分類1変性性認知症10分で読めます医師査読済 · 2026年6月

パーキンソン病による認知症とは?

運動症状に続いて現れる認知機能低下

この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

「薬を飲んでくれない」「どう管理すればいい?」という医療的な疑問を認知症を専門とする医師に相談できます。初回¥500〜。

相談する

体験談・具体的な事例

森田正樹さん(仮名・74歳)がパーキンソン病と診断されたのは10年前のことでした。当初は左手の静止時振戦と歩行のぎこちなさから始まり、L-ドーパとドーパミンアゴニストの服薬で日常生活は十分に送れていました。毎朝の散歩と囲碁が楽しみで、診断後も地域のサークル活動に積極的に参加していました。 変化が現れたのは7年が経過したころです。妻の礼子さんが最初に気づいたのは「物忘れ」ではなく、「動作の前の長い沈黙」でした。「お茶飲む?」と聞いても返事まで10秒かかる。テレビを見ていても、笑うタイミングが少し遅い。思考の速度そのものが落ちているような印象でした。 やがて夜間に激しい寝言が出るようになりました。夢を見ながら大声を上げ、手足を振り回す。「助けて!」と叫ぶ正樹さんを起こすと、「暗い場所に閉じ込められている夢を見た」と言い、夢の内容を細部まで覚えていました。日中には部屋の隅を小人が歩いているという幻視も現れ始め、礼子さんには何も見えないのに「あそこに子どもが座っている」と正樹さんが指差しました。 神経内科の外来で、担当医は詳しい認知機能評価を行いました。MMSE(ミニメンタルステート検査)は26点でしたが、時計描画テストと立方体模写では明らかな視空間認識の障害が確認されました。「時計の数字が左側に偏って描かれています。視覚空間機能の低下が特徴的です」と医師は礼子さんに説明しました。パーキンソン病の診断から9年が経過した時点での認知症の出現であり、「パーキンソン病に伴う認知症(PDD)」と診断されました。 担当医から「パーキンソン病の薬と認知症の薬のバランスが非常に難しい病気です」と説明がありました。L-ドーパを増やせばパーキンソン症状は改善しますが幻視が増悪する。幻視に対して抗精神病薬を使うと、パーキンソン症状が著しく悪化する。「抗精神病薬の多くはパーキンソン症状を悪化させるため、原則として使用できません」という制約の中での治療が始まりました。 リバスチグミン貼付剤(4.5mg/日)を開始したのはそれからまもなくのことでした。2週間後に9mg/日へ、さらに4週後に18mg/日へと段階的に増量しました。3か月後には「幻視の頻度が週5回から2回程度に減った気がする」と礼子さんが報告しました。夜間の激しい寝言にはクロナゼパム 0.25mg を就寝前に追加したところ、礼子さんも眠れるようになりました。 礼子さんの介護負担は年々増していました。週3回のデイサービスを導入し、ケアマネジャーと相談しながら入浴・移動の補助を組み込みました。「デイサービスで楽しそうに囲碁をやっているとスタッフから聞いて、泣きそうになりました」と礼子さんは言います。「病気でも、あの人らしさはまだ残っているんだと思って」。正樹さんは今日も、状態の良い午前中に囲碁の棋譜を眺めています。

基礎知識の解説

パーキンソン病による認知症とは

パーキンソン病に伴う認知症(PDD)は、パーキンソン病の運動症状発症から1年以上後に認知症が現れた状態を指します。レビー小体型認知症(DLB)と同じαシヌクレイン病理を持ちながら、症状の出現順序によって診断が区別されます(1年ルール)。パーキンソン病患者の約30〜40%に認知症が合併し、発症後10〜15年での出現が多いとされます。視空間認識障害・注意変動・幻視がアルツハイマー型との重要な鑑別点です。

主な症状

  • 1思考・動作の処理速度の低下(質問への反応が著しく遅れる)
  • 2注意力・集中力の変動(日内・日間で大きく揺れる覚醒度)
  • 3視覚空間認識の障害(時計描画・立方体模写に顕著な低下)
  • 4実行機能障害(計画・段取り・切り替えの困難)
  • 5幻視(小人・動物・虫など、形が明瞭で繰り返し出現する)
  • 6レム睡眠行動障害(夢に連動した激しい寝言・体動・叫び声)
  • 7抑うつ・アパシー(意欲の低下)・不安
  • 8記憶障害(エピソード記憶よりも処理速度・注意が先行して低下)
  • 9既存のパーキンソン症状(振戦・筋固縮・すくみ足)の悪化
  • 10自律神経障害(起立性低血圧・便秘・排尿障害)の増悪

症状の進行

初期(パーキンソン病発症期)パーキンソン病発症〜数年
  • 手の振戦・動作の遅さ・筋固縮(パーキンソン症状)

  • 嗅覚低下・便秘・睡眠時の異常行動(REM睡眠行動異常症)

  • 抑うつ・不安が早期から現れることがある

  • レボドパ治療が有効な時期

中期(認知症発症期)パーキンソン病発症後1〜10年
  • 記憶・注意・処理速度・実行機能の低下が出現

  • リアルな幻視(人・動物が見える)が現れる

  • 日によって認知機能が変動する

  • 転倒が増加し外出が困難になる

  • レボドパの効果にムラが出る(wearing-off)

後期(高度認知症期)認知症発症後数年以降
  • 高度認知症・家族の顔がわからなくなる

  • 嚥下障害・誤嚥性肺炎リスク増大

  • 歩行不能・寝たきり

  • 幻覚・妄想が激しくなることがある

  • 全面的な介護が必要

※ 進行速度・症状の現れ方は個人差が大きく、必ずしも順序通りに進むとは限りません。

原因・メカニズム

αシヌクレインが脳幹(迷走神経背側核・黒質)から大脳辺縁系、さらに大脳皮質へと段階的に広がるブラーク病期分類(Braak staging)において、PDDはstage V〜VIに相当するびまん性皮質病変を示します。αシヌクレインのレビー小体・レビー神経突起として皮質神経細胞に蓄積することで、前頭葉・側頭葉・頭頂葉の神経細胞死が生じます。

認知機能に関わるアセチルコリン系(脳底部マイネルト核由来)とドーパミン系(中脳-辺縁系・中脳-皮質経路)の両方が障害されることが、PDDの特徴的な薬物療法上の複雑さをもたらします。幻視の発現にはアセチルコリン系の低下と後頭葉・側頭葉の視覚処理系の障害が関与します。アルツハイマー病変(アミロイドβ・タウ)が合併することも多く、混合型病理がPDDの認知機能低下を加速させる場合があります。

診断

パーキンソン病(UK PD Society Brain Bank 基準またはMDS基準で診断)の診断から1年以上後に認知症が発症したことを確認することがPDD診断の要件です(1年ルール)。この境界がPDDとDLBを区別する臨床的定義であり、認知症がパーキンソン症状に先行した場合または1年以内に出現した場合はDLBと診断します(MDS Task Force 2005基準)。

神経心理検査では視空間認識(時計描画・立方体模写)・注意・実行機能を重視した評価を行います。MoCAやMATIS(Mattis Dementia Rating Scale)が汎用されます。DaTスキャン(123I-FP-CIT SPECT)でドーパミントランスポーターの低下を確認し、心臓MIBGシンチグラフィで自律神経障害(H/M比低下)を評価することがDLBとの鑑別補助に使われます。リバスチグミン貼付剤はPDDに対して日本国内で唯一保険適用を持つコリンエステラーゼ阻害薬です(DLBへの適用は現時点では保険外)。

治療・ケア

認知症・精神症状に対してはリバスチグミン貼付剤(Exelon パッチ)が第一選択です。4.5mg/日から開始し、皮膚刺激・消化器症状(悪心・食欲不振)を確認しながら4週ごとに9mg/日、18mg/日へ増量します。増量は緩やかに行い、最大18mg/日を維持します。

パーキンソン症状の治療はL-ドーパを基本とし、認知機能への影響が強いドーパミンアゴニスト・アマンタジンは可能な限り減量・中止を検討します。抗精神病薬は原則禁忌(パーキンソン症状の著しい悪化リスク)ですが、クエチアピンは例外的に少量(12.5〜25mg)使用されることがあります。REM睡眠行動障害にはクロナゼパム 0.25〜0.5mg(就寝前)が有効です。

非薬物療法として理学療法(転倒予防・歩行訓練・バランス訓練)、作業療法(日常生活動作の補助具・環境整備)、言語療法(嚥下評価・訓練)が重要です。デイサービス・ショートステイを早期から活用し、介護者の燃え尽き予防を図ることが長期的なケアを持続させる鍵です。

予後・経過

PDD発症後の平均余命は2〜5年程度とされます。転倒・骨折・誤嚥性肺炎が予後を悪化させる主な要因です。認知症発症前からの適切な運動療法・リハビリテーションの継続が、転倒リスクの軽減と生活機能の維持に効果があります。進行に伴い24時間介護が必要となる場合が多く、介護者家族への心理的・社会的サポートが不可欠です。

パーキンソン病による認知症についてもっと詳しく相談したい方へ

パーキンソン病による認知症に関するご疑問や、ご自身・ご家族の状況に合わせた相談を、認知症を専門とする医師に直接お聞きいただけます。

初回500円・48時間以内に医師が回答

医師査読済コンテンツ

本記事は神経内科・精神科医師 Koba MD, PhD による監修・査読を経て公開しています。 査読日: 2026年6月

査読基準・検証フローを確認する →
公開日:

参考文献

  1. [1]Emre M, Aarsland D, Albanese A, et al.Rivastigmine for dementia associated with Parkinson's disease.N Engl J Med (2004)
  2. [2]Dubois B, Burn D, Goetz C, et al.Diagnostic procedures for Parkinson's disease dementia: recommendations from the movement disorder society task force.Mov Disord (2007)
  3. [3]Aarsland D, Andersen K, Larsen JP, et al.Prevalence and characteristics of dementia in Parkinson disease.Arch Neurol (2003)
  4. [4]日本神経学会パーキンソン病診療ガイドライン2018日本神経学会 (2018)
  5. [5]Braak H, Del Tredici K, Rüb U, et al.Staging of brain pathology related to sporadic Parkinson's disease.Neurobiol Aging (2003)

本サイトの医療コンテンツは医師による査読を経て公開しています。

監修ポリシーを確認する →