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基礎知識の解説
副甲状腺機能異常(高カルシウム血症)とは
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺腺腫(約85%)・過形成(約15%)・癌(1%未満)により副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰分泌され、持続的な高カルシウム血症を引き起こす疾患です。有病率は一般人口の約0.1〜0.3%で、50歳以上の女性に多く見られます。高カルシウム血症は神経細胞の興奮性を低下させ、認知機能障害・抑うつ・倦怠感・便秘・多飲多尿・骨粗鬆症などの多彩な症状を呈します。近年は無症候性(健診での偶発的発見)が増加しており、認知症様症状が唯一の訴えとなることもあります。副甲状腺腺腫摘出術で根治でき、術後に認知機能が著明改善する「治る認知症」の重要な一例です。
主な症状
- 1認知機能低下(集中力・記憶力・処理速度の低下)
- 2抑うつ・不安・情動不安定
- 3無気力・疲労感・意欲低下
- 4多飲・多尿(高カルシウム血症による腎への影響)
- 5便秘(消化管平滑筋の弛緩)
- 6悪心・嘔吐・食欲不振
- 7骨痛・骨粗鬆症・脆弱性骨折
- 8尿路結石(高カルシウム尿症)
- 9筋力低下・近位筋力低下
- 10高血圧・QT短縮(心電図変化)
原因・メカニズム
原因・メカニズム
副甲状腺腺腫が自律的にPTHを過剰分泌することで、骨からのカルシウム放出(破骨細胞活性化)・腎でのカルシウム再吸収増加・消化管からのカルシウム吸収促進(1,25(OH)2ビタミンD活性化を介して)が同時に亢進し、持続的な高カルシウム血症が生じます。カルシウムイオンは神経細胞の興奮性を調節する重要な細胞外シグナルであり、高カルシウム血症では神経細胞膜の脱分極閾値が上昇(興奮しにくくなる)し、神経伝達の全体的な抑制が起きます。特に前頭前野・海馬・側頭葉の神経回路が影響を受け、注意・ワーキングメモリ・エピソード記憶が障害されます。また、PTH自体が血液脳関門を越えて脳内PTH受容体に作用し、神経可塑性に直接影響を及ぼすという証拠も積み重なっています。高カルシウム血症が長期間続くと、腎機能障害・高血圧を介した間接的な脳への影響も加わります。
診断
診断
日本内分泌学会の原発性副甲状腺機能亢進症ガイドラインに基づき、血清補正カルシウム高値(10.0 mg/dL超)と血清intact PTH高値(65 pg/mL超)の同時確認が診断の基本です。血清アルブミン補正カルシウム値=測定値+(4.0-アルブミン値)×0.8 で算出します。24時間尿中カルシウム排泄量の増加も確認します。家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)との鑑別にカルシウム・クレアチニン比を用います。腺腫の局在同定には頸部超音波検査と Tc-99m セスタミビシンチグラフィを組み合わせ、感度・特異度が向上します。骨密度測定(DXA法)で骨粗鬆症の程度を評価し、腎エコーで尿路結石を確認します。Bilezikian ら(2014年)の国際ガイドラインでは、血清カルシウム 1.0 mg/dL以上の高値、eGFR 60 mL/min未満、骨密度Tスコア−2.5以下、年齢50歳未満のいずれか1つでも該当すれば手術適応とされています。
治療・ケア
治療・ケア
確実な根治療法は副甲状腺腺腫摘出術(副甲状腺切除術)です。腫大した副甲状腺を頸部切開または内視鏡下で摘出します。術中PTH測定(クイックPTH法)により腺腫の完全摘出を確認します。手術成功率は経験豊富な施設で95%以上です。術後一過性に低カルシウム血症(テタニー)が生じることがあるため、カルシウム・ビタミンD製剤の補充が必要な場合があります。手術不適応例や手術を希望しない場合には、シナカルセト塩酸塩(オスタバル)が高カルシウム血症のコントロールに使用されます。シナカルセトはカルシウム感知受容体(CaSR)を活性化してPTH分泌を抑制します。骨粗鬆症合併例にはビスホスホネート系薬剤・デノスマブなどを併用します。無症候性で手術適応を満たさない軽症例は、年1〜2回の採血・骨密度測定・尿路結石スクリーニングを行いながら経過観察します。
予後・経過
予後・経過
副甲状腺腺腫摘出術により血清カルシウムが正常化すると、認知機能・抑うつ・倦怠感などの神経精神症状は多くの場合に著明改善します。Roman ら(2011年)は手術後の不安・抑うつスコアの有意な改善を報告しており、認知機能の改善も3〜6ヶ月以内に認められることが多いです。ただし高カルシウム血症が長期間(数年)持続した場合や高齢者では、神経機能の完全回復が得られないことがあります。骨密度は術後1〜2年で有意に改善しますが、完全回復には数年を要します。尿路結石は術後に新規発生が減少します。術後も年1回程度の採血で再発(副甲状腺腺腫の再発・残存)をモニタリングします。
副甲状腺機能異常(高カルシウム血症)の重要ポイント
高カルシウム血症は「骨(骨粗鬆症・骨折)・石(尿路結石)・うめき声(消化器症状)・精神症状(認知機能低下・抑うつ)」で覚える
認知症疑いには血清カルシウムとPTH測定を必ず含める——健診の偶発的発見が「治る認知症」の端緒になることがある
副甲状腺腺腫摘出術で根治できる——血清カルシウム正常化後に認知機能・抑うつが著明改善することが多い
Tc-99mセスタミビシンチグラフィと頸部エコーを組み合わせて腺腫を同定してから手術計画を立てる
術後の一過性低カルシウム血症(テタニー)に備えてカルシウム・ビタミンD補充の準備が必要
手術不適応例にはシナカルセト(カルシウム感知受容体作動薬)で高カルシウム血症を管理する
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