ジェスチャーや写真を使って意思を確認する
言葉が難しくなっても、視覚情報でコミュニケーションを補完
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
言葉での意思疎通が難しくなっても、ジェスチャーや写真、イラストカードなど視覚的な情報を活用することで、本人の意思や気持ちを確認しやすくなります。言葉に頼りきらないコミュニケーション手段を用意しておくことが助けになります。
体験談
祖父(86歳、アルツハイマー型認知症)は、症状が進むにつれて言葉が出にくくなり、「あれ」「それ」といった代名詞ばかりになったり、途中で何を言おうとしていたか分からなくなったりすることが増えました。何かを伝えたいのに言葉にできず、もどかしそうに黙り込んでしまう祖父を見るのが、私にとってもつらい時間でした。
ある日、祖父が何度も同じ方向を指差しながら、うまく言葉にならない様子で訴えていました。何のことか分からず困っていたところ、ふと「トイレに行きたいのかな」と思い、トイレのイラストが描かれたカードを見せてみたところ、祖父は勢いよくうなずきました。
それ以来、「トイレ」「お茶」「痛い」「眠い」など、よく使う言葉を簡単なイラストと文字にしたカードをいくつか用意し、言葉が出てこないときはカードを指差してもらうようにしました。また、家族写真を見せながら「これは誰?」と穏やかに聞くことで、祖父自身が思い出を語ろうとする様子も見られるようになりました。
言葉だけに頼らず、写真やカードという別の手段を用意したことで、祖父はもどかしさから解放され、以前より穏やかに自分の気持ちを伝えられるようになったように感じます。
— 86歳の祖父(アルツハイマー型認知症)と同居する家族
詳しく知る
なぜ言葉が出にくくなるのか
なぜ言葉が出にくくなるのか
認知症が進行すると、言いたいことを言葉に変換する力(言語表出能力)が低下し、うまく言葉が出てこなくなることがあります。これは、伝えたい気持ちや意思そのものがなくなったわけではなく、それを表現する手段が制限されている状態です。
本人にとっては、伝えたいことが伝わらないもどかしさや苛立ちが大きなストレスになることがあり、これが不安やBPSD(行動・心理症状)の一因になることもあります。言葉以外の伝達手段を用意することは、本人のもどかしさを減らし、意思疎通の可能性を広げることにつながります。具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「何を伝えたいのか分からず、お互いつらかった」
💬 「何を伝えたいのか分からず、お互いつらかった」
介護経験者からのアドバイス
「祖父が言葉に詰まって黙り込んでしまう姿を見るのが、本当につらかったです。何を求めているのか分からず、私も焦ってしまうことがありました。
でも、カードや写真という『別の言葉』を用意したことで、お互いの負担がぐっと減りました。言葉が出なくても、伝える手段はまだあるんだと知ってから、祖父との会話が怖くなくなりました。」
実践のステップ
『トイレ』『お茶』『痛い』など日常でよく使う言葉をイラストと文字のカードにしておく
言葉での説明より実物を見せながら選んでもらう
家族写真やアルバムを見せながら会話し、うなずきや表情で気持ちを確認する
一度に見せるカードや選択肢は2〜3枚程度に絞る
本人の指差しや表情、うなずきを焦らず待つ
意思が伝わったら『そうか、〇〇だったんだね』と確認の言葉を添える
注意点
視覚的な手段を使っても意思疎通がほとんどできない場合や、言葉が出ないことへの苛立ちが強く不安や興奮が目立つ場合は、家庭内の工夫だけで対応せず、言語聴覚士やかかりつけ医に相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
視覚的な手段を活用しても意思疎通がほとんどできない場合、または言葉が出ないことへの苛立ちが強く不安・興奮が目立つ場合は、言語聴覚士やかかりつけ医に相談し、本人に合ったコミュニケーション方法の助言を受けてください。
応用・バリエーション
文字の読み書きが難しい段階では、イラストや実物中心のカードに切り替えましょう。逆に、比較的言葉の理解が保たれている段階では、簡単な単語を書いたメモを使う方法も有効な場合があります。
まとめ
このヒントのポイント
言葉が出にくくなっても伝えたい気持ちは残っている
イラストカードや写真、実物の提示が意思疎通の助けになる
選択肢は少なめにし、本人の反応を焦らず待つ
意思が伝わったら確認の言葉を添える
急激な理解力低下や強い苛立ちが見られる場合は専門家に相談する
関連するヒント
根拠について:視覚的な補助手段(イラスト・写真・実物)が言語表出の困難な認知症のある方の意思疎通を助けるという考え方は言語聴覚療法の現場で広く実践されているが、方法ごとの効果を厳密に比較検証した研究は限定的である。