目線を合わせ、穏やかな表情で接する
非言語コミュニケーションで安心感と尊重を示す
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
上から見下ろすような姿勢で話しかけると、本人に威圧感や不安を与えてしまうことがあります。目線を合わせ、穏やかな表情で接することで、非言語的な安心感を伝えることができます。
体験談
義父(83歳、レビー小体型認知症)は、車椅子での生活が中心になってから、家族が立ったまま話しかけると、急に不安げな表情になったり、時に「誰だ」と身構えるような反応を見せたりすることがありました。
最初は「認知機能が落ちて、家族の顔も分からなくなってきたのか」と落ち込みましたが、訪問看護師さんが来たとき、彼女は必ず義父の目線の高さまでしゃがんでから話しかけていることに気づきました。真似をして、私も義父と話すときは必ずしゃがむか、椅子に座って目線を合わせるようにしてみました。
すると、同じ「おはよう、調子はどう?」という声かけでも、義父の反応がまるで違いました。見上げる格好で話しかけられたときの警戒した表情がなくなり、穏やかに「ああ、おはよう」と返してくれるようになったのです。
上から見下ろされる格好は、無意識のうちに『威圧されている』『見張られている』という感覚を与えてしまうのかもしれません。目線の高さを合わせるという、ほんの少しの工夫だけで、義父が心を開いてくれる度合いが大きく変わったことに驚きました。
— 83歳の義父(レビー小体型認知症、車椅子使用)と同居する家族
詳しく知る
なぜ目線の高さが安心感に影響するのか
なぜ目線の高さが安心感に影響するのか
認知症が進むと、言葉の意味を正確に理解する力が低下する一方で、表情、声のトーン、姿勢といった非言語的な情報を読み取る感覚は、比較的保たれやすいとされています。
上から見下ろされる姿勢は、多くの人にとって本能的に「威圧」「支配」を連想させます。特に車椅子や寝たきりで過ごす時間が長い方にとって、見上げる形での会話は日常的に繰り返される体験であり、無意識の不安や緊張につながっている可能性があります。
言葉の内容がどれだけ優しくても、姿勢や表情という非言語的なメッセージが「警戒すべき状況」を伝えてしまうと、本人は言葉通りには受け取れなくなってしまいます。
目線を合わせる工夫
目線を合わせる工夫
1しゃがむ、または椅子に座る
車椅子や椅子、ベッドで過ごしている方に話しかけるときは、可能な限りしゃがむか、隣に座って目線の高さを合わせましょう。
2正面から近づきすぎない距離で向き合う
真後ろや真横から急に声をかけると驚かせてしまうことがあります。本人の視界に入るよう、正面からゆっくり近づき、適度な距離を保ちながら向き合いましょう。
3穏やかな表情を意識する
忙しさや疲れが表情に出てしまうと、本人はそれを敏感に感じ取ります。話しかける前に一呼吸置き、穏やかな表情を心がけましょう。
4ゆったりとした動作で近づく
急な動きは驚きや警戒心を引き起こすことがあります。ゆっくりとした動作で近づき、声をかけながら関わりましょう。
💬 「言葉かけを変えても反応が変わらなかった」
💬 「言葉かけを変えても反応が変わらなかった」
介護経験者からのアドバイス
「声かけの言葉を工夫しても、義父の緊張した表情は変わりませんでした。でも、姿勢を変えただけで、こんなに反応が違うのかと驚きました。
今では、話しかける前に必ず目線を合わせることを習慣にしています。忙しいときはつい省略しそうになりますが、このひと手間が、義父が安心して会話に応じてくれるかどうかを大きく左右すると実感しています。」
表情や姿勢で伝わること
表情や姿勢で伝わること
- 穏やかな表情 → 安心感、受け入れられている感覚
- 険しい表情、急いだ様子 → 不安、緊張
- 目線を合わせる → 対等な関係、尊重されている感覚
- 見下ろす姿勢 → 威圧感、支配される感覚
非言語的なメッセージは、言葉以上に本人の情緒に直接働きかけることがあります。
こんな時は医療機関に相談
こんな時は医療機関に相談
- 目線を合わせ、穏やかに接しても、強い警戒心や恐怖の反応が続く
- 特定の人物や状況に対してのみ、極端な不安や攻撃的な反応を示す
- 幻視や誤認(レビー小体型認知症などで見られる)が疑われる言動がある
こうした場合は、対応の工夫だけで様子を見ず、かかりつけ医や専門医に相談してください。
まとめ:言葉より先に、姿勢と表情が伝わる
まとめ:言葉より先に、姿勢と表情が伝わる
認知症のある方とのコミュニケーションでは、話す内容と同じくらい、目線の高さや表情、姿勢といった非言語的な要素が重要な意味を持ちます。目線を合わせ、穏やかな表情で接することを意識するだけで、本人が感じる安心感は大きく変わります。
実践のステップ
車椅子や椅子、ベッドで過ごす本人に話しかけるときはしゃがむか座って目線を合わせる
真後ろや真横からではなく、視界に入る正面からゆっくり近づく
話しかける前に一呼吸置き、穏やかな表情を意識する
急な動作を避け、ゆったりとした動きで近づく
本人の表情の変化を観察し、緊張や警戒が見られたら距離や声のトーンを調整する
注意点
目線を合わせ穏やかに接しても強い警戒心や恐怖の反応が続く場合、または特定の人物・状況に対して極端な不安や攻撃的な反応を示す場合は、幻視や誤認など他の症状が関わっている可能性があります。かかりつけ医や専門医に相談してください。
応用・バリエーション
本人がまぶしさや光の反射に敏感な場合、逆光になる位置を避けて話しかけることも工夫の一つです。聴力が低下している場合は、目線を合わせることに加えて、口元が見える位置から話すと、表情や口の動きから内容を読み取りやすくなります。
まとめ
このヒントのポイント
非言語的な情報(表情・姿勢・目線)は言葉以上に伝わることがある
見下ろす姿勢は威圧感や不安を与えることがある
しゃがむ・座るなどして目線の高さを合わせる
穏やかな表情とゆったりした動作を心がける
強い警戒や恐怖が続く場合は他の症状の可能性も考える
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