分類1|変性性認知症約5分で読めます
神経フェリチン症とは?
鉄代謝の異常による稀な神経変性疾患
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
松田直子さん(仮名・42歳)の家族は、長年「遺伝性の不思議な病気」とともに生きてきました。祖父が40代で手足が勝手に動くようになり、父も同じ症状を呈して50代で亡くなっていました。
直子さん自身に症状が現れたのは39歳のころでした。左腕が時折ひとりでに動く——まるで音楽のリズムに合わせているかのような、流れるような不随意運動でした。箸がうまく持てない日が増え、字が書きにくくなりました。
神経内科を受診し、MRIで基底核(線条体・淡蒼球)に鉄の沈着が確認されました。血液検査でフェリチン値が異常に低く、遺伝子検査でフェリチン軽鎖遺伝子(FTL遺伝子)の変異が確認されました。「神経フェリチン症」という診断でした。
診断後も直子さんはパートタイムで働き、二人の子育てを続けています。「子どもたちへの遺伝の可能性を考えると怖い」と言いながら、遺伝カウンセラーとの面談を続けています。鉄キレート療法(体内の鉄を排出する治療)が試みられていますが、「劇的な効果はないが、進行を少し遅らせているかもしれない」と主治医は説明しています。
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基礎知識の解説
神経フェリチン症とは
神経フェリチン症は、フェリチン軽鎖遺伝子(FTL)の変異によってフェリチンタンパクが正常に機能せず、鉄が脳の基底核に過剰蓄積する常染色体優性遺伝の稀な疾患です。「脳内鉄沈着を伴う神経変性疾患(NBIA)」の一型で、不随意運動・構音障害・認知機能障害を引き起こします。
主な症状
- 1不随意運動(舞踏様運動・ジストニア)
- 2構音障害(ろれつが回りにくい)
- 3嚥下障害
- 4小脳失調(ふらつき)
- 5眼球運動障害
- 6認知機能低下(実行機能・注意の障害)
- 7精神症状(抑うつ・認知症様症状)
- 8血清フェリチン値の低下(特徴的)
原因・メカニズム
FTL遺伝子変異により異常なフェリチンタンパクが産生され、鉄の貯蔵機能が障害されます。余剰の鉄が基底核(線条体・淡蒼球)に沈着し、フリーラジカルを産生して神経細胞に酸化ストレスを与えることで変性が生じます。通常のフェリチン軽鎖は鉄を安全に貯蔵する役割を持ちますが、変異型は鉄を漏出させます。
診断
MRIのT2強調画像で基底核の低信号(鉄沈着)を確認します。血清フェリチン値の低下(≦20 ng/mL)が重要な手がかりです。FTL遺伝子の変異解析で確定診断します。家族歴(常染色体優性)の確認も診断に有用です。類似疾患(パントテン酸キナーゼ関連神経変性症等の他のNBIA)との鑑別が必要です。
治療・ケア
根治療法はありません。鉄キレート療法(デフェリプロン)が鉄の蓄積を減少させる可能性があります。不随意運動にはクロナゼパム・バルプロ酸を使用します。症状に応じてリハビリテーション(言語療法・作業療法)を行います。遺伝カウンセリングが家族計画において重要です。
予後・経過
通常40〜55歳に発症し、10〜20年で著明な機能低下を来します。進行速度には個人差があります。誤嚥性肺炎・感染症が死因となることが多いです。
この疾患の重要ポイント
- •稀な遺伝性疾患(NBIAの一型)——若年発症の不随意運動・認知症では鉄代謝異常を疑う
- •「血清フェリチン低値」という逆説的な所見(体内には鉄過剰なのに血清では低値)が診断の手がかり
- •MRIのT2低信号(基底核の鉄沈着)が特徴的
- •常染色体優性遺伝——子への遺伝確率50%、遺伝カウンセリングが不可欠
- •鉄キレート療法が現時点での数少ない治療選択肢——早期からの専門施設での管理が重要
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