行補助具を必要とする状態になるとされますが、高活性薬の普及で予後は改善しています。認知機能障害は患者の40〜70%にみられ、就労維持に影響するため早期からの神経心理的サポートが重要です。一次進行型(PPMS)はオクレリズマブが適応となりますが、進行抑制効果は限定的です。
多発性硬化症の重要ポイント
「若い女性の視神経炎・しびれ・脱力の繰り返し」はMSを第一に疑い、McDonald基準2017でOCB陽性であれば初回発作後から診断確定が可能
MRI所見(脳室周囲・皮質直下・テント下・脊髄の4領域T2病変)と脳脊髄液OCB陽性が確定診断の柱
VEP(視覚誘発電位)のP100潜時延長は視神経炎の電気生理学的証拠——過去の視神経炎エピソードを掘り起こす
「MS疲労・認知機能障害(処理速度低下)」は見えない症状——神経心理検査(PASAT・SDMT)で定量化し支援につなげる
疾患修飾薬は早期開始が原則——高活性型にはナタリズマブ・オクレリズマブ(JCV抗体・PMLリスク管理が必須)
ナタリズマブ使用中はJCV抗体価を6ヶ月ごとに測定し、陽性高価では治療変更を検討する
認知リハビリ・エネルギー節約テクニック・うつ治療(SSRI)がQOLと就労継続に直結する
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