「わかっていますよ」と示す相槌で安心させる
共感的傾聴で孤独感を和らげる
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
同じ訴えが繰り返されるとき、その言葉の奥には孤独感や不安が隠れていることがあります。「わかっていますよ」と示す相槌や共感的な傾聴によって、事実確認よりも先に気持ちを受け止めることが、本人の安心につながります。
体験談
義母(82歳、アルツハイマー型認知症)は、一日に何度も「お財布がない、盗まれた」と訴えてくることがありました。最初の頃は、そのたびに一緒に探し、見つかると「ほら、ここにあったでしょう」と説明していましたが、しばらくするとまた同じ訴えが繰り返され、正直なところうんざりしてしまうこともありました。
ある日、あまりに続くので、つい「さっきも探したでしょう、いい加減にして」と強い口調で返してしまいました。すると義母は、深く傷ついた表情を見せ、それ以降、私に対してどこか距離を置くような態度を取るようになってしまいました。
反省し、ケアマネジャーさんに相談したところ、「『お財布がない』という言葉の奥には、『何か大切なものを失うかもしれない』という漠然とした不安があるのかもしれません。事実の確認より、まず気持ちに寄り添ってみては」とアドバイスされました。
それから、義母が訴えてきたときは、「それは心配ですね、一緒に探しましょうね」と、まず不安な気持ちを受け止めるようにしました。すると、以前よりも義母の表情が和らぎ、私自身も「また同じ話か」と身構えることが減りました。訴えの内容そのものより、その奥にある気持ちに耳を傾けることの大切さを実感しました。
— 82歳の義母(アルツハイマー型認知症)を介護する54歳嫁
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なぜ同じ訴えが繰り返されるのか
なぜ同じ訴えが繰り返されるのか
認知症のある方が「物がない」「誰かに何かされた」といった訴えを繰り返す背景には、直前の出来事を忘れてしまうという記憶の障害だけでなく、漠然とした不安や孤独感が関係していることがあります。
本人にとっては、財布そのものよりも「大切なものが失われるかもしれない」「自分の居場所が危うい」という、より根源的な不安が言葉として表れている場合があります。この場合、事実(「財布はここにありました」)を伝えるだけでは、根本にある不安は解消されず、同じ訴えが繰り返されることになります。
共感的傾聴とは
共感的傾聴とは
共感的傾聴とは、本人の話す内容の事実確認よりも先に、その言葉の奥にある感情(不安、心配、寂しさなど)を汲み取り、「わかっていますよ」という姿勢を言葉や態度で示す関わり方です。
具体的な相槌・言葉かけの例
- 「それは心配ですね」「不安になりますよね」(気持ちへの共感)
- 「一緒に探しましょうね」(協力する姿勢を示す)
- 「大切なものだから、心配になりますよね」(訴えの背景にある価値観を認める)
事実を否定も肯定もせず、まず気持ちを受け止める言葉を挟むことがポイントです。
💬 「同じ話にうんざりしてしまいました」
💬 「同じ話にうんざりしてしまいました」
介護経験者からのアドバイス
「正直、何度も同じ訴えを聞くのは疲れますし、『さっきも言ったでしょう』と言いたくなる気持ちもよく分かります。私も一度、強い口調で返してしまい、義母を深く傷つけてしまったことがあります。
でも、事実よりも気持ちに焦点を当てて『それは心配ですね』と伝えるようにしてから、義母の様子も、私自身の気持ちも、ずいぶん楽になりました。訴えの中身ではなく、その奥にある気持ちに耳を傾けることが大切なんだと学びました。」
傾聴の心構えや、介護者自身の休息の取り方については下の実践のステップを参考にしてください。
実践のステップ
訴えを聞いたら、まず『それは心配ですね』と気持ちに共感する言葉をかける
事実確認をいそがず、『一緒に探しましょうね』など協力する姿勢を示す
表情や声のトーンを穏やかに保ち、話を最後まで聞く
同じ訴えの回数を数えたり、いちいち正そうとしたりしない
介護者自身が疲弊しないよう、デイサービスなどを活用し休息の時間を確保する
注意点
『物を盗まれた』といった訴えが特定の人物に強く向けられ関係性に深刻な支障が出ている場合や、不安の訴えが非常に頻繁で日常生活に大きな影響が出ている場合は、一人で抱え込まず、ケアマネジャーや認知症専門医に相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
『それは心配ですね』という共感の言葉が、本人には訴えの内容(例えば『誰かに盗まれた』)を家族が認めたと受け取られ、疑われている家族への非難がかえって強まってしまうことがあります。気持ちに寄り添いつつも、特定の人物への疑いを肯定するような相槌にならないよう、言葉の選び方には注意が必要です。
応用・バリエーション
同じ訴えが特定の時間帯(夕方など)に集中する場合は、その時間帯に一緒に過ごす、軽い活動を取り入れるなど、不安を感じやすい時間帯そのものへの対応を工夫することも有効です。
まとめ
このヒントのポイント
繰り返される訴えの奥には不安や孤独感が隠れていることがある
事実確認より先に気持ちに共感する(共感的傾聴)
『それは心配ですね』など気持ちを受け止める言葉が有効
介護者自身の疲弊にも目を向け、休息の時間を確保する
特定の人物への強い訴えや妄想的な内容は専門家に相談する
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根拠について:共感的傾聴が認知症のある方の不安や孤独感を和らげるという考え方は認知症ケアの手法として広く実践されているが、効果を厳密な比較試験で検証した研究は限定的であり、状況に応じた柔軟な対応が求められる。