分類7|自己免疫・炎症性疾患約6分で読めます
多発性硬化症とは?
髄鞘が壊れる再発寛解を繰り返す神経疾患
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
早川奈々さん(仮名・28歳)は大学院生のとき、突然「右目が見えにくくなった」という症状で始まりました。「疲れ目かな」と思っていると2週間で自然に回復しました。
その半年後、今度は右足が動かしにくく、しびれが出ました。また2〜3週間で回復しましたが、「なんか変なことが続く」と不安になった奈々さんが神経内科を受診すると、MRIで脳・脊髄に複数の白質病変が確認されました。「多発性硬化症(MS)」の診断でした。
「再発を繰り返すにつれて、少しずつ回復が不完全になっていく可能性がある」と説明を受けたとき、奈々さんは「これからの人生はどうなるの?」という恐怖を感じました。
5年間に4回の再発を経験し、軽度の記憶力低下・疲労感が残るようになりました。「あれ、さっき言ったこと忘れた」「よく物の名前が出てこない」という症状が日常になりました。
インターフェロンβからナタリズマブへと治療を変えることで再発がコントロールされ、現在は研究者として働いています。「MS があっても、やりたいことはできる——それを証明したいと思って仕事を続けています」
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基礎知識の解説
多発性硬化症とは
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の髄鞘(ミエリン)が自己免疫反応により破壊される脱髄疾患です。再発と寛解を繰り返す「再発寛解型(RRMS)」が最も多く、若い女性に好発します。長期的に認知機能障害(処理速度・記憶・注意)が生じる頻度が高く、MSの隠れた重要な症状です。
主な症状
- 1視神経炎(一眼の視力低下・眼痛)
- 2感覚障害(しびれ・感覚異常)
- 3運動障害(脱力・歩行困難)
- 4小脳症状(ふらつき・協調運動障害)
- 5認知機能障害(処理速度・記憶・注意・実行機能)
- 6疲労感(MS特有の強い倦怠感)
- 7膀胱直腸障害
- 8感情障害(うつ・感情失禁)
原因・メカニズム
自己反応性T細胞がミエリンを攻撃し、脱髄斑(プラーク)が脳・脊髄の複数部位に形成されます。急性期の炎症後、ミエリン再形成(再髄鞘化)により症状が寛解しますが、不完全な修復が蓄積すると軸索の永続的な損傷へとつながります。認知機能障害には大脳灰白質の萎縮・白質病変が関与します。
診断
MRI(2病変以上・時間的・空間的多発性)と臨床所見がMcDonald診断基準の中心です。脳脊髄液検査(オリゴクローナルIgGバンド陽性)が補助的診断に有用です。視覚・聴覚・体性感覚誘発電位が脱髄の証拠となります。
治療・ケア
急性再発期:ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン大量静注)。再発予防(疾患修飾薬):インターフェロンβ・酢酸グラチラマー(軽度)、ナタリズマブ・フィンゴリモド・オクレリズマブ(高活性型)など。認知リハビリ・疲労管理・うつ治療が生活の質に重要です。
予後・経過
再発を繰り返すにつれ認知機能障害・身体障害が蓄積します。疾患修飾薬により再発率・障害蓄積を大幅に抑制できます。一次進行型(PPMS)は疾患修飾薬の効果が限定的です。
この疾患の重要ポイント
- •「若い女性の再発する神経症状(視神経炎・しびれ・脱力)」はMSを疑う
- •MSの認知機能障害は「隠れた症状」——日常の困難を訴えても見逃されることがある
- •早期疾患修飾薬により再発・障害蓄積を大幅に抑制できる——早期診断・早期治療が重要
- •疲労はMSの最も多い症状の一つ——適切な睡眠・活動計画・疲労管理を
- •ナタリズマブ長期使用ではPML(JCウイルス脳炎)リスクを定期的に評価する
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