選択肢は2つまでに絞って提示する
判断の負担を減らし、自己決定を支援する
医療監修
Yuya Kobayashi, MD, PhD
認知症専門外来・在宅診療医
「何がいい?」というオープンな質問は、選択肢が多すぎて本人の負担になっていることがあります。「AとB、どちらがいい?」と2つまでに絞って聞くことで、判断の負担を減らし、本人の自己決定を支援できます。
体験談
母(78歳、血管性認知症)に「今日は何を着る?」「お昼は何が食べたい?」と、以前と同じようにオープンな質問で聞いていたところ、母はいつも困った表情で黙り込んでしまい、最終的に「なんでもいい」「わからない」と答えるだけになっていました。
「選ぶ気力もなくなったのかな」と寂しく思っていましたが、リハビリの作業療法士さんに相談したところ、「選択肢が多すぎたり、漠然とした質問だと、選ぶこと自体が大きな負担になっていることがあります。2つくらいまで絞って聞いてみてください」とアドバイスされました。
試しに、クローゼットから2着の服を出して「こっちの青いのと、こっちの花柄、どっちがいい?」と聞いてみると、母は迷わず「こっちがいいわ」と、青い服を指さしました。お昼も「うどんとおにぎり、どっちがいい?」と聞くと、すぐに「うどんにする」と答えてくれました。
選択肢を絞っただけで、母は驚くほどはっきりと自分の意思を示してくれるようになりました。それまで「選べなくなった」と思っていたのは、実は「選択肢が多すぎて選べなかった」だけだったのかもしれないと気づき、母の中に残っている力に気づかされました。
— 78歳の母(血管性認知症)を介護する48歳娘
詳しく知る
なぜ選択肢を絞ると答えやすくなるのか
なぜ選択肢を絞ると答えやすくなるのか
認知症になると、複数の情報を同時に比較・検討し、その中から一つを選び出すという「実行機能」と呼ばれる能力が低下しやすくなります。「何を着る?」「何が食べたい?」といった漠然とした質問は、頭の中でクローゼットの中身や献立の選択肢を無数に思い浮かべ、それらを比較する必要があり、認知的な負担が大きくなります。
その結果、「わからない」「なんでもいい」という答えになってしまうことがありますが、これは本人の意思や好みがなくなったわけではなく、選択のプロセス自体が難しくなっていることが原因である場合が少なくありません。
選択肢を2つ程度に絞り、実物や具体的な言葉で提示することで、比較・判断の負担が大きく軽減され、本人が本来持っている「好み」や「意思」を引き出しやすくなります。具体的な工夫は下の実践のステップを参考にしてください。
💬 「選ぶ気力がなくなったと思っていました」
💬 「選ぶ気力がなくなったと思っていました」
介護経験者からのアドバイス
「『なんでもいい』が続いたとき、母は何にも興味がなくなったんだと、正直寂しく感じていました。でも、選択肢を2つに絞っただけで、はっきり自分の意見を言ってくれるようになったのは本当に驚きでした。
今では、質問するときは必ず『AとB、どっちがいい?』という形にしています。母の『選ぶ力』は失われていなかったんだと分かって、関わり方に自信が持てるようになりました。」
実践のステップ
『何がいい?』ではなく『AとB、どちらがいい?』と2択で具体的にたずねる
言葉だけでなく実物や写真を見せながら選んでもらう
どちらを選んでも問題がないよう、あらかじめ家族が候補を絞り込んでおく
答えを急かさず、本人のペースで待つ
反応がなければ一つを提案し『これでいい?』と確認する形に切り替える
注意点
2つまで選択肢を絞っても、ほとんど反応や意思表示が見られない場合、または以前は選べていたことが急にできなくなった場合は、認知機能の変化の程度についてかかりつけ医やケアマネジャーに相談してください。
こんな場合は当てはまらないことも
2択に絞ることは判断の負担を減らす工夫ですが、まだ判断力が十分に保たれている段階の方にとっては、『自分で考える余地を奪われた』『子ども扱いされている』と感じさせてしまうことがあります。すべての場面で2択に絞るのではなく、本人の状態に応じてオープンな質問と使い分けることが大切です。
応用・バリエーション
選択肢を絞っても言葉での返答が難しい場合は、実物を目の前に並べて指差しで選んでもらう方法や、うなずき・首振りで答えられるようクローズドな質問(『うどんでいい?』など)に切り替える方法も有効です。
まとめ
このヒントのポイント
オープンな質問は選択肢が多く判断の負担になることがある
選択肢を2つまでに絞ると答えやすくなる
実物や写真を見せながら聞くとさらに判断しやすい
答えを急かさず本人のペースを尊重する
反応が全くない場合は認知機能の変化を専門家に確認する
関連するヒント
根拠について:選択肢を絞った質問(クローズドクエスチョン)が認知症のある方の意思決定支援に有効という考え方はケア現場で広く実践されているが、方法ごとの効果を厳密に比較検証した研究は限定的である。