ゆっくり、はっきり、短い言葉で話しかける
理解しやすいペースと明瞭な発音で、情報を確実に伝える
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
認知症があると、話す速さや情報量によって、理解できるかどうかが大きく左右されます。ゆっくり、はっきり、一度に一つの短い文で伝えることで、本人の理解力を最大限に引き出しやすくなります。
体験談
父(79歳、アルツハイマー型認知症)に話しかけるとき、私は早口で、一度にたくさんの情報を詰め込んで話す癖がありました。「今日は病院に行くから、着替えて、薬を飲んで、それから車に乗ってね」というふうに。父はいつも困惑した表情を浮かべ、「え、何だって?」と聞き返すか、あるいは何も答えずぼんやりしてしまうことが多くありました。
私は「症状が進んで、理解力が落ちたんだな」と思い込んでいました。しかし、言語聴覚士の訪問指導を受けた際、「お父様の理解力の問題というより、情報量とスピードの問題かもしれません」と指摘され、驚きました。
試しに、「今日は病院に行きます」とだけ、ゆっくりはっきり伝えてみました。父は「ああ、病院か」とすぐに反応しました。次に「着替えましょう」とだけ伝えると、迷いなく立ち上がりました。一つずつ、短く、ゆっくり伝えるようにしただけで、父の理解度も反応の速さも、目に見えて変わりました。
それまで「認知症が進んだから会話が難しい」と諦めかけていましたが、実は私の話し方自体が、父にとって処理しきれない情報量になっていたのだと気づかされました。
— 79歳の父(アルツハイマー型認知症)を在宅介護する50歳息子
詳しく知る
なぜ話し方一つで理解度が変わるのか
なぜ話し方一つで理解度が変わるのか
認知症になると、聞いた言葉を処理し、意味を理解するまでの時間(情報処理の速度)が遅くなることがあります。健常な人にとっては一瞬で理解できる文章でも、認知症のある方にとっては、理解が追いつく前に次の情報が重なってしまい、結果として「分からない」「聞こえていない」ように見えることがあります。
これは理解力そのものの喪失というより、処理速度と情報量のミスマッチによって起きている場合が少なくありません。話し方を調整するだけで、実際の理解力以上に「分からない」状態を作ってしまっていることに気づくことが重要です。
伝わりやすい話し方の基本
伝わりやすい話し方の基本
1ゆっくり話す
普段より心持ちゆっくりのペースで話すことで、本人が言葉を処理する時間を確保できます。
2はっきり発音する
語尾まで明瞭に、口を大きく動かして話すことで、聞き取りやすくなります。特に加齢により聴力が低下している場合、この点はより重要になります。
3短い文で、一度に一つの情報だけを伝える
「着替えて、薬を飲んで、車に乗って」のように複数の指示を一文にまとめず、「着替えましょう」「次はお薬です」というように、一つずつ区切って伝えましょう。
4主語と結論を明確にする
回りくどい言い方より、「今日は病院です」のように、要点を先に伝える方が理解しやすくなります。
💬 「理解力が落ちたと思い込んでいました」
💬 「理解力が落ちたと思い込んでいました」
介護経験者からのアドバイス
「私も、話が通じないのは症状のせいだと決めつけていました。でも、言語聴覚士さんに指摘されて、自分の話し方を録音して聞き返してみたら、驚くほど早口で、情報を詰め込んで話していたことに気づきました。
意識してゆっくり、短く話すようにしてから、父の『え?』という聞き返しが減り、こちらの指示にもスムーズに応じてくれるようになりました。理解力の限界を決めつける前に、自分の話し方を見直す価値は大いにあると思います。」
その他の工夫
その他の工夫
1話しかける前に注意を引く
名前を呼ぶ、軽く肩に触れるなどして、こちらに注意が向いてから話し始めましょう。何かに集中している最中に話しかけても、内容が処理されにくくなります。
2静かな環境で話す
テレビの音や周囲の会話など、雑音が多い環境では、聞き取りや理解がさらに難しくなります。重要な話は、静かな環境で行いましょう。
3繰り返し伝える
一度で伝わらない場合、同じ言葉、同じ言い回しで、焦らずもう一度伝えましょう。言い方を変えると、かえって混乱することもあります。
4理解できたかを確認する
本人の表情やうなずきを見ながら、理解できているかを確認し、必要に応じてもう一度、より簡単な言葉で伝え直しましょう。
こんな時は専門家に相談
こんな時は専門家に相談
- ゆっくり・短く伝える工夫をしても、理解や反応がほとんど見られない
- 急に会話の理解度が大きく低下した
- 難聴が疑われる、または進行している
こうした場合は、認知機能の変化だけでなく、聴力の問題や、言語機能に関わる他の要因(脳血管障害の後遺症など)が関わっている可能性もあります。言語聴覚士や耳鼻科、かかりつけ医への相談を検討しましょう。
まとめ:話し方を変えるだけで、伝わり方が変わる
まとめ:話し方を変えるだけで、伝わり方が変わる
「理解できないのは症状のせい」と決めつける前に、話す速さや情報量を見直してみましょう。ゆっくり、はっきり、一度に一つずつ。この基本を意識するだけで、本人が本来持っている理解力を引き出しやすくなります。
実践のステップ
話す前に名前を呼ぶ、軽く肩に触れるなどして注意を引く
普段よりゆっくりのペースで、はっきりと発音して話す
一文には一つの情報だけを入れ、複数の指示は区切って伝える
回りくどい言い方を避け、結論や要点を先に伝える
テレビなど雑音の多い環境を避け、静かな場所で重要な話をする
一度で伝わらない場合は、同じ言葉・言い回しで繰り返し伝える
注意点
ゆっくり・短く伝える工夫をしても理解や反応がほとんど見られない場合や、急激に会話の理解度が低下した場合は、認知機能の変化だけでなく難聴や他の身体的要因が関わっている可能性があります。自己判断せず、言語聴覚士や耳鼻科、かかりつけ医に相談してください。
応用・バリエーション
言葉だけで伝わりにくい場合は、身振り手振りや実際にやって見せる(模倣を促す)方法、写真やイラストを併用する方法も効果的です。本人の得意な情報の受け取り方(聴覚優位か視覚優位かなど)に合わせて、伝え方を組み合わせましょう。
まとめ
このヒントのポイント
理解の遅れは処理速度と情報量のミスマッチで起きることがある
ゆっくり、はっきり、一度に一つの短い文で伝える
話しかける前に注意を引き、静かな環境で話す
一度で伝わらなければ同じ言葉で繰り返す
理解度が急激に低下した場合は難聴など他の要因も確認する
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