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基礎知識の解説
パーキンソン病による認知症とは
パーキンソン病に伴う認知症(PDD)は、パーキンソン病の運動症状発症から1年以上後に認知症が現れた状態を指します。レビー小体型認知症(DLB)と同じαシヌクレイン病理を持ちながら、症状の出現順序によって診断が区別されます(1年ルール)。パーキンソン病患者の約30〜40%に認知症が合併し、発症後10〜15年での出現が多いとされます。視空間認識障害・注意変動・幻視がアルツハイマー型との重要な鑑別点です。
主な症状
- 1思考・動作の処理速度の低下(質問への反応が著しく遅れる)
- 2注意力・集中力の変動(日内・日間で大きく揺れる覚醒度)
- 3視覚空間認識の障害(時計描画・立方体模写に顕著な低下)
- 4実行機能障害(計画・段取り・切り替えの困難)
- 5幻視(小人・動物・虫など、形が明瞭で繰り返し出現する)
- 6レム睡眠行動障害(夢に連動した激しい寝言・体動・叫び声)
- 7抑うつ・アパシー(意欲の低下)・不安
- 8記憶障害(エピソード記憶よりも処理速度・注意が先行して低下)
- 9既存のパーキンソン症状(振戦・筋固縮・すくみ足)の悪化
- 10自律神経障害(起立性低血圧・便秘・排尿障害)の増悪
症状の進行
手の振戦・動作の遅さ・筋固縮(パーキンソン症状)
嗅覚低下・便秘・睡眠時の異常行動(REM睡眠行動異常症)
抑うつ・不安が早期から現れることがある
レボドパ治療が有効な時期
記憶・注意・処理速度・実行機能の低下が出現
リアルな幻視(人・動物が見える)が現れる
日によって認知機能が変動する
転倒が増加し外出が困難になる
レボドパの効果にムラが出る(wearing-off)
高度認知症・家族の顔がわからなくなる
嚥下障害・誤嚥性肺炎リスク増大
歩行不能・寝たきり
幻覚・妄想が激しくなることがある
全面的な介護が必要
※ 進行速度・症状の現れ方は個人差が大きく、必ずしも順序通りに進むとは限りません。
原因・メカニズム
原因・メカニズム
αシヌクレインが脳幹(迷走神経背側核・黒質)から大脳辺縁系、さらに大脳皮質へと段階的に広がるブラーク病期分類(Braak staging)において、PDDはstage V〜VIに相当するびまん性皮質病変を示します。αシヌクレインのレビー小体・レビー神経突起として皮質神経細胞に蓄積することで、前頭葉・側頭葉・頭頂葉の神経細胞死が生じます。
認知機能に関わるアセチルコリン系(脳底部マイネルト核由来)とドーパミン系(中脳-辺縁系・中脳-皮質経路)の両方が障害されることが、PDDの特徴的な薬物療法上の複雑さをもたらします。幻視の発現にはアセチルコリン系の低下と後頭葉・側頭葉の視覚処理系の障害が関与します。アルツハイマー病変(アミロイドβ・タウ)が合併することも多く、混合型病理がPDDの認知機能低下を加速させる場合があります。
診断
診断
パーキンソン病(UK PD Society Brain Bank 基準またはMDS基準で診断)の診断から1年以上後に認知症が発症したことを確認することがPDD診断の要件です(1年ルール)。この境界がPDDとDLBを区別する臨床的定義であり、認知症がパーキンソン症状に先行した場合または1年以内に出現した場合はDLBと診断します(MDS Task Force 2005基準)。
神経心理検査では視空間認識(時計描画・立方体模写)・注意・実行機能を重視した評価を行います。MoCAやMATIS(Mattis Dementia Rating Scale)が汎用されます。DaTスキャン(123I-FP-CIT SPECT)でドーパミントランスポーターの低下を確認し、心臓MIBGシンチグラフィで自律神経障害(H/M比低下)を評価することがDLBとの鑑別補助に使われます。リバスチグミン貼付剤はPDDに対して日本国内で唯一保険適用を持つコリンエステラーゼ阻害薬です(DLBへの適用は現時点では保険外)。
治療・ケア
治療・ケア
認知症・精神症状に対してはリバスチグミン貼付剤(Exelon パッチ)が第一選択です。4.5mg/日から開始し、皮膚刺激・消化器症状(悪心・食欲不振)を確認しながら4週ごとに9mg/日、18mg/日へ増量します。増量は緩やかに行い、最大18mg/日を維持します。
パーキンソン症状の治療はL-ドーパを基本とし、認知機能への影響が強いドーパミンアゴニスト・アマンタジンは可能な限り減量・中止を検討します。抗精神病薬は原則禁忌(パーキンソン症状の著しい悪化リスク)ですが、クエチアピンは例外的に少量(12.5〜25mg)使用されることがあります。REM睡眠行動障害にはクロナゼパム 0.25〜0.5mg(就寝前)が有効です。
非薬物療法として理学療法(転倒予防・歩行訓練・バランス訓練)、作業療法(日常生活動作の補助具・環境整備)、言語療法(嚥下評価・訓練)が重要です。デイサービス・ショートステイを早期から活用し、介護者の燃え尽き予防を図ることが長期的なケアを持続させる鍵です。
予後・経過
予後・経過
PDD発症後の平均余命は2〜5年程度とされます。転倒・骨折・誤嚥性肺炎が予後を悪化させる主な要因です。認知症発症前からの適切な運動療法・リハビリテーションの継続が、転倒リスクの軽減と生活機能の維持に効果があります。進行に伴い24時間介護が必要となる場合が多く、介護者家族への心理的・社会的サポートが不可欠です。
パーキンソン病による認知症の重要ポイント
パーキンソン病診断から1年以上後に認知症が出た場合はPDD、1年以内または認知症が先行した場合はDLB——「1年ルール」で区別する
リバスチグミン貼付剤(4.5mg→9mg→18mg/日)がPDDに対して日本国内で唯一保険適用を持つコリンエステラーゼ阻害薬
抗精神病薬のほとんどはパーキンソン症状を著しく悪化させる危険があり、原則禁忌——幻視への薬物治療は専門医に必ず相談する
転倒リスクが非常に高く、住環境整備(段差解消・手すり設置・滑り止め)と理学療法による歩行訓練が急務
視空間認識障害・注意変動・幻視がアルツハイマー型との重要な鑑別点——神経心理検査で視空間機能を重点的に評価する
長年のパーキンソン病介護に加わる認知症——介護者の燃え尽きへの支援(デイ・ショートステイの積極的活用)が特に重要
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