同じ質問を繰り返されても、初めて聞いたように答える
記憶障害による不安を理解し、毎回穏やかに対応することで安心感を提供
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
同じ質問を繰り返すのは、記憶障害による不安の表れです。毎回丁寧に答えることで、安心感を与え、信頼関係を深められます。
体験談
母が「今日は何曜日?」と1日に何十回も聞いてきた時期がありました。朝起きてから夜寝るまで、本当に数えきれないほどです。
最初の頃は正直、イライラしていました。「さっき言ったでしょ」「カレンダー見て」と、つい強い口調で返してしまうこともありました。でも、母は私の言葉に傷ついた表情を見せ、さらに不安そうな顔で、また同じ質問を繰り返すのです。
ある日、ふと気づきました。母の目を見ると、そこには「混乱」と「不安」が渦巻いていました。母は決して私を困らせようとしているわけではない。本当に分からなくて、不安で、誰かに確認したいのだと。
その日から、対応を変えました。「今日は火曜日だよ」と、毎回初めて聞かれたかのように、穏やかに答えるようにしたのです。時には「今日は○○さんが来る日だね」と予定も添えて。すると驚いたことに、母の表情が和らぎ、質問の頻度も少しずつ減っていきました。
安心すると、同じことを確認する必要が減るのかもしれません。今では、この繰り返しの質問を「母との会話のきっかけ」「コミュニケーションの時間」と捉えています。同じやりとりでも、母の笑顔を見られる瞬間は何度あっても嬉しいものです。
— 70代の母(アルツハイマー型認知症・中等度)を在宅介護する50代女性
詳しく知る
なぜ同じことを何度も聞くのか
なぜ同じことを何度も聞くのか
認知症のある方が同じ質問を繰り返すのは、単なる記憶障害だけではありません。その背景には、いくつかの要因が絡み合っています。
短期記憶の障害
認知症、特にアルツハイマー型認知症では、新しい記憶を保持する力が最初に衰えます。数分前、場合によっては数秒前に聞いたことでさえ、記憶に残りません。そのため、本人にとっては毎回が「初めての質問」なのです。
私たちは「さっき言ったのに」と思いますが、本人には「さっき」の記憶がありません。これは決して、話を聞いていなかったわけでも、忘れようとしているわけでもないのです。
見当識障害による不安
見当識とは、「今がいつなのか」「ここがどこなのか」「自分が誰なのか」を認識する能力です。認知症が進むと、この見当識が障害されます。
朝起きても、今日が何曜日か、何月か、場合によっては何年かも分からない。自分が今、自宅にいるのか、どこか知らない場所にいるのかも判然としない。そんな状態を想像してみてください。きっと、強い不安と混乱に襲われるはずです。
その不安を和らげるために、「今日は何曜日?」「ここはどこ?」と何度も確認したくなる。これは自然な心理反応です。
安心を求めるコミュニケーション
時には、質問の内容そのものよりも、誰かとつながっていたいという気持ちが背景にあることもあります。
不安な時、人は誰かに話しかけたくなります。しかし認知症が進むと、新しい話題を思いつくことが難しくなります。だから何度も同じ質問を繰り返すことで、「会話」を成立させようとしているのかもしれません。
💬 「でも、正直しんどいです…」
💬 「でも、正直しんどいです…」
介護経験者からのアドバイス
「理屈では分かっていても、現実は大変ですよね。私も最初は『また?』『さっき言ったのに…』と心の中で何度も叫びました。
大事なのは、完璧を目指さないことです。毎回穏やかに対応できなくても、それは当然のこと。イライラしてしまった時は、『ごめんね、疲れてたの』と素直に謝れば大丈夫です。
私が見つけた小さなコツは、答えのバリエーションを増やすことでした。『今日は火曜日だよ』『そう、火曜日。ゴミの日だね』『火曜日。明日は水曜日で病院の日だよ』など、少し違う答え方をすると、自分も飽きにくくなります。
あとは、家族で『交代制』にすること。『今日は私が対応する』と決めて、他の家族は別の部屋に避難。これだけでも、精神的な負担がかなり軽くなりました。」
具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
実践のステップ
質問されたら、相手の目を見て、穏やかな表情で答える
「さっき言った」「何度も聞かないで」という言葉は使わない
深呼吸をして、心を落ち着けてから答える
カレンダーや時計を見やすい場所に大きく掲示する
答えに「今日の予定」などのプラス情報を添える
質問の背景にある不安(トイレの場所、予定など)を想像する
可能なら、「大丈夫ですよ」などの安心の言葉を添える
家族で交代制にして、対応の負担を分散させる
注意点
ただし、あまりにも頻繁に質問が続く場合は、他の原因(身体的不快感、薬の副作用、環境の変化、感染症、脱水など)がないか観察しましょう。不安が強い場合や、興奮・攻撃性を伴う場合は、主治医に相談することも大切です。
こんな場合は当てはまらないことも
あまりにも頻繁に質問が続く場合や、明らかに様子がおかしい場合は、身体的不快感、薬の副作用、環境の変化、感染症・脱水、うつや不安障害の合併などの可能性を疑い、穏やかな声かけだけで対応を続けず、主治医に相談してください。
応用・バリエーション
質問の内容によっては、メモや張り紙で答えを示すこともできます。ただし、本人が文字を読めること、メモに気づけることが前提です。写真やイラストを使った「予定ボード」も有効です。視覚的な手がかりは、言葉での説明を補完するツールとして活用しましょう。
まとめ
このヒントのポイント
同じ質問=記憶障害+不安の表れ
毎回「初めて聞いた」かのように対応
穏やかな態度で安心感を提供
禁句(「さっき言った」など)を避ける
環境の工夫で質問を減らせることも
質問の背景にある本当のニーズを想像
頻度が極端な場合は医師に相談
完璧を目指さず、できる範囲で対応
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根拠について:同じ質問の繰り返しに対して否定・訂正を避け穏やかに答え続ける対応が本人の不安軽減に資するという考え方は認知症ケアの実践知として広く共有されているが、効果を厳密に検証した比較研究は限定的である。