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基礎知識の解説
低ナトリウム血症とは
低ナトリウム血症(血清Na濃度<135mEq/L)は高齢者に最も多い電解質異常であり、65歳以上の入院患者の約7〜11%に認められます。サイアザイド系利尿薬、SIADH(抗利尿ホルモン不適切分泌症候群)、心不全・肝硬変による希釈性低Na、過剰な水分摂取が主な原因です。主要症状は認知機能低下・見当識障害・傾眠・悪心嘔吐・筋痙攣であり、血清Na<120mEq/Lではけいれん発作・昏睡を来します。適切な補正(24時間で8〜10mEq/L以内)により多くの場合に症状は回復する「治る認知症」の代表疾患です。
主な症状
- 1倦怠感・脱力感(初期から出現しやすい)
- 2頭痛・悪心・嘔吐
- 3認知機能低下(集中力・記憶力・思考速度の低下)
- 4見当識障害(場所・時間・人物の混乱)
- 5傾眠・無気力・うつ様症状
- 6歩行障害・転倒リスクの増大
- 7筋痙攣・ミオクローヌス(筋肉のぴくつき)
- 8てんかん発作(血清Na<120mEq/L以下の重篤例)
- 9意識障害・昏睡(重篤な急性低ナトリウム血症)
- 10浮腫(心不全・肝硬変による希釈性の場合)
原因・メカニズム
原因・メカニズム
ナトリウム(Na⁺)は細胞外液の主要な陽イオンであり、血漿浸透圧(正常:275〜290mOsm/kg)の約半分を担っています。血清Na低下により細胞外液の浸透圧が下がると、浸透圧較差に従って水分が細胞内に移行し、細胞が膨張します。頭蓋内に固定された神経細胞・グリア細胞が膨張すると脳浮腫が生じ、頭蓋内圧が上昇して神経機能が障害されます。急性低ナトリウム血症(48時間以内)では脳の適応機構が追いつかず、重篤な脳浮腫を来します。一方、慢性低ナトリウム血症(48時間以上)では脳内から溶質(タウリン・グルタミン酸など有機オスモライト)が排出されて細胞内浸透圧が低下し、脳浮腫が軽減されます。このため慢性例では症状が軽微でも、急速補正によって今度は脳細胞が逆方向に脱水・収縮し、橋中心性髄鞘崩壊症(ODS)を引き起こす危険があります。
診断
診断
欧州内分泌学会(ESE)2014年ガイドライン(Spasovski ら)および米国専門家パネル推奨(Verbalis ら、2013年)に基づき、①血清Na<135mEq/L、②血清浸透圧<275mOsm/kg(低浸透圧性低Na血症の確認)、③尿浸透圧・尿中Na測定(SIADH:尿浸透圧>100mOsm/kg・尿Na>30mEq/L)、④甲状腺・副腎機能評価、⑤volume status(循環血液量)の評価(浮腫・頸静脈怒張・皮膚ツルゴール)の5ステップで診断分類します。症状の重篤度は血清Na絶対値だけでなく低下速度と持続期間によっても決定されます。血清Na<125mEq/Lでは緊急対応が必要です。MRIでODSを疑う場合は橋・基底核のT2高信号を確認します。
治療・ケア
治療・ケア
症状を伴う急性重篤例(けいれん・意識障害)では、3%高張食塩水を最初の1時間で100mL静注し、血清Naを速やかに2〜3mEq/L上昇させます(Verbalis ら推奨)。その後は慎重に補正速度を落とし、最初の24時間での上昇幅を8mEq/L以内(低リスク例)、6mEq/L以内(アルコール依存・低栄養・低カリウム血症を伴う高リスク例)に制限します。急速補正はODS(橋中心性髄鞘崩壊症)を引き起こすため絶対に避けます。軽度〜中等度の慢性例では水分制限(500〜1,000mL/日)と原因治療(利尿薬中止、SIADH治療)が基本です。SIADH難治例にはバプタン製剤(トルバプタン)を用いることがあります。高齢者では転倒・骨折リスクが上昇するため、外来でも定期的な血清Na測定が推奨されます。
予後・経過
予後・経過
原因が除去できる症例(利尿薬中止、水分制限)では適切な補正により数日〜1週間で症状が回復します。急速補正によるODS(浸透圧性脱髄症候群)は四肢麻痺・嚥下障害・閉じ込め症候群を残す不可逆的な神経障害であり、致死的となることもあります。慢性反復性の低ナトリウム血症は転倒・骨折のリスクを高め、長期的な認知機能にも影響します。根本原因(心不全・肝硬変・SIADH・薬剤)の管理が再発予防の鍵となります。
低ナトリウム血症の重要ポイント
高齢者の「ぼんやり・見当識障害・転倒」は電解質(特に血清Na)を早期に採血確認する
サイアザイド系利尿薬は高齢者の低ナトリウム血症の最多原因のひとつ——服薬中の定期的な採血が重要
「水をたくさん飲むと健康に良い」は高齢者には当てはまらない——過剰な水分摂取が低Na血症を招く
補正速度の厳守(24時間で8mEq/L以内)が最重要——急速補正は不可逆的な橋中心性髄鞘崩壊症(ODS)を招く
SIADH(抗利尿ホルモン不適切分泌症候群)は多くの薬剤・肺疾患・中枢神経疾患で起きる——原因検索が必須
適切な治療で認知機能が回復する「治る認知症」——早期受診・早期採血が予後を左右する
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