分類1|変性性認知症約7分で読めます
パーキンソン病による認知症とは?
運動症状に続いて現れる認知機能低下
この記事は一般的な知識提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
体験談・具体的な事例
渡辺正樹さん(仮名・74歳)がパーキンソン病と診断されたのは10年前のことでした。当初は左手の震えと歩行のぎこちなさから始まり、L-ドーパの服薬で日常生活は十分に送れていました。
変化が現れたのは7年が経過したころです。妻の礼子さんが気づいたのは「物忘れ」ではなく、「動作の前の長い沈黙」でした。「お茶飲む?」と聞いても返事まで10秒かかる。テレビを見ていても、笑うタイミングが少し遅い。思考の速度そのものが落ちているような印象でした。
やがて夜間に激しい寝言が出るようになり、夢を見ながら大声を上げ、手足を振り回します。「助けて!」と叫ぶ正樹さんを起こすと、「暗い場所に閉じ込められている夢を見た」と言います。日中に小人が部屋の隅を歩いているという幻視も現れ始めました。
神経内科での評価で認知機能検査のスコアが明らかに低下しており、「パーキンソン病に伴う認知症」の診断が追加されました。担当医から「パーキンソン病の診断から1年以上経過してから認知症が出た場合、この診断になる」と説明を受けました。
礼子さんにとって難しかったのは、薬の調整でした。幻視に対して抗精神病薬を使いたくても、パーキンソン症状が悪化する危険がある。担当医と相談しながら、コリンエステラーゼ阻害薬の追加と、就寝環境の整備で症状を管理しています。今も正樹さんは毎日の散歩を続けています。
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基礎知識の解説
パーキンソン病による認知症とは
パーキンソン病に伴う認知症(PDD)は、パーキンソン病の運動症状が発症してから1年以上経過した後に認知症が現れた状態を指します。レビー小体型認知症と同じ病理(αシヌクレインの蓄積)を持ちながら、症状の出現順序によって診断が区別されます。パーキンソン病患者の約30〜40%に発症します。
主な症状
- 1思考・動作の処理速度の低下(緩慢な反応)
- 2注意力・集中力の波(変動する覚醒度)
- 3視覚空間認識の障害
- 4実行機能障害(計画・段取りの困難)
- 5幻視(小人・動物・虫など)
- 6レム睡眠行動障害(夢を伴う激しい寝言・動作)
- 7抑うつ・無関心・不安
- 8既存のパーキンソン症状(振戦・筋固縮・歩行障害)の悪化
原因・メカニズム
αシヌクレインが脳幹から大脳皮質に向かって広がり、レビー小体として神経細胞に蓄積します。認知機能に関わるアセチルコリン系・ドーパミン系の両方が障害されることで、運動症状と認知症の両方が生じます。アルツハイマー病変(アミロイド・タウ)が合併することもあります。
診断
パーキンソン病の診断から1年以上後に認知症が発症したことを確認します。認知機能検査、神経心理検査(視覚空間・注意・実行機能重視)を行います。DaTスキャンでドーパミン神経の変性を確認し、心臓MIBGシンチで自律神経障害を評価します。レビー小体型認知症との鑑別は「症状の出現順序」が決め手です。
治療・ケア
コリンエステラーゼ阻害薬(リバスチグミン貼付剤が適応)が認知・行動症状に有効です。パーキンソン症状の治療薬(L-ドーパ)は継続しながら、精神症状との兼ね合いで慎重に調整します。抗精神病薬は原則禁忌(クエチアピンは例外的に使用することがある)。睡眠環境の整備とクロナゼパムがRBDに有効です。
予後・経過
PDDの発症後、平均余命は2〜5年程度です。転倒・誤嚥・肺炎が予後を悪化させます。認知症発症前から適切なリハビリ・運動療法を継続することが、進行を緩やかにする効果があります。
この疾患の重要ポイント
- •「パーキンソン病」の後に認知症が出た場合はPDD、認知症が先行した場合はレビー小体型認知症——1年ルールで区別
- •リバスチグミン貼付剤が認知症に適応を持つ唯一の薬(パーキンソン病に伴う認知症)
- •抗精神病薬はパーキンソン症状を著しく悪化させる危険があり、原則禁忌
- •転倒リスクが非常に高く、住環境の整備(段差解消・手すり設置)が急務
- •長年のパーキンソン病介護に加わる認知症——介護者の燃え尽きへの支援が特に重要
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