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全身性エリテマトーデス(SLE)とは?

全身の自己免疫疾患が脳に与える影響

Yuya Kobayashi, MD, PhD

医療監修

Yuya Kobayashi, MD, PhD

認知症専門外来・在宅診療医

全身性エリテマトーデス(SLE)について、「受診すべきか迷っている」「診断結果を聞いたが理解できない」という段階でも、2分の無料チェックで次に確認すべきことが分かります。

2分でチェック

体験談・具体的な事例

志田麗奈さん(仮名・34歳)がSLE(全身性エリテマトーデス)と診断されたのは26歳のときでした。頬に蝶のような赤みが広がり(蝶形紅斑)、両手の関節が腫れて朝になると指が動かしにくくなりました。血液検査では抗dsDNA抗体が1:640と著明に高く、補体C3が52 mg/dL(基準値は測定施設・試薬キットにより異なりますが、当院基準値は73mg/dL以上)に低下していました。関節症状・皮疹・腎炎(尿蛋白1.8 g/日)が揃い、SLICC 2012分類基準を満たしてSLEと確定診断されました。 さらに同時期に抗リン脂質抗体陽性(ループスアンチコアグラント陽性・抗カルジオリピンIgG抗体40 GPL/mL)も確認されました。「抗リン脂質抗体症候群(APS)を合併しています。血液が固まりやすい状態なので、脳梗塞のリスクがあります」と担当医に説明を受け、ヒドロキシクロロキン200mg/日とワルファリンによる抗凝固療法が開始されました。 8年が経ち、志田さんは広告代理店でフルタイムの仕事を続けていました。しかし32歳ごろから「マルチタスクが難しくなった」「会議の内容が頭に入らない」「議事録を書くのに以前の2倍の時間がかかる」という変化に気づきました。「私がだめになっていくような気がして怖かった」と志田さんは言います。 神経心理検査バッテリーを受けると、SDMT(処理速度検査)スコアが35(同年代平均52)、Trail Making Test B が160秒(平均75秒)と著明に低下していました。MRIではT2高信号の白質病変が3か所に認められ、APSに起因する微小梗塞の可能性が指摘されました。「SLEに関連した認知機能障害(NPSLE:神経精神ループス)で、抗リン脂質抗体による微小血栓が白質に小さな虚血巣をつくり、処理速度に影響している可能性が高い」と神経内科医は説明しました。 治療方針は、ヒドロキシクロロキンを200mg/日から400mg/日に増量し、ワルファリンの管理目標をPT-INR 2.0〜3.0に厳格化することでした。「今回の認知機能低下は微小血栓によるものと考えられるので、まずは抗凝固療法をより厳格にすることが重要です。ヒドロキシクロロキンにも認知機能を保護する可能性を示す報告があります」という言葉が志田さんには励みになりました。 3ヶ月後、SDMT スコアは42に改善し、「最近、頭がクリアになってきた気がします。会議中に一言も聞き逃さないようにメモする自信が戻ってきた」と志田さんは担当医に報告しました。現在は半年ごとの神経心理検査と抗体価モニタリングを続け、MRI の白質病変に新たな変化がないかを追跡しています。

基礎知識の解説

微小血栓が招く処理速度の低下

全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う認知機能障害(NPSLE:神経精神ループス)は、自己抗体・補体・炎症サイトカインが脳血管と神経組織を障害することで生じる認知症様症状です。抗リン脂質抗体による微小血栓・白質梗塞が処理速度・注意・記憶の低下を引き起こすほか、抗NMDAR抗体などの直接的な神経障害も関与します。処理速度の低下・注意障害・「ブレインフォグ」が典型的な訴えで、SLE患者の30〜80%(測定法による)に認めます。SLEの疾患活動性コントロールと抗凝固療法の最適化が認知機能改善の鍵です。

主な症状

  • 1認知機能低下(処理速度・注意・ワーキングメモリ・実行機能)
  • 2「ブレインフォグ」(もやがかかったような思考困難・頭の回転の遅れ)
  • 3抑うつ・不安
  • 4頭痛・偏頭痛
  • 5精神症状(幻覚・妄想・気分の急激な変動)
  • 6脳卒中(抗リン脂質抗体症候群による虚血性梗塞)
  • 7てんかん発作
  • 8末梢神経障害(しびれ・灼熱痛)
  • 9脊髄炎(横断性脊髄炎・下肢の対麻痺)
  • 10自律神経障害(起立性低血圧・動悸)

原因・メカニズム

NPSLEの発症には複数の機序が並存します。①ループスアンチコアグラント(LAC)は血小板凝集を亢進させ、脳の細小血管に微小血栓を形成して白質ラクナ梗塞を引き起こします。②抗NMDAR抗体はグルタミン酸受容体を持つ海馬神経細胞を直接障害し、記憶・学習機能の低下に関与します。③補体系の異常活性化(C1qが神経シナプスの過剰貪食を引き起こす)が大脳灰白質の菲薄化につながる可能性が示されています。④炎症性サイトカイン(IL-6・TNFα)が血液脳関門の透過性を亢進させ、自己抗体の脳内移行を促進します。疾患活動性(SLEDAI-2K)と認知機能障害が必ずしも平行しないのは、微小血管障害の蓄積が持続的に進行するためと考えられています。

診断

SLEの診断にはSLICC 2012分類基準またはEULAR/ACR 2019基準を用います。疾患活動性はSLEDAI-2KおよびBILAG指数で定量的に評価します。NPSLE の診断にはACR 1999の神経精神ループス分類基準(19の神経精神症候群)を参照し、他の原因(感染・薬剤・代謝)を除外します。免疫学的評価として抗dsDNA抗体・抗Sm抗体・補体C3/C4低値の組み合わせを確認します。抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント・抗カルジオリピン抗体IgG/IgM・抗β2GP1抗体)の確認は脳梗塞リスク評価に必須です。神経心理検査バッテリー(SDMT・Trail Making Test・言語流暢性検査)で認知機能を定量化します。MRIではT2/FLAIR白質病変・脳容積の変化を評価します。

治療・ケア

ヒドロキシクロロキン(200〜400mg/日)はSLEの基本薬であり、認知機能保護効果の報告があるため疾患活動性の程度によらず継続します。APS合併例ではワルファリン(PT-INR目標2.0〜3.0)を用います。ループスアンチコアグラント陽性例ではDOAC(直接経口抗凝固薬)の有効性が限定的とされており、ワルファリンが推奨されます。重篤なNPSLE(精神病・難治性てんかん・横断性脊髄炎)に対してはメチルプレドニゾロンパルス(1g/日×3日)+シクロホスファミド静注(NIHレジメン:0.5〜1.0g/m²を月1回×6回投与、以降は病態に応じて3ヶ月ごとの投与に移行することがあります)を行います。維持療法にはアザチオプリン(1〜2mg/kg/日)またはミコフェノール酸モフェチルを用います。認知リハビリ・疲労管理・抑うつ治療(SSRI)も重要です。

予後・経過

SLEの疾患活動性を長期にコントロールすることで認知機能の悪化を防げる場合があります。APSによる脳梗塞は再発リスクが高く、抗凝固療法の生涯継続が必要です。ヒドロキシクロロキンの継続投与は再燃抑制・臓器障害蓄積の軽減に有効です。神経心理検査による定期モニタリングで早期の悪化を検知し、治療強化のタイミングを逃さないことが重要です。

似た症状の疾患との違い

疾患名見分け方のポイント
自己免疫性脳炎自己免疫性脳炎も自己抗体を介した急性〜亜急性の精神症状・認知機能低下を呈するが、抗NMDA受容体抗体など特異抗体の陽性と、多くは腫瘍関連(傍腫瘍性)の背景を持つ。NPSLEはSLEの診断基準を満たし、抗dsDNA抗体・補体低下などSLEに特徴的な血清所見を伴う点で区別される。
橋本脳症橋本脳症も自己免疫機序による認知機能変動・精神症状を呈し、ステロイドに劇的に反応する。抗甲状腺抗体陽性が特徴的であり、SLEに特徴的な皮疹・関節症状・抗dsDNA抗体・補体低下を伴わない点でNPSLEと区別される。
戦略的部位梗塞による認知症抗リン脂質抗体症候群を合併したSLEでは特定部位への梗塞により急性の認知機能障害を呈することがあり、単発の戦略的部位梗塞と鑑別が必要になる。NPSLEでは多発する微小梗塞と炎症性機序(抗NMDAR抗体・補体活性化)が併存する点で、単一血管イベントとは病態が異なる。
最終更新日:

参考文献

  1. [1]Bertsias GK, Ioannidis JP, Aringer M, et al.. EULAR recommendations for the management of systemic lupus erythematosus with neuropsychiatric manifestations: report of a task force of the EULAR standing committee for clinical affairs.. Ann Rheum Dis. 2010;69(12):2074-2082. (2010)
  2. [2]Hanly JG.. Neuropsychiatric lupus.. Rheum Dis Clin North Am. 2005;31(2):273-298. (2005)
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  5. [5]Hochberg MC.. Updating the American College of Rheumatology revised criteria for the classification of systemic lupus erythematosus.. Arthritis Rheum. 1997;40(9):1725. (1997)

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

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